64話 五十路、凛花を送る。
【登場人物】
福家 拓司。50歳。主人公。執事名【白銀】
白髪、老け顔、草食系、実は……。
小山内凛音 注目の新人女優。りん。本名、凛花。
黒髪ロング、清楚、スレンダー、危険。
北野結 W大ミスキャンパス。YUI。
明るい茶色、ポニーテール、活発。
東雲明美 美しすぎる空手家。Akemi。
暗めの茶、緩めパーマ、グラビアアイドル並のスタイル。
「福家さん、今日はご馳走様でした」
「いえいえ、私も凛花さん達におこしいただいて楽しかったです」
鍋が終わり、三人を送る帰り道、何故か、ローテーションで私の隣に来る方が決まりました。
ジジイの話し相手という事でしょうか気を使わせてしまって申し訳ないです。
最初はおうちの近い凛花さんが話し相手になってくださるそうです。
何故か、後ろのお二人は距離を置いてらっしゃいます。
まあ、大丈夫な距離だとは思いますが、何故?
凛花さんは新人とはいえ女優さんなので、帽子と眼鏡とマスクでしっかり変装していらっしゃいますが、こんなジジイとこの少女では職務質問とかされないでしょうか。
「あの、福家さん……私、今度映画の撮影が決まって……暫くこっちを離れないといけないんです」
「そうなんですね……寂しくなりますね」
「ほんとですかっ……で、あの、よかったら、その前に、丸一日私に付き合ってくれませんか?」
「いいですよ」
「ほんとですか? え、いいんですか?」
「ええ、予定さえあえばですが、調整はしますよ」
凛花さんは大人っぽいと言っても、まだ高校生。
『みんなで一緒に』丸一日過ごして思い出を作りたいというのも分かります。
私はそういうことは……なくはなかったですが、祖父の知り合いとのバスツアーで平均年齢が七〇近かったので、たっぷり働かされた記憶しかありません。
「やった……! 約束ですからね!」
「はい、約束です」
凛花さんは、胸の前で両手を合わせ、微笑んでいらっしゃいます。
よほど『みんなで』行きたかったんですねえ。
「ところで、映画おめでとうございます。どんな映画か聞いても?」
「あ……詳しくは言えないんですが、あの、時代劇で……」
「ええ!? 時代劇ですか!?」
「ええ、でも、あの、私……あまり、詳しくなくて……て、ひゃあ! ふ、福家さん!?」
「すごい! すごいですよ! 凛花さん! 絶対見ます! いやあ、嬉しいです。知り合いの方が時代劇に……感動です……!」
あ、いけません……。
興奮してしまいました。ですが、嬉しいものは嬉しいです。
私の大好きな時代劇に、知り合いが出演されるなんて、作品名とか詳しい話を聞きたい、けど……! いけません! そういうの守秘義務ですよね……!
「あ、あの……福家さんって時代劇お好きなんですか?」
「大好きです!」
声が大きくなってしまいました。
でも、本当に好きなんです。定番の印籠のアレも必殺のアレも暴れん坊も桜吹雪も、ああ、挙げるとキリがありません!
「そう、なんですね……じゃあ、時代村とかも……?」
「大好きです!」
声が大きくなってしまいました。
恥ずかしながら、時代村も何度も足を運んでいます。
去年も一度行って大興奮でした。その時は色々ありましたが、それもいい思い出です。
「ちょ! ちょっと! なんですか!? 急に!」
後ろから慌てて明美さん達がやってきます。声が大きかったようでびっくりさせてしまったみたいです。
「だだだだいすきって……りんちゃん、まさか……」
「うふふふふ~、福家さんの大好き~、福家さんが大好き~」
驚いている結さんと、何故か楽しそうな凛花さん。え? お酒こっそり飲んでないですよね? ジジイは、許しませんよ。
「落ち着け、結。福家さん、急にどうしたんですか?」
「え、すみません……えーと」
映画の話は凛花さんがしない以上、私から話すわけにはいきませんよね。
「時代劇が……私、大好きでして……その話がちょっと盛り上がってしまい……」
なんでしょう、明美さんの目が怖いです。
何故か浮気を疑われる旦那さんの気持ちが分かった気がします。
やましいことがないとはいえ、誤魔化すというのはちょっと心苦しいものがあります。
「そうでしたか……なら、いいです。ほら、結下がるよ」
「え? でも、わたし……あ! またあとで」
と言いながら下がっていきます。
このシステムは一体……?
ですが、若い子には若い子の何かしらがあるのでしょう。
ジジイは黙って従うのみです。
そうこうしているうちに、落ち着いたのか凛花さんが、まっすぐな目でこちらを見てきます。
「あの、じゃあ、丸一日は時代村とかどうですか?」
「ほんとですか!? いいんですか?」
「え、あ、も、勿論」
『みなさんの』希望もあるでしょうに、年寄り優先にしていただいて申し訳ないですが、嬉しいのは間違いありません。ついつい顔が近くなってしまいました。
「……」
ん? そのせいか、凛花さんが目を閉じてらっしゃいます。
私の顔が近かったからでしょうか。ですが、口も小さくすぼめて、これはまるで……
「「ちょっとちょっとちょっとー-!!」」
お二人が再び駆けて来られます。あまりの勢いに驚きました。
はて? あれ? さっき私は何を考えていたのでしたっけ?
忘れっぽくていけません。
「え? なに? 凛花さん?」
「え? あ、すみません……思わず、来るかと思って」
ああ、そうでした。私が顔を近づけすぎて、凛花さんが怖がって目を閉じてしまったんでした。
「す、すみません。凛花さん。私が近づきすぎて怖がらせてしまいましたね」
「え? いえ、そんなことは……でも、ドキドキしました、うふ。あ、もう……着いちゃった。じゃあ、ここで」
気付けば、凛花さんのおうちについていたようです。
「ほえー、流石女優さん。すっごいマンションですね」
「女二人だからセキュリティはしっかりなさいって、社長が。お母さんも心配性だし有難いんですけど……あ、お母さん、ベランダで」
上を見ると、ベランダに確かに女性らしき方がいらっしゃいます。
暗いし、遠めなので良くは見えていませんが。
心配して、外で待っていたなんて良いお母さんですね。
「じゃあ、今日はありがとうございました。福家さん」
「はい」
凛花さんは口元に手を添えて何かを言おうとしてらっしゃったので、私は少しばかり屈みます。
「時代村、楽しみにしてますね」
「はい、私も」
本当に楽しみです。という気持ちを込めて微笑み返すと、凛花さんは急に顔を真っ赤にして、ふらふらと戻っていきます。
え? やはり、お酒を?
あれ? なんでさっきの話、ひそひそ話だったんでしょう。
……ああ、お二人にはサプライズというわけですね。では、その時のお楽しみという事で、私も黙っておきましょう。
お読みくださりありがとうございます。
暫く、第二部を作りながらのつなぎ話なので、展開ゆっくりになります。
一応、毎日更新を目標にしていますが、お話はかなりのんびりしちゃいますので、展開早いのがー!という方は、九月末か十月くらいまで溜めるかの方が気持ちいいかもしれません。
また、評価やブックマーク登録してくれた方ありがとうございます。
少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたなら有難いです……。
よければ、☆評価や感想で応援していただけると執筆に励む力になりなお有難いです……。
よければよければ、他の作者様の作品も積極的に感想や☆評価していただけると、私自身も色んな作品に出会えてなおなお有難いです……。
いいね機能が付きましたね。今まで好きだった話によければ『いいね』頂けると今後の参考になりますのでよろしくお願いします!




