62話 五十路、鍋を囲む。前編
【登場人物】
福家 拓司。50歳。主人公。執事名【白銀】
白髪、老け顔、草食系、実は……。
現在は、カルムと【GARDEN】の二足の草鞋。
南 詩織。30歳。執事喫茶【GARDEN】元オーナー。現カルムスタッフ。
黒髪ロング、美人、活発、金持。
北野結 W大ミスキャンパス。YUI。
明るい茶色、ポニーテール、活発。
葛西寛子 芸能事務所女社長。葛西寛子。
ふんわりウェーブ、グラマラス、母性溢れる。
東雲明美 美しすぎる空手家。Akemi。
暗めの茶、緩めパーマ、グラビアアイドル並のスタイル。
小山内凛音 注目の新人女優。りん。本名、凛花。
黒髪ロング、清楚、スレンダー、危険。
「あああああの! 福家さん! この前言ってた……明美さん!」
「なんでそこでバトンタッチ!? あの、鍋、しません、か……?」
カルムで明美さんと結さんのテーブルにお飲み物を運んだ時にそう言われました。
そうでした。
先日、お二人に言われていました。
「いいですね、夜は肌寒くなってきましたし」
「ほ、本当ですか!?」
結さんがポニーテールをぶんぶんと振ってわんちゃんのようでかわいらしいです。
「結、落ち着け。え、と……いつがいいですか? 私達は今日でも良いんですけど」
「あ、構いませんよ。今日は【GARDEN】もありませんので」
「いやった……!」
「結、静かに。バレる」
明美さんが慌てて結さんの口を塞ぎます。
誰かに聞かれてはまずいのでしょうか。
「そうでした。強敵、詩織さんにだけはバレるわけには……」
「いや、詩織さんだけじゃなくて、もうこれ以上ライバルを増やすわけには」
「あの、どうかされました?」
「「いえいえいえいえいえ!!」」
何か相談されていらっしゃるようだったので、アドバイスでもと思いましたが、どうやら若い女性お二人だけの内緒話だったようでジジイがいらぬ気を回してしまいました。
「じゃ、じゃあ、明美さんと今日鍋の材料を買っていきますね。えと、何時くらいなら?」
「ああ、そうですね。あまり遅いと親御さんも心配するでしょうし、17時とかでも大丈夫ですか?」
「わかりました! じゃあ、17時に福家さんのおうちで。じゃあ、明美さん、商店街に16時集合で、あそこからなら福家さんのおうちから近いですし」
「ええと、ウチ知ってましたっけ?」
「え? あ、あーと、言ってましたよ! もー、福家さん、忘れちゃったんですかー?」
どうやら言ったことがあったようです。
いけませんね、ジジイは物忘れがひどくて、
「では、何が食べたいですか? もし、出汁準備できるようならしておきますが……」
「結は肉が食べたいでしょうし、折角ですからすき焼きとかにしませんか?」
「すきやき!」
「いいですね、じゃあ、割り下くらいならうちにあるもので出来ますし、まあ、あと、いくつかおかず程度のものは用意しておきますね」
「すみません。じゃあ、私達はすき焼きのベタな材料買っていきますんで。えーっと、材料は……」
ポニーテールをぶんぶんさせニコニコ横に揺れている結さんをほほえましく眺めながら、明美さんと話を進めていきます。
「なんか、いいです、ね……献立考えるの……こういうのって……ふうふ」
「そうですねえ、娘が出来たみたいで嬉しいです。耕さんや誠二郎さんが良く言うんですよ。息子や娘と食事を囲むときが幸せだって。何食べたいって聞いたり、買い込み過ぎて怒られたり、そんなひとつひとつが幸せだって」
そう、私は残念ながら大学時代以降お付き合いすることもなかったので、当然結婚もしてないですし、子供もいません。ただ、子供自体はなんというんでしょう。元気いっぱいな姿とかああいうのを見て凄く幸せな気持ちになります。
カルムでも30年いましたから、その中で結婚、出産、子育て、そう言ったお話を幸せそうに話して下さる方は沢山いらっしゃいました。
なので、うれし……なんでしょう、明美さんが鋭い目つきでこちらを見ています。
何か良くないことを言ってしまったのでしょうか?
「はあ、そうっすか……そうですよね……」
ため息までついて見るからに落ち込んでらっしゃいます。
【GARDEN】の執事になって、女性の機微も多少わかるようになったつもりでしたが……ああ、なるほど!
「すみません、失礼な事を言いましたね。明美さんは立派なレディーですものね。しっかりしてらっしゃるし、気配りもできて、お料理も先日頂いた煮つけ本当に美味しかったですし、そうですね、こんな方をお嫁に貰える方は絶対に幸せでしょうね」
あまりにも子ども扱いしすぎてしまいました。
そういうのもよくありませんよね。
……と、思ったのですが、明美さんが黙って俯いてしまいました。
「……あの、明美さん?」
「あ、すんません……今、ちょっと、取り込んでるんで、結と話を……」
取り込んでいました。何がでしょうか?
やはり、私はまだまだのようです。
そして、話を振られた結さんは、ショックを受けたわんちゃんのように大きく口を開けています。『がーん』という音が聞こえてきそうです。
「福家さん……明美さんの手料理食べたんですか?」
「え? ええ、作り過ぎたという事で頂きました。美味しかったです」
若い女性は煮つけとかお好きでないのかと思いましたが、おうちでは割と薄味のお料理を作られるらしく、私も年のせいか脂っこいのが苦手になってきて、凄く私好みでした。
「明美さん、煮つけ……作るんですか?」
「つ、作るよ! 何!? あたしが煮つけつくっちゃダメ?」
「ダメというかー、私の知る明美さんはー、ステーキとかー、やきに……」
「う、うわあああ」
結さんに話しかけられて明美さんもいつもの調子を取り戻したのか、元気になって楽しそうに二人で戯れはじめ、私もそれをニコニコと見つめていました。
**********
「いけませんね、時間が……」
カルムでの勤務時間が終わり帰ろうとしていたのですが、詩織さんに呼び止められ何故か色々と尋問? のようなものを受けました。
最終的に、何故か詩織さんのお買い物に付き合うということで落ち着いたのですがなんだったんでしょうか。
こうなると、商店街は帰り道なので、結さん明美さんを探しながら帰った方が早いと思い、お二人を探しながら歩いていきます。
「おう! 福家さん! この前はありがとな! これ、やるよ!」
「拓さん、今日は買って行かないの? サービスするよ?」
「たくちゃーん! また、今度カルム行くからねー、じゃあねー!」
「あ、あの……【GARDEN】、また、行きます、ね」
色んな人から声を掛けられながら商店街を抜けていきます。有難いことです。
そして、漸く、お二人を見つけると、向こうもこちらに気付いたようで結さんが手をぶんぶんと振りながらこちらにやってこようとしてらっしゃいます。
私は、右に一歩ずれ手を振ります。
「福家さん! まだ家じゃなかったんですね」
「ええ、少し詩織さんとお話をしてたら長くなりまして……」
「ふーん、詩織さんですか? 来るんです?」
「あ、いえ、まだ勤務時間ですし、塩を送ると言ってました」
「ふーん、そうですか……余裕だなあ。じゃあ、その塩でめっちゃうまいもん作って福家さんを落として見せますから!」
ああ、そっちの塩でしたか。武田上杉の逸話のアレかと思ってしまいました。
という事はほっぺたを落とすという事でしょうか。そんないい塩を……でも、すき焼きなんですが。
そんな事を考えていると、結さんが私の様子に疑問を思ったのか左に大きく身体を傾けます。しまった。
「失礼しますね」
私は慌てて結さんを抱きかかえ、半回転します。驚いたのか手に抱えていた紙袋を落としかけたので、片手で紙袋の底を握り遠心力をなんとか使いバランスを保ちます。よかった、落としませんでした。重さから瓶のようなのでほっとしました。
「ろろろろろろまぐれしゃま……?」
いきなりの事に慌てたのか結さんが何か仰って暴れていますが、一先ずはぎゅっと抱きかかえ待ちます。
すると、回転して空いたスペースに自転車が。
よそ見をしていたので気付かずに走り去っていきます。危なかった。
「すみません、結さん。自転車が後ろから来てまして、お声がけしておけばよかったですね」
少しズレて待っておけば、結さんも右にズレてくれてそれで大丈夫だと思った私の慢心がいけませんでした。
「いえ! ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」
元気よく二度お礼を言われました。そして、動く気配がないのですが何故でしょうか?
明美さんに引っ張り出された結さんと一緒に私のおうちに向かいます。
掃除は基本毎日していますし、洗濯だけは先に入れさせていただきますが、それ以外は特に何もないので、大丈夫です。
と、私のアパートの部屋の前まで辿り着くと、どなたかがいらっしゃいます。
「お帰りなさい」
りんさんでした。何故?
「りりりりりんちゃん、どうして、ここに?」
「勘、です。鍋……いいですね」
なるほど、鍋をする気がしたのですね。すごい勘です。ですが、どうしてうちを?
「えー、と。どうせ私は小食なので、ご一緒しますか? 何か作るつもりでしたし量は多分大丈夫かと」
「はい☆ 是非、福家さんの手料理食べたいです」
顔を引き攣らせているお二人と、満面の笑みを浮かべるりんさんを部屋に招き入れ、お鍋の準備を……って、いけません! 洗濯ものを!
ジジイは忘れっぽくてもう!
申し訳ない事に一瞬見えて気づいてしまったのか皆さん両手で顔を覆って下さったのですが、隙間凄く空いてますし、目が開いているようなんですが……あの、皆さん?
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