51話 五十路、怒る。
【登場人物】
福家 拓司。50歳。主人公。執事名【白銀】
白髪、老け顔、草食系、実は……。
南 詩織。30歳。執事喫茶【GARDEN】オーナー。
黒髪ロング、美人、活発、金持。
横河 琉偉。南の大学生時代の知り合い。
ツーブロック。大柄。南を口説こうとし、白銀に懲らしめられる。
小野賀一也。28歳。主人公を追い出した人。
茶髪、イケメン風、爽やか風。
東雲明羅。
黒髪オールバック。【狂犬】と呼ばれていた頃あり。喧嘩がとんでもなく強い。
九月二日十二時過ぎ。【GARDEN】
「よお、琉偉。若い者呼んで奢ってるらしいじゃねえか。儲かってんのか?」
「あ、明羅先輩……! どっからその話を?」
正面に座る明羅さん、いえ、明羅お坊ちゃんに、横河が話しかけます。
突然現れた先輩、しかも、先ほどの話から聞くと、横河にとっては相当怖い先輩で逆らってはいけない存在である明羅お坊ちゃんが、どなたかの代わりで現れたことに動揺を隠しきれていません。
「俺が先に聞いてんだろ? 先、答えるのが礼儀だろ? どうなんだよ?」
「あ、あの……そうっすね。ぼちぼちっす」
「ぼちぼちで一週間執事喫茶に大量の後輩連れてこれるかよ」
「お水とお料理お持ちしました」
お二人の会話の隙を突いて、お水とお料理をお持ちし、皆さんの前に置いていきます。
「ありがとうございます、白銀さん」
今日もオールバックでビシッと決まった明羅お坊ちゃんが丁寧にお辞儀してくださいます。
「ありがとう、白銀。で、結構でございますよ。明羅お坊ちゃん」
「うへえ、慣れねえ。けど、アイツもお嬢様扱いされて戸惑っていたでしょう?」
「非常に可愛らしかったですよ。本物のお嬢様のようで素敵でした」
「……アイツ、嬉しかっただろうな。そんな恰好させてやれなかったから」
明羅お坊ちゃんがとても優しい眼差しをしながらグラスの水面を見つめてらっしゃいます。
あれ以来、兄妹の仲は相変わらず良いようで何よりです。
「あ、明羅先輩、そのジジイと知り合……」
「おい」
横河が言った言葉に反応し、明羅お坊ちゃんの表情が剣呑なものに変わります。
「俺の恩人に今度『ジジイ』なんて言ってみろ……! 暫く飯食えねえ身体にしてやるよ……!」
「ひ!」
「明羅お坊ちゃん、お気持ちは嬉しいですが……お止めください」
「白銀さ、白銀がそう言うんなら……おい、この人に感謝しろよ」
どうにも明羅お坊ちゃんは執事喫茶の空気よりも、恩義や先輩後輩を重んじるようで、私は苦笑してしまいます。
「明羅先輩、きょ、今日は何の用で?」
「だから、代わりだよ代わり。鈴木の代わり。あと、ついでに二宮の親父の代わり」
「……! 二宮って、この辺仕切ってる……あの、二宮、さん、ですか?」
「そー、二宮の耕造さんだ。まあ、俺もな、足洗う時にあの人の世話になってたから断れなくてな。そしたら、『偶然』お前と会えるってなったからその用事も今日済ませようと思って」
「用事、ですか?」
「……お前、随分この辺でヤンチャしてるらしいじゃねえか?」
横河が小さく震える手で水を飲み干します。
少し乱暴に置かれた空のグラスに水を注いでいると、南さんと目があいます。
目配せをすると、南さんは驚いた表情を浮かべ俯いてしまいました。
しまった。これは一般的に『ウィンク』ですよね。『キモかった』のかもしれません。
そんな私たちのやりとりは関係なく、話は進んでいきます。
「ヤンチャって……ただの、商売ですよ」
「ふ~ん、『ただの商売』、か。……知っての通り、二宮の親父さんは、古いタイプの、まあいわゆる仁義を重んじる人だ。世間様に迷惑かけるのも大嫌いだ。その人がな、俺に言ったんだよ。ちょっと見て来てくれって。んで、下らねえ奴だったら叩き直してやるから教えろって」
「……」
黙って俯いてしまう横河と対照的にニッコリ微笑む明羅お坊ちゃん。
耕さんは、本当に仁義に篤い方で、明羅お坊ちゃんとの時も、ちゃんと私が約束を果たしたら、明羅お坊ちゃんが足を洗えるよう手配してくれました。
そういえば、あの時から、耕さんは、頻繁にカルムに来てくださるようになりましたね。
「だからよ、今日、俺は、『お前がちゃんとしてるか』見てやろうと思って」
「ど、どうやってです?」
「まあ、料理も来てるし食べろよ。『お行儀よく』、な」
「え……?」
何か嫌な予感を感じ取ったのか、横河がテーブルの料理を見つめます。
「二宮の親父はよ、知っての通り、礼儀とかそういうの出来てない奴嫌いなんだよな。だからよ、ちゃーんとお前が、人様に迷惑かけないような人間か、マナー良く出来るのか見てほしいってよ。ここ、通ってる位だから大丈夫だろうけどって」
「で、出来なかったら?」
「みっちり『教育』してくれるってよ」
「……」
「さあ、始めようぜ。楽しい食事の時間をよ……」
獰猛な笑みと言うべきでしょうか、非常にワイルドな感じに明羅お坊ちゃんが笑います。
そこには激しい怒りが込められているように見えました。
周りの執事達も同じような目で琉偉お坊ちゃんを見ています。
きっと、私もそうなのでしょう。
琉偉お坊ちゃんはやりすぎました。
大切なものを踏みにじり過ぎた。
どんな方であれ、やってはいけない事をしてしまえば、罰を受けるべきです。
多くの方の協力を得て、場は出来上がりました。
鬼と呼ばれても悪魔と呼ばれても、見損なわれても一向に構いません。
私は、この場所を守るだけです。
「さあ、琉偉お坊ちゃん。楽しいお食事の時間となるよう、この白銀、お手伝いさせていただきます」
お食事の前に、私も祈りましょう。少しでも琉偉お坊ちゃんが『反省』されますようにと。
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