45話 五十路、苛立つ。
【登場人物】
福家 拓司。50歳。主人公。執事名【白銀】
白髪、老け顔、草食系、実は……。
南 詩織。30歳。執事喫茶【GARDEN】オーナー。
黒髪ロング、美人、活発、金持。
若井 蒼汰。??歳。教育係。執事名【千金楽】
金髪、二枚目、チャラ風、仕事出来る。
横河琉偉。南の大学時代の知り合い。
南に迫り、白銀にコテンパンにやられる。
小野賀一也。28歳。主人公を追い出した人。
茶髪、イケメン風、爽やか風。
黒鶴。38歳。執事長。若い子を応援するのが大好きでドルヲタ。
眼鏡を掛けている。
緋田。執事。運動大好き。
「この予約の森様というのは?」
「初めてですね。ですが、五人男性でご予約とは珍しいですね」
その日の【GARDEN】は少し静かな始まりでした。
「森様、ご帰宅です。ですが……ちょっと変わった方たちのようで。気を付けてください」
黄河が私と千金楽、黒鶴に話しかけてきます。
そして、緋田と一緒にやってきたのは、
「おーう、ジジイ。いや、白銀だっけか? 久しぶりだなあ」
大きな身体に、見下すような目。以前、南さんに迫った横河さんでした。
隣には、一也さんもいます。カルムはお休みでしょうか。
先日の事があるとはいえお坊ちゃんです。お出迎えいたしましょう。
「お帰りなさいませ、お坊ちゃん」
「おう! 琉偉お坊ちゃんのお帰りだ。おい、今日は俺が主だ。ちゃんと従えよ」
「仕えるのが執事であり、従うかは内容次第です」
「ち。めんどくせえな。主だぞ」
「主だからなんでもやって良いわけではありませんよ。エントランスでお話をちゃんと聞きま」
「あーあーあー、うるせえうるせえ。分かったから席に連れてけ」
琉偉お坊ちゃんは顔を顰め、しっしと手を振り私の話を拒否されました。
そして、南オーナーを見つけると笑って近づいていきます。
「よお、詩織」
「あなた達、なんで……?」
「なんでって? そりゃあ、随分な言い方だな、オーナーさん。俺達も執事に尽くされたくて、なあ?」
琉偉お坊ちゃんが振り返って他のお坊ちゃんに同意を求めています。
お坊ちゃんたちは皆、大きく頷くと琉偉お坊ちゃんは嬉しそうに笑い、
「まあ、そういうわけで今日は楽しませてもらうわ」
南さんを見つめながら、琉偉お坊ちゃんはテーブルへと向かわれました。
南さんは、顔を青ざめさせ、小さく震えているように見えました。
「大丈夫ですか、オーナー」
「え、ええ……でも、どうして?」
「いやがらせ、の可能性はあるでしょうね。以前白銀にこてんぱんにされたことを根に持って。ああ、気にすることはありませんよ。全面的にあちらが悪かったですから」
千金楽がこちらにやってきて、私とオーナーの会話に入ってきます。
「いずれにせよ、まだ本当の所は分かりません。一先ずはいつも通りの対応を」
「千金楽、彼らには私が」
「いいんですか?」
「もし、何かあっても私なら対応できますから」
「……分かりました。では、白銀、お願いしますね」
結論から言うと、千金楽の予想は当たっていました。
明らかに、事前に説明しているルールを理解しないままここに来られ、大声で騒ぐ等嫌がらせに近い行為をし続けていました。
「おい! そこのお嬢様! 俺達お坊ちゃんと一緒におしゃべりしないか?」
「琉偉お坊ちゃん、他のテーブルのお嬢様にちょっかいを掛けてはいけませんよ」
「あん? 別に向こうが良ければいいだろう?」
「では、聞いてまいりますのでお坊ちゃんは礼儀正しく座ってお待ちくださいね」
そして、その声を掛けたお嬢様が、同席を断り、私がその旨を伝えると、
「ああん!?」
「ひ!」
琉偉お坊ちゃんが、お嬢様を睨みつけたので、私は間に入り、琉偉お坊ちゃんに注意させていただきます。
「琉偉お坊ちゃん、他の席のお嬢様を威嚇してはなりません」
「はあ!?」
「琉偉お坊ちゃん?」
「……う、わ、わかったよ」
「次に何かあればすぐに出て行ってもらいます」
「はあ!? 俺達は客だぞ!」
「良いですか。この【GARDEN】は、ルールを守るお嬢様、お坊ちゃんの為の場所です。ルールを守れないのであれば、坊ちゃんの言う『客』、お嬢様お坊ちゃんではない為、お越しいただく必要はありません」
「……わかったよ! ……ち、気分悪い。今日は帰る! おい、行くぞ! 一也!」
その日は、お料理も珈琲にも手を付けずお出かけになられました。
そして、
「よーお、詩織、今日も来てやったぜ」
次の日もその次の日も横河さんはいらっしゃいました。
そして、
「そこのお嬢様! 俺達とお茶どーっすか?」
「お坊ちゃん、他のお嬢様にちょっかいを出すようなら」
「悪い悪い、白銀。そいつはつまみ出すから許してくれ。おい、」
「え? は、はい……」
「いやあ、皆さん、コイツがお騒がせしてすみませんでし、た!」
「ぐげっ!」
「きゃあ!」
奇声を上げたお坊ちゃんを横河さんが殴り飛ばします。お嬢様達から悲鳴が上がります。
「反省しろ。出てけ」
「……うす! 失礼します!」
眉間に皺を寄せ鼻血を流しながら奇声を上げたお坊ちゃんが去って行きます。
「お坊ちゃん、暴力は」
「なあに、ちゃんと身体に分からせてやらないとな。ここまでやったからアイツ許してやってくれよ」
お連れ様が今度は迷惑行為をし、出ていくという事を何度か繰り返し、
「お連れ様にしっかりルールを守るようお伝えください。出なければ、今後はお越し頂けなく……」
「うるせえな。わかったよ。帰る」
別の日。横河さんと別の組で、ですが、似た雰囲気の若者達が来ては、奇声を上げ、騒いでは追い出されるという事が繰り返され、横河さんはそれを笑いながら見ていました。
そうして、初めて横河さんが来てから五回。その頃には執事たちの苛立ちはピークに達していたように思います。
「なんなんですか! アイツら!」
激昂しているのは緋田さんです。
交代後の【GARDEN】スタッフルームで、他のスタッフの皆さんに話しかけています。
「毎日毎日、嫌がらせに来て暇なんすか!?」
「緋田、落ち着け」
「落ち着けないっすよ! 皆さんも見たでしょう!? お嬢様達が本気で困っていましたよ! なんとかならないんですか!?」
「警察に話してはいるが、ちゃんと取り合ってもらえるかどうかだな。最悪注意で終わってほとぼりがさめたらまた来るってこともありえるだろうし、若いのをしっぽ切りし続ける可能性もあるな」
千金楽さんが机を指で叩きながらぼそりと自分の予測を話します。
「営業妨害で訴えても、時間がかかるだろうな。というか、その辺りも見越していそうだ」
黒鶴もいつもよりも眼鏡を頻繁に直していて、苛々しているようでした。
「目的は、何か。それを知るのが大事じゃないか?」
緑川さんが口元に手を当てながらぼそりと呟きます。大分消耗しているようです。
目的、となると……
「私を追い出す事、かもしれません。以前、あのリーダーのような彼を投げてしまってまして」
「あれは正当防衛だ。まあ、【GARDEN】そして、白銀を困らせるってのは目的かもな。ただ、じゃあ、白銀がいなくなれば解決かっていうとそうじゃない気はするし、そんなことはさせねえけどな」
千金楽がそう言うと、皆さんが頷いてくれます。有難い。だからこそ、
「あの」
珍しく蒼樹さんが声をあげます。例の事件以降、何も言わずすぐに帰ることが多かったのですが。
「僕、実は、何人か知ってる奴がいて。その、あのグループヤバいですよ。あの、横河ってヤツの親が凄い金持ちな上に、なんか議員かなんかで、権力もあるっぽいです。だから、逆らわない方が」
「っていうか、逆に弱点じゃね? そんなヤツの息子があんなことしてて」
千金楽さんが机を指でたたくのをやめないまま蒼樹さんの方を向き、問いかけます。
「い、いや、あそこの親は、そういうのに敏感でもみ消すのがうまいみたいで。横河もそれが分かってるから割と好き勝手やってるらしく……とにかく、大人しく従ってるふりしてやり過ごすのが一番だと思います」
蒼樹は深々と頭を下げると、帰り支度をいそいそと始めました。
「なんだよ、アイツ……他人事みたいに……!」
緋田さんが、蒼樹さんの背中を睨みながら吐き出すように言います。
「……さて、どうしたものか」
千金楽さんの机を指で叩く音が静かなスタッフルームに響きます。
全員の怒りを代弁したようなその音。
私は、一度大きく深呼吸をして提案します。
「一先ず、蒼樹さんの言う通りではありませんが、もう少しだけ大人しくしていませんか?」
「……白銀、お前、マジでそれ言ってる?」
「はい」
千金楽さんの視線が私に突き刺さります。
ですが、今出来ることはないように私は思うのです。
「今、出来るのは、他のお嬢様お坊ちゃんの顔を曇らせないようしっかりお仕えすることかと」
「白銀さん! ……そうじゃないでしょ! あなたなら……! いや、違う。俺が……」
「あのグループを白銀に任せてしまっている以上、俺達が今、言えることはないか。けど、緋田。私もお前と同じ気持ちだ」
眉間に皺を寄せ俯いた緋田さんの肩をぽんと黒鶴が叩き、こちらを見つめてきます。
「冷めた。今日は帰る」
緑川さんはそう言うと片づけをさっさと終わらせて帰っていきます。
それに続くように、黒鶴さん、緋田さんも。
残ったのは、私と千金楽さん、そして、居心地悪そうに出るタイミングをはかっているような蒼樹さんでした。
「白銀、何か俺に言う事ないか?」
「今は、特にありません」
「そっか。じゃあ、帰るわ」
「はい」
千金楽さんもそれだけの短い会話を交わすと去って行こうとします。
ですが、出る直前にこちらを振り返り、
「俺は、お前の事を信頼してるつもりだったんだけどな……」
千金楽はそう言うと乱暴にドアを閉め、去って行きました。
「……」
「あの……白銀、さん」
帰り支度を済ませた蒼樹さんが話しかけてきます。
「どうされました? 蒼樹さん?」
「あ、いえ……あの、おつかれさまでした」
「はい、お疲れ様でした」
蒼樹さんはそう言うと、静かに帰って行きました。
「ふぅー―――――――」
天井に向かって大きく息を吐きます。
「さて、どうしましょう」
私は、一人、スタッフルームで言葉を零し、頭を悩ませます。
静かなスタッフルームで一人。
じわじわとせり上がってくる毒のような蝕まれていく感覚、不快感、苛立ちを感じながら帰り支度をし、私は【GARDEN】を後にしました。
お読みくださりありがとうございます。
ストーリー上、暫くストレス展開になります。読者の方にはライトに読みたい方もいらっしゃるかもしれないので、暫く待って目次を参照し、まとめて読むのも良いかもしれません。
ただ、物語はタグ通りハッピーエンドです。今週末には第一部完結予定です。
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