39話 五十路、交わす。
【登場人物】
福家 拓司。50歳。主人公。執事名【白銀】
白髪、老け顔、草食系、実は……。
小野賀 小鳥 元カルムのオーナー。
小柄。五十を越えてるとは思えない驚異の幼さ。一也の叔母。
「いやあ! 小鳥ちゃんも久しぶりねえ。たくちゃんと相変わらずお熱いのね! でも、ばばあも負けないわよ! 夜道気を付けなさいよ~あっはっは!」
「は、はあ」
地域にある集会所。
その入り口で小鳥さんがぽかんと口を空けています。
迫ってきてたのは、千代子さんです。カルムの常連で、よく『たくちゃんと結婚する! ウチの人を鈍器で殴って』と仰られる火曜サスペンス劇場がお好きなふくよかで元気いっぱいの方です。
「おおー! 小鳥ちゃん、久しぶりじゃねえか! 病院入ってたんだろ!? 先に聞いてくれよ。カフェーのことは詳しくなくても、びょーいんのことは俺達の方が詳しいんだからよ」
小柄ながらガッシリとしていながらも、アルパチーノに憧れ、一つ一つの動きに色気を感じさせる耕さんのジョークにみんなが口を空けて大笑いします。
「拓さん、ここは……?」
「ここはですね、集会所をお借りして、週に一度、私が休みの日に合わせてお茶会を開いてるんです」
「名付けて、シルバーパーテー!」
耕さんが歌舞伎のような抑揚とポーズを付け紹介してくださります。
そう、『シルバーパーティー』、いや、正確には『銀の茶会』なんですが。
【GARDEN】での仕事にも慣れ始めた頃に、カルムの様子を見に行くと、偶然千代子さんと出会い、提案された催しです。
『いやあ、たくちゃんの働いてる執事喫茶に行ってもいいんだけどね、若い執事さんがみんな私に夢中になって殺し合いになっちゃいけないから! それに、じじばばはカルム位の気軽な感じが丁度いいのよ! だから、今は、週に一度みんなで集会所集まってお茶会してるの!』
そこに、もしよければ私も、ということでした。
私自身、いきなりカルムを離れた申し訳なさと、皆さんとお会いしたかったということもあり、時間が合う時はお邪魔させていただいてます。
会の名前は、元々お茶会だったんですが、私が参加した時に、皆さんからLIN○の使い方を教わりグループ名を付けようという事になったのです。
そこで、
『たくちゃん、今、白銀って名前なんだろう? じゃあ、シルバーの会、いや、シルバーパーテーでどうだ!?』
シルバーパーティーという名前は、私に社交ダンスを教えて下さった玉さんがすぐに却下していました。
耕さんは、みっちりダンス教室で玉さんにしごかれているようで、玉さんには頭が上がりません。
『ファ、ファミリーを大切にしない奴は、決して本当の男ってやつになれないからな!』
そう耕さんは言ってましたが、睨みつける玉さんから目を逸らしていましたからね。
本当の男とは?
そういった経緯を皆さんが小鳥さんに話して下さっているうちに、私はお料理と珈琲紅茶の準備を始めましょう。
「手伝うよ」
「わたしもやるよお、たくちゃん」
背が高く男前な誠二郎さんと、三雲のおばあちゃんが手伝いに来てくださります。
「誠二郎さん、お久しぶりですね」
「ああ、LIN○ではやりとりしてたけどね、実際に会うのは本当に久しぶりだ。いや、忙しくてね。なかなか来れてなくて、三雲のおばあさんにさっきしかられていたところだ」
デジタル機器も巧みに使いこなす誠二郎さんはスマートでとても格好が良いのですが、どうにもレディーファーストが過ぎるというか女性に甘く、よく言われたい放題になっています。
「せいちゃんもそうだけど、たくちゃん、あんたも良くないよ。全く、あたしらに何も言わずに居なくなるなんて……ばばあ不孝にもほどがあるよ」
ばばあ不孝とは?
それはともかく、この話はもう四度目なのですが、三雲のおばあさんには誰も逆らえないので、私もすみませんと謝ります。
「えらいねえ、謝れるのはえらいことだよ。そうだ、お菓子をあげよう」
そういうと、三雲のおばあさんはポケットからお菓子を取り出し私にくれます。
「いや、あの、おばあちゃん。私もうポケットぱんぱんですよ」
「なんだ、今日はもうそんなに貰っていたのかい?」
三雲のおばあさんは何か良いことをすると事ある毎にお菓子をくれます。
先程から何かをやる度にくれています。
もしかしたら、お菓子あげるために怒っているのではと思う位。
でも、やはり、人間いくつになっても褒められるのは嬉しい。
そして、褒められて何かを貰えるなんて有難いことです。
私は苦笑しながらも頂いたお菓子をポケットに押し込みます。
「しかし、福家君は随分と雰囲気が変わったね」
背の高い誠二郎さんが私を見下ろして微笑みながら私に話しかけてくださいます。
「そうでしょうか?」
「うんうん、男前になったねえ、せいちゃん良い所に気付いたね。お菓子あげよう」
苦笑する誠二郎さんはお菓子を受け取りながら、私の方を見ます。
「自信、かな。君の謙虚さは素晴らしいが、それと、今は自信が同居しているように見える。私達にとってカルムから君が居なくなったことは不幸だったけど、君にとっては良い切欠となったのかもしれないね」
「せいちゃんは、本当に言う事が男前さんだねえ、お菓子をあげよう」
「ありがとう、三雲さん」
誠二郎さんは、おばあちゃんのお菓子をにこやかに受け取り、すっと空けて、半分をおばあさんに渡し、半分を自分の口に運びます。
「……今までは『良い人』だったけど、『良い男』になったように見える。良い女性との出会いでもあったかな」
「あらま、いい事教えてくれた。お菓子あげよう」
「女性だけではないと思いますが、良い出会いはありました」
【GARDEN】の皆さん、そして、お嬢様お坊ちゃん、その出会いが私を変えてくれたのでしょう。本当に有難い。
「ふふ、私よりも君の方がよほど男前だよ。ねえ、三雲さん」
「そうだねえ、せいちゃんを抜いたかもしれないねえ。でも、仲代達矢ほどじゃあないね」
「それは、おばあちゃん、相手が悪すぎますよ」
私は三雲のおばあちゃんの言葉に苦笑せざるを得ません。
「馬鹿言ってんじゃないよ。男はね、胸張ってなんぼだよ。信じな、たくちゃんなら勝てる! ほら、お菓子あげるからがんばんな!」
お菓子を貰いました。
勝つとは?
「三雲さんはすごいね。福家君、私もね、君を応援してるよ。昔の君なら、LIN○とか新しいものがなくてもなんとかしてたからね。でも、君は失敗を恐れない。少し身軽になったのかな。人に頼れるようになったね。人に頼ることを覚えたら、もっと出来ることが、したいことが見えてくるだろう?」
誠二郎さんはそこで言葉を区切ると、まっすぐに私を見つめなおし、笑いながら言うのです。
「君なら出来るよ。きっと。困ったら頼ればいい。私達じじばばは頼られなくなるのが嫌なんだ」
「せいちゃん、良い事言うねえ。お菓子をあげよう」
誠二郎さんはそう言うと、持ってきてくださったお菓子の袋を三雲のおばあちゃんと一緒に空け、並べ始めました。
私は、湯気が立ち上る台所で、私に出来ることを考えていました。
穏やかな台所で、私は。
「お待たせしました」
今日は、誠二郎さんが持ってきてくれた水まんじゅうと、私の淹れた珈琲・紅茶のセットです。
私は、皆さんにご挨拶しながら、小鳥さんの元へ向かいます。
「小鳥さん、珈琲いかがです?」
「あ、ありがとう。拓さん……」
小鳥さんは、両手でしっかり持ち、珈琲をじいっと見つめます。
「砂糖、二本入ってますよ」
「あ、ありがとう!」
小鳥さんは、出来れば甘い珈琲が良いらしく、良く砂糖を二本入れてらっしゃいましたからね。
「お隣よろしいですか?」
「へひっ!? は、はい、どうぞ!」
私は、小鳥さんの隣にお邪魔し、自分で淹れた珈琲を飲みながら、談笑する皆さんを眺めます。
もし、この笑顔溢れる光景の何割かが私の力だと自惚れていいのなら、私は、
「小鳥さん」
「へ? な、なに?」
「力になりますから」
「……え?」
「必ず、必ず貴女の力になります。貴女が私の力になってくれたように」
あの笑顔の何割かが私の力だと自惚れていいのなら、私はこの人も笑顔にしたい。
だって、この人は私が失意のどん底に居る時に、助けてくれた人だから。
『はい、珈琲! 飲みなさい! 苦いよ! 苦みのあとに美味しさが、苦みの中にもおいしさはあるんだよ! きっと福家君の人生もそう! 今は苦いしか分からないかもしれないけど大人になったらさ、分かるんだよ! 苦みの中にも探せば美味しさが、しあわせがあるんだって』
そう言った小鳥さんはあの時と変わらない若いままで、珈琲に砂糖が二本のままで。
でも、変わらないこの人だからこそ、私は助けたい。
小鳥さんの瞳が揺れます。この人は本来涙もろい人です。でも、私と再会してずっと泣いてもいいはずなのに我慢して……。
「……あり、がとう。ごめんね。私の」
「貴方のお陰で、私は、苦みのおいしさを知れたんですよ」
「……うん! お願い。私の力になって」
「お嬢様の望むままに」
小鳥さんが笑顔に変わります。この笑顔をいつまでも咲かせるために、私は自惚れましょう。きっと私なら出来ると。
「あ、あの、拓さん。じゃあね、LIN○、交換しない? 連絡便利だし」
「はい! …………えーと、どうやれば」
その後、私は小鳥さんの元気な説明では理解できず、誠二郎さんと三雲のおばあさんの指導の下、なんとかLIN○交換を達成するのでした。
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