26話 イケメン、知る★
【登場人物】
福家 拓司。50歳。主人公。執事名【白銀】
白髪、老け顔、草食系、実は……。
小野賀一也。28歳。主人公を追い出した人。
茶髪、イケメン風、爽やか風。
【一也視点】
七月二十六日。カルム。
暇だ。
客が来ない。
あまりにも来ないので、バイトのシフトを出来る限り減らした。
これは経営的な戦略だ。
なのに、バイトの奴らは辞めるとか言い出すし、客はサービスが悪いと文句を言いだす。
売上が悪いから減らさざるを得ないし、減れば多少サービスの質は落ちる。
それを何故理解できない。
俺には考えたらずな奴らの考えが分からない。
この店は本当にヤバいんだ。ヤバい時こそみんなで協力して乗り越えるべきだろう。
なんて、薄情な奴らなんだ。
今、いるスタッフは数名。だが、あの子達こそ俺の戦友だ。
にしても、暇だ。今、客は一人。しかも、めんどくさそうな男だ。
スマホの向こうにいるだろう恐らく後輩に女紹介しろと話している。
最近ああいう柄の多いのが増えた。このあたりの治安大丈夫か?
俺はパソコンを開く。
レビューサイトでカルムを調べる。
平均評価2.1。
感想でも悪口ばかりが書かれている。
こういうことをする奴は本当に暇なんだろうなと思う。
『掃除が行き届いてない』だの『パンケーキが焼けてない』だの、俺がほぼ一人で頑張っているんだぞ。そこを評価しろよ。
腹が立った俺は、他の店舗の評価や感想を見る。
ウチと同じように叩かれている店をいくつも発見する。
やっぱりな。ウチだけではない。駄目な店なんていくつもある。
ウチより叩かれているのに評価が高い店だってある。
絶対何か不正をして評価を上げているに違いない。
バイトに評価上げさせているんじゃないだろうか。
流れでまたあの執事喫茶を開く。【GARDEN】。
相変わらず評価が高い。腹が立つ。そもそもこの評価はフラットじゃないだろ。
イケメンがいてキャーキャーされて評価貰ってるだけだろ。
相変わらず、白髪執事の名前が良く出ている。白銀という名らしい。かっこいいなw
『白銀様、お花に詳しい。素敵。私の花はピンクのトルコキキョウらしい。花言葉は優美。知らなかったけど、花を頂けるサービスもあるそうです。女子はこれ絶対好きだと思うので是非。白銀様が詳しいけど、他の執事も白銀様に教えてもらってるらしく、友達は他の執事さんが一生懸命白銀様に相談しながら選んでくれるのが嬉しいらしく、他の執事さんに頼んでました』
『また帰宅してきました。いつも通り最高のおもてなし。最近、白銀様が入ったせいか和風プレートが出てこれがまた良き。そして、ショップの白銀様率が凄い。でも、その理由は分かる。本当に執事白銀は中毒性高すぎて注意が必要。ただし、【GARDEN】は、最近若い執事のクオリティが凄く上がっているので、そういう成長を見守る喜びもあります』
『白銀様プロデュース和風プレートが丁度いい。正直、普段ジャンクフードばかりなので、凄い健康的なご飯がまさかの執事喫茶で食べられるというギャップ』
『金髪執事が最強だと思っていました。しかし、その対抗馬、白髪執事。そして、若手の成長。サービスのクオリティで言えば、執事喫茶の中でも最強だと思います』
『白髪執事の珈琲や紅茶の話が大好き。声が凄く良い、というか、穏やかな語り口調で癒し効果が凄い。色んな知識が豊富でおじいちゃんの知恵袋という感じで話するのが楽しいし、最近某人気アニメを覚えましたと一生懸命流行りのアニメの話してくれるのかわいい』
『白銀しか勝たん』
ふーん。店内写真のSNS公開は禁止されてるらしく律儀に守っているようで、レビューサイトにはグッズと料理の写真のみ。こんなグッズ欲しいかっていうようなものばかりだし、最近話に出てる和風プレートも普通の映えも何もないただの和食だ。
ここも何か不正してるんじゃないだろうか。
この程度でこの評価はおかしいだろ。
誰かが入ってくる音がする。
入ってきたのはスタッフのまおちゃんだ。
再オープン直前に入ってきたスタッフで本当に頑張ってくれている。
やさしいしかわいいし胸も大きい。ちょっと大人びた感じがまた魅力的だ。
「お疲れ様です」
「お疲れ様。今日シフトじゃなかったよね。どうしたの?」
「あの、相談がありまして……」
珍しく少しモジモジしながらこちらを見ている。
なんだ? 話しにくい事か? まさか! 告白か!
「あ、話しにくいこと? 奥に行く? 今、お客さん一人だしなんとかなると思うけど」
「いえ、それは申し訳ないので……あの。来月でここを辞めさせていただこうかと」
は?
「は?」
「あのですね……再オープン前のカルムは素敵なお店だったと思います。でも、今は、私の働きたかったカルムとは違うというか。もう、本当に前の店長さんは戻ってこないんですか」
「戻ってこない。勿論福家もね」
辞めていったスタッフに何回も聞かれてうんざりだ。
「それは知っています。じゃあ、前のお店みたいにするつもりは」
「ない。卜部さん、来月とか言わずもうやめていいよ」
「え?」
俺は気づいてしまった。卜部さんの鞄についてる、あの【GARDEN】のグッズを。
何故、ウチがあの店に払う為のお金をこの子に払わなきゃいけないんだ。
「そう、ですか。分かりました」
卜部さんが深々とお辞儀をして去ろうとする。グッズが揺れる。なんだ、白銀ってw
「ねえ、執事喫茶なんて行って楽しい?」
「え?」
卜部さんが驚いたように振り返る。
「その鞄の。執事喫茶のでしょ? そんなに良い? そこ」
卜部さんは、俺の顔を見て少し伏せ、また、俺の顔を見つめて言う。
「良いですよ。サービスもお料理やドリンクもしっかり思いやりに溢れています。こことは違って」
「は?」
「今日掃除しましたか? メニュー表作り変えましたか? お客様とお話ししたりしましたか? 何が求められているのか考えたことありますか? 笑顔で接客してますか?」
「な、何言ってんの?」
「ちゃんとお金を払う価値があって、何度行っても、何倍にもして返してくれるのが【GARDEN】です。店長も勉強しに行く……わけにはいかないと思いますけど」
「え?」
「このグッズの白銀さんって、福家さんのことですよ」
「はあ!?」
福家? なんでアイツが!? というか、アイツが執事?
で、あんなに褒められまくってるのか?
「福家さんは執事になっても、掃除してましたよ。備品を丁寧に直してましたよ。相手に合わせた話をしてくれてましたよ。何が求められてるかちゃんと考えてくれましたよ。いつも穏やかな笑顔で私に元気をくれますよ」
なんだ? 誰の話だ? 福家の話か。
だって、いつもカルムで福家がしていたことで、でも、それは当たり前のことで。
あれ? 俺は当たり前のことをしていたか。いや、でも、だって、人がいないし……
「この店の一番の失敗は、福家さんを辞めさせたことだと思います。今までお世話になりました。失礼します」
卜部さんが、まおちゃんが、去って行く。
出ていく音がする。
一人だ。
「ぎゃっはっは! いや、ソイツこの前一緒に遊んだけど最悪だったからパス!」
違った。一人じゃなかった。
うるせえな。
客が騒いでいる。
俺は苛立ちを抑えきれずそちらに足音を鳴らしながら近づく。
「お客様、お静かに」
「あん? だって、人いねえじゃねえかよ」
「これから来るかもしれませんので。 んなこともわかんねえのか……」
その瞬間、腹に衝撃が走る。
なんだ、殴られた?
「こっちは客だぞ、なんだその口の利き方は! ん?」
「も、申し訳ございません」
俺は、地べたに這いつくばりながら思った。
この店の床きたねえなって。
福家が掃除してた? ジジイなんだからそれくらいしろよ!
アイツが、白髪のモテモテ執事? くそ! くそ! くそ!
泣けてきた。なんでこうなった? どうすりゃいい? どうすりゃ……。
『福家さんにちゃんと謝るなら』
俺の頭の中に、あの母親代わりの女の声が響く。それしか……
「お前……イチか?」
「は?」
俺が顔を上げるとヤバいヤツが俺を覗いていた。
その顔に見覚えがあった。
「げ、ほ……あれ、もしかして……ヨコさん、ですか?」
「おーう! 大学以来じゃねえか! そうだ、お前このあと暇か? 遊びに行こうぜ。仕事なんてサボってよ」
この時が最後の分岐点だったんだろうな。
俺はその選択を一生、ジジイになるまで後悔することになる。
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