25話 五十路、一人前になる。
【登場人物】
福家 拓司。50歳。主人公。執事名【白銀】
白髪、老け顔、草食系、実は……。
南 詩織。30歳。執事喫茶【GARDEN】オーナー。
黒髪ロング、美人、活発、金持。
若井 蒼汰。??歳。教育係。執事名【千金楽】
金髪、二枚目、チャラ風、仕事出来る。
緋田。24歳。執事。蒼樹と一緒にお嬢様を貶める発言をした。
単純、筋肉、運動大好き。心を入れ替える。
蒼樹。執事喫茶【GARDEN】の執事。他の店と掛け持ちをしている。
お嬢様を貶める発言をし、担当を外される。
「お疲れさまでした」
仕事を終えた私は執事控えに入り、皆さんに挨拶をします。
初めての一人前の執事としてのお仕事は、非常に大変でしたがやりがいあるものでした。
といっても、朝日お嬢様の一件、カルム常連の皆様のご帰宅の後は、皆さんと一緒に通常の業務に戻りましたので特に変わったことはなく、平和に終わって……
「やってくれたな、白銀ぇええ~……!」
千金楽さんが圧ある微笑みで肩を掴んでいます。その後ろに黄河さんと緋田さんがいらっしゃいます。
「え? 私、何かやっちゃいました?」
「え? 何かやっちゃいましたって! どこのラノベ無自覚チート野郎っすか!? なんすか、最強ハーレムでも作るつもりっすか!? 全員おとすつもりっすか! 異世界で農業でも始めるんすか!?」
黄河さんが涙目で迫っていらっしゃいます。
黄河さんは、笑顔が素敵でお仕事もスマートですが、プライベートでは凄くお元気です。
「もう研修中から言ってたじゃないっすか! 千金楽さん! この人儂TUEEEEだって! 世界のパワーバランス崩れるって!」
「うるせ! 俺だって、注意もしたし、見張ってたけど、この忍者、いつの間にか魅了してんだよ!」
「忍者で魅了持ちで白髪で戦えて知識もあって性格もいいって、神様! この人どこの異世界から転生してきたんすか! なんか弱点ないんすか!? くせえとか! くんくん! おじいちゃんの優しい匂い!」
黄河さんは本当にお元気で、よく皆さんが黄河劇場と呼んでいますが、なるほど、その通り見てて飽きません。
「ああ! その優しい微笑みが憎い! 同性も落とす気かこのやろー!」
「いえ、そんなつもりは。ですが、黄河さんはエネルギッシュで面白い事を一杯喋ってくださいますが、決して人を傷つけることは言わないなあ、と優しい方で尊敬してます」
黄河さんが、顔を真っ赤にされて魚のようにパクパクされています。
「ちょっと待って! そんなおじいちゃんティーカッププードルみたいな顔しないで。お、俺! 帰ります! 帰って、美少女ゲームやって自分を取り戻してきます!」
黄河さんが慌てて帰り支度を始めます。おじいちゃんティーカッププードルみたいな顔は褒められているんでしょうか? 私は、どちらかというと秋田犬派なのですが。
「し、師匠! 今日は沢山勉強させていただきました!」
緋田さんが深々と頭を下げてきます。参りますね。
「緋田さん。緋田さんの方が先輩なんですからやめてください」
「いや! 俺は、本当に未熟者で分かっていませんでした! 執事道は奥が深かったです! 今日から俺は心を入れ替え師匠のような執事を目指します!」
あの騒ぎのあとの、緋田さんは見違えるように誰に対しても一生懸命でした。元々そういう性格なのでしょう。私がメモをとっていれば、緋田さんもメモをとるようになり、下がっては物陰で一生懸命メモをとり、すぐに実践されていました。
勿論、すぐにとはいきませんが、執事たちもお嬢様達も緋田さんの一生懸命な姿にとても好感を持っていたように思います。
「し、師匠。それで、あの今日自分たちの最後のお嬢様が来た時、珍しく案内係の師匠が手間取っていたようでしたが」
「ああ、アレは大したことではないです。慣れない靴だったのか靴ずれをおこしていらっしゃるようだったので、少しお手伝いを。靴ずれを起こしてしまっていることが恥ずかしいお嬢様もいるでしょうから、少しお話にお付き合いいただいて、一人になった時に。靴ずれで楽しめないのはお辛いでしょうから」
「なるほど! 話の内容はどんなものを!?」
緋田さんは、メモを一生懸命とっていらっしゃいます。私も負けていられませんね。
「ああ、鞄につけてらしたキャラクターのお話を少々聞かせて頂いてました」
「んで、それを俺に教えて、俺がそのキャラとアニメは黄河が詳しいから、俺が黄河に振るよう黒鶴さんにお願いした」
「そうそう、黄河さんありがとうございました。流石です」
「んへっ!? な、なんですか!?」
「また、よろしければその作品について教えてください」
「あ、アレは、ウチの姉ちゃんが詳しくて」
「ほう、お姉さんもそういうアニメに詳しいんですね」
「ね、姉ちゃんまで落とす気ですか! でも、アイツはマジでやめておいた方がいいっすよ! アイツ、二次元と三次元の区別のついてない本物の2.5次元在住女ですから! マジでマジでヤバいっすからー!」
黄河さんが慌てて去っていってしまいます。
「黒鶴さんもありがとね」
「ん? ああ、千金楽、気にするな。お仕事だ」
「黒鶴さん……今日もこれから現場?」
「ああ、推し事だ」
「好きだねえ」
「彼女達を支えることが俺の使命だからな」
そういいながら黒鶴さんはとっても派手な女の子6人がプリントされたTシャツに着替えます。
「また、推しグループ変わったの?」
「ああ、メジャーデビューすれば後は彼女たちの頑張り次第だと考えるようにしている。俺はそこまでを支え応援する。今度のも素晴らしいぞ」
「私も、是非黒鶴さんのお勧めの音楽聞いてみたいです」
「白銀さん……是非聞いて、一枚でもいいので買ってあげてください! 頑張っている若者達には我々の力が必要なんです!」
「はい!」
「では、またよろしくお願いします。今日は大変でしたが皆さん本当にお疲れさまでした。体調管理だけはしっかりと」
眼鏡を直しながら黒鶴さんはそう言って去って行かれました。
「し、師匠! 今日はお暇ですか、是非お話を」
「あ、あの、緋田さん……その、師匠というのは……」
「え……? では、俺は師匠を普段はなんとお呼びすれば……で、出来れば! 仲の良い感じで呼びたいのですが!」
「えー、そうですね……拓さん、は、どうでしょうか? 以前の職場ではそう呼んでくださるお友達が多く」
といっても、おじいちゃんおばあちゃんですが。ああ、そういえば、小鳥さんも、時折呼んでくれました。お元気でしょうか。そろそろ退院のはずですが。
「拓さん……! いいっすね、分かりました! 拓さん! これから俺拓さんを見ていっぱい勉強させていただきます!」
「拓さん見てたくさん勉強……ふふ……」
遠くで着替えてらした緑川さんがぼそりと呟きます。駄洒落です。
「ぶふーっ! み、緑川さん……す、凄い瞬発力ですね」
いけません。緑川さんの駄洒落はジジイにも分かりやすく笑ってしまいます。
「さんきゅー拓さん、そのお褒めの言葉はありがたく……サンキュー、ありが、たくさん、きゅー」
「ぶふーっ!」
「おい、緋田……こいつ、駄洒落のレベルだけは低いから、ここだけは学ぶなよ」
「はい……」
緑川さんが最後まで私を笑わせて楽しそうに去って行かれました。
「で、拓さん、どこに行きます!?」
「あー、緋田。悪い。今日は、ちょっと話があるから勘弁してくれ。蒼樹のことで」
「あ……はい。あの、蒼樹、どうなるんすか?」
「とりあえず、今日は一旦頭冷やせって帰らせた。もしここを続けるとしても最初からみっちりやり直す。……入った頃は、すげえこの仕事にやりがいを感じてたのにな」
千金楽さんが初めて見せる悔しそうな顔に、私は驚いてしまいました。
まるで自分の事のように眉間に皺を寄せ歯を食いしばり、拳も握り過ぎて爪が食い込んでいます。
「あの……やっぱ焦ってたんだと思います。みんな凄いから。俺は、それで腐ってたけど、アイツは少しでも勉強しようと、色んな店行って研究して……でも、それがよくなかったんでしょうね。アイツ、『向こう』の考え方に染まって……俺もそうでしたけど俺はそこまで深い考えなくだったんで、でも、アイツの場合はしっかり教え込まれて」
どこかほかのお店と掛け持ちをしていたということでしたが、それが蒼樹さんを変えてしまったという事でしょうか。
環境は大切です。私も、ここに来なければ腐っていたかもしれません。
「……まあ、店それぞれの考え方がある。アイツがそっちの方がいいっていう結論だすなら、それまでだ。ただ、ウチにはウチのやり方がある。緋田、本当にここでやっていきたいなら忘れるな。【GARDEN】は、全ての花を愛し、育む場所だ。ルール破る人間は追い出しても一生懸命咲こうとする人間は誠心誠意支えろってのがオーナーの考えだ」
「はい!」
「まあ、お前なら心配はしてないけどな。じゃあ、先帰れ。お疲れ」
「はい! お疲れさまでした!」
緋田さんはテキパキと着替え去って行かれます。
「さて、と」
「はい」
「おつかれさん。まあ、ということで、蒼樹は一旦保留だ。甘いと思うかもしれないが、こっちにはこっちの考えと事情があってな。分かってくれ」
「いえ、私自身は千金楽さんや南さんがそう考えたのであれば何も文句はありません」
千金楽さんは私がそういうとやはり困ったように笑います。
「キャパが広いねえ」
「いえ、広げてくれたんですよ。ここが」
本当に。今日は素敵なことがいっぱいでした。
未夜お嬢様に、自分に自信を持てとアドバイスをいただきました。
朝日お嬢様が立派に成長なさるところを目撃し、執事の喜びを噛みしめました。
カルムの常連の皆様にお越しいただき今までの私も肯定された気がしました。
そして、沢山のお嬢様やお坊ちゃんと花が咲いたような笑顔と触れ合い、私は、ここに来て本当に良かったと。そして、もっともっと
「ほどほどにな」
千金楽さんが笑って、そう仰います。流石、私の先生です。
「よーし、拓。今日のやり過ぎな点をラーメンでも食いながら反省するか」
「またですか、あの、何度も言ってますが、私ラーメンはちょっと胃が……って、千金楽さん、今……」
「あん? お前の弟子が拓さんって呼んでるから、俺が拓って呼んで何か問題あるか? 拓」
「いえ……ありません。行きましょう、若井さん。ラーメン以外の胃に優しい所に」
なんでしょう、私は、本当にここに来てよかった。
同級生におじいちゃん扱いされていました。
先輩にも私を敬う、もしくは、労わるような態度をとられていました。
若者にジジイ呼ばわりされて、辞めさせられました。
ですが、ここなら、私は、一人の白髪執事として、一人前として、居られるのです。
でも……どこかで、私を対等に見ようとしてくれた人が今までいたのを忘れているたのではないかという気もしてきたのです。
対等に見よう、対等でいたいとおもってくれた人たち……
「あ、そうそう。拓」
ハッと若井さんの言葉に思考が中断されます。
やめておきましょう、ジジイの物忘れはひどいので、ふとした時にまた思い出すことを祈りましょう。
「なんでしょうか?」
「あの約束絶対果たせよ」
「あの約束?」
「給料入ったらすぐだ。くくく……絶対予算落とせる。自信がある。……あ、プランと服装は俺プロデュースな。大丈夫、お前とあの人の好みは把握してるつもりだ」
えーっと、なんのお話でしたっけ?
その後、私は、おそばを頂きながら、『その日の計画』を聞かされたのでした。
そして、
「きょ、今日は、お招きいただきありがとうございますっ! ふ、不束者ですが! よろしくお願いいたしますっっ!」
そんな風に朝からお元気なのは、南さんです。
ジジイなので、早起きでしたし、動きがトロいので早め早めにしてると、一時間前についたんですが、もういらっしゃいました。
いつからいらしたのでしょうか?
さて、本日は南さんとお出かけです。
今日は、南さんに雇って下さった感謝の気持ちを精一杯伝える日です。
『今日はセーブしなくていいからな! 思いっきりオーナーを幸せにしてあげろ! そして、いっぱい予算を落とさせろ! 教育係命令だ!』
教育係命令とは?
千金楽さんのいやらしい顔が浮かんでくるのを振り払い、私は南さんの元に駆けよります。
「すみません、お待たせしてしまったようで。もしかして、大分待ちましたか?」
「い、いえ! いみゃ! いま! 今! 来たところでし! で、でしゅ! ……ぃ、いまの、デートっぽくなかった? ぽかったよね、ぽいぽい、きゃー……!」
え? なんですって?
後半が聞き取りづらかったのですが、嫌ですね。ジジイは本当に耳が遠くて。
「あ、あの……南さん」
私が南さんに呼びかける為、肩を叩こうとすると、南さんが高速で振り返り、
「手ぇええええ!? 手ですか!? そうですね! いいですね! 繋ぎましょう!」
と、私の手を取り、早足で歩き始めます。
ああ、なんかいいですね。
孫との散歩みたいですね。
でも、ちょっと女性の手を握るのは、気恥ずかしいものがあるんですが……。
いえ、頑張ります!
今日は、誠心誠意南さんの為に尽くすのです!
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