20話 朝日、奪われる☆
イメージ変わってしまうかもしれませんが、朝日お嬢様視点の物語です。
【登場人物】
福家 拓司。50歳。主人公。執事名【白銀】
白髪、老け顔、草食系、実は……。
下柳朝日。初めて執事喫茶に来た。
【朝日視点】
「き、来てしまった……!」
下柳朝日、21歳。遂にここまでやってきてしまった。
執事喫茶【GARDEN】。
緑が沢山で、クリーム色の素敵な外観。
そして、なんか凄い高そうな文字の看板。
引き返したい。
でも、私のようなゴミ女が、予約をドタキャンなんて、もうそれは粗大ゴミ女だ。
申し訳ないどころではない。
目の前をピンクとグレーの左右で色の違う髪の女の人が通り過ぎていく。
ヤバい、めっちゃかっこいい。
服装もなんだあれ、どこで売ってるんだ?
流石だ。
執事喫茶似合う。
それに比べ、私はなんだ。
一番ドレスっぽいのを着てきたが、なんだ。
髪も巻いてみたが、なんだ。
なんだ、私は。
気が付くと目の前でそのカッコイイお姉さんがこっちを見ている。ヤバい。
「入らないの?」
声、かっこいいなオイ!
「は、はいりましゅ」
ダサい。私、ダサい。
私のようなゴミ女が噛んでもかわいくない。もういっそ噛み切りたい、舌なんて。
しかし、カッコイイお姉さまのお陰でなんとか入店は出来た。
予約してるし、案内されるし、店内素敵だし、ヤバい。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
金髪執事、ヤバい。
なんで、ジャニー○に入らない? ってレベルのイケメンだ。
あうとかうへとか言いながら、なんとか注文を終える。
もう帰りたい。
場違い感が半端ない。
向こうの方にカッコイイお姉さまがいる。
口に手を当てて天井見てる。カッコイイ。
ていうか、傍にいる執事、白髪だ。なんだ。ヤバいな。
「お待たせしました」
金髪執事がデザートプレートと紅茶を持ってきてくれる。ヤバい。
食べる。うまい。ヤバい。
金髪執事が、私が漫画読むと聞いてめっちゃ漫画の話してくれる。ヤバい。
金髪執事、トークうますぎ。ヤバい。
ヤバい。泣きそうだ。
私、何も出来てない。
何だ、私は。
ゴミ女め。
ただただ、執事にフォロー入れられるだけの私。
ホームページで見たけど、金髪執事は確かトップクラスの執事のはず。
そんな執事に来てもらうなんて申し訳ない。
いや、どの執事でも申し訳ないのだけど。
「あ、あの……し、新人、新人の執事さんとかっています、か?」
「若い執事、ということですかね? でしたら、何人か……」
「あ、あの、申し訳ないんで、そういう人が」
「朝日お嬢様、申し訳ないと思う必要はございませんよ。ですが、かしこまりました。朝日お嬢様……若いのをビシビシ鍛えてあげてくださいませ」
耳元で耳元で耳元で金髪執事が囁く。殺す気か。
その後来た、緋色の執事と蒼色の執事は、ぶっちゃけ、態度は悪かったと思う。
「おまたせしました、おじょうさま」
「よろしくおねがいします」
ただ、私にはこういうのがお似合いなのだ。
こういうのが。
私なんてこのくらいの感じが丁度いい。
ふへへ。
「お言葉を返すようですが、執事長、お嬢様にも気品というものは必要では?」
蒼色の執事が向こうでそんな事を言っている。
私は目が悪くて瓶底眼鏡なのに、耳が良い。
気品なんてない。
「【GARDEN】もお嬢様を選ぶべきです。そして、そのお嬢様に然るべき対応をすべきなんですよ」
然るべき対応。
そうだ。それでいい。
選ばれないのだ。私なんて。
「あのお嬢様を見てください。見た目も磨かれていない。服の質も悪い。ああいう分かっていない客は」
「そうだ! あんなお嬢様はウチにはいらない」
「緋田さん、蒼樹さん、いけません」
めっちゃ言うな。でも、その通りなのだ。
あの白髪の執事さんが窘めてくれてるがそんなこと、しなくていい。
私程度に、そんなこと。
「お嬢様に聞こえているようですよ」
聞こえてます。
でも、大丈夫。
身の程が分かったから。
だいじょうぶ。
だいじょうぶ。
何を震えてるんだ。悲しんでいるんだ。
分かっていたことだろう。
これを理解する為に私は此処にきたんだ。
うん、そうだ。そうなんだ。
なのに。
あの白髪の執事さんがやってくる。私の所に。優しい笑みを浮かべて。
いやいやいやいやいや、いや……いや…………。
来て。
何を考えているんだ、私如きが。
来て欲しい。
調子こくなよ、ゴミ女。
ゴミ女だ。私なんてゴミ女だ。
「お嬢様、私にお嬢様との楽しい時間を過ごさせていただけませんでしょうか?」
「え……いや、いい、です……私なんか、どうせ……」
涙が零れそうだ。
おい、ゴミ女の涙なんて価値ないぞ。
泣いて困らせるんじゃないよ、ばか……。
「お嬢様、姿勢が悪くなっております。じいやは悲しゅうございます」
「え?」
見上げると、あの白髪の執事さんが、困ったように笑っている。
「姿勢です、姿勢。そんな猫背で立派な淑女になれますか」
「は、はい」
慌てて姿勢を正す。
なんか、なんだ。なんか、いいぞ。気持ちいい。
さっきまでと景色が違う。単純だな、私は。
でも、そんな単純な私を褒めてくれた。
「すぐに直せるのは素晴らしいですよ。そして、美しい座り方です。何かなさっておいでですか?」
「あ、多分……昔、書道を」
書道は好きだった。かっこいい文字が書けるようになりたくて頑張った。
そうだ。私も頑張ったことは、ある。
「素晴らしい。しっかり身に付いていらっしゃる。とても美しい、ですよ。お嬢様ならば出来ると信じた私の目に狂いはありませんでした」
「あ……」
うん。なんか、なんだ、うれしいぞ。うれしいな。
「お嬢様。私にお嬢様との楽しい時間を過ごさせていただけませんでしょうか?」
ヤバい。いや、駄目だって、ロマンスグレーさん、ロマグレさん。
私、調子に乗っちゃいますから。
「……喜んで」
乗ってしまった。そして、めっちゃいい顔で微笑み返してくれるロマグレさん。
そして、その後がまたヤバかった。
SSR美人が四人も来た。しかも、そのうち一人が今注目の女優さん、小山内凛音ちゃんだ。
しかもしかも、ロマグレさんの知り合いらしい。
SSR執事……!
で、やっぱり対応はロマグレさんらしい。
やっぱりね、SSRにはSSRですよ。
Nなんてお呼びじゃないんですよ。
私は、笑った。笑ってしまった。
「申し訳ありませんが、先にお仕えするお嬢様がいらっしゃいまして、お待ちいただけますか?」
「「「「「は?」」」」」
は?
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!
なんで、SSR無視してNにいけるんですか!?
え? SSRロマグレさんってそういう縛りプレイタイプ?
そんなことを思ってると、ロマグレさんが近づいてくる。
「お嬢様、いけません。また猫背になっていますよ」
「いや、でも、そうじゃなくて……あの、むこうの凄い人たちが……」
あっち行ってくださいよぉおおおお!
いや、嫌なわけではないんですけど!
むしろ、嬉しさは凄いんですけど!
「お嬢様、私はお嬢様と楽しい時間を過ごすと約束させていただきました。お嬢様との約束を反故にするなど【GARDEN】の執事として在り得ません。それに、向こうのお嬢様達にもあとで必ずお仕えしますので、お嬢様はお気になさらず」
こ の 執 事 ヤ バ い
そして、そのあとあの小山内凛音ちゃんが私に手を振ってくれた。
ヤバい。
顔小さい。
髪の毛キレイ。
パーツ完璧か。
何もかもが違う。
製造元が違い過ぎる。
ブルボ○対やおき○。
いや、違う。ごめん、やおき○。
その後もロマグレさんは丁寧な対応で私をお話してくれた。
名前も褒められた。死ぬほどうれしかった。ていうか、多分一回死んでた。
「さて、では、朝日お嬢様も出発のお時間が迫っておりますので、短い時間ではありますが、この白銀誠心誠意お仕えさせていただきます」
そう、思った以上に時間が経ってた。
もう、終わる。
でも、終わりたくない。
また来たい。
無謀にも私はそう思ってしまっていた。
「あの、だったら……お願いが」
「なんでございましょう」
でも、怖い。
さっきの蒼の人の声が刺さったままだ。
また来ていい人にきっと私は『選ばれない』。
選ばれたい。
「あの、私は、どうやったらお嬢様になれますか?」
はい、私は馬鹿か! なんだその質問! ばか! しね! しんでしまえ! しんじゃえ、わたし……!
でも、どうせしぬならまえのめりだ!
私はロマグレさんの目を見て心を込めて伝える。
「私も、お嬢様になりたいんです」
また、ここに。あなたに会いたい。
「わ、私、一重だし、目が小さいし、眼鏡分厚いし、あの、服のセンスとかもないし……でも、私、どうしても、来てみたくて、でも、なんか、私みたいなのがいていいのかなみたいな感じがして」
めっちゃ喋るやん私www
でも、もう止まらない。走り出してしまったのだ。
そして、そんな私と目線を合わせて白髪のロマグレさん、白銀さんは言った。
「朝日お嬢様、まずひとつ。朝日お嬢様は、お嬢様です。ここに来られた以上、お嬢様なのです。朝日お嬢様は、勇気を出してここに来られたのでしょう? 自分に自信がないけれど、それでも、頑張ってここに。それは勇気です。素晴らしい事です」
そう。勇気を出して此処に来た。
ブスが執事カフェwww とか叩かれるのも覚悟で。いや、嘘だ。
叩かれたくはない。でも、この勇気は褒めてほしい。褒めてほしかった。
そして、褒められた。
白銀さんは、一生懸命いっぱい白銀さんなりのお嬢様論を話してくれた。
そして、
「朝日お嬢様が、好きな人やもの達に胸を張っていられるような選択をしていくことが大切なのだと、だからこそ、お嬢様という方たちは輝いて見えるのだと、白銀は思いますよ」
私の心に刺さった。さっき刺さってたアレはどっかいった。
私は、胸を張ったことなんて、ない。
いや、あった。
あれは、そう。書道で賞を貰った時、絵画コンクールで賞を貰った時、徒競走で奇跡の一位をとった時。
いつから、私は私を見なくなったのだろう。私なんてと切り捨てたんだろう。
そんな私なんてを白銀は褒めてくれた。
好きな人に胸を張って。
胸を張ろう。
好きな人が誇らしくいられるように。
今、決めた。
「…………はい」
「朝日お嬢様、今、貴方は立派なお嬢様ですよ。とても、美しく、私は誇りに思います」
「はい。……ありがとう、白銀」
時間が来た。
でも、私は楽しんだ。他人のいる空間でこんなにも純粋に楽しんだのはいつぶりだろう。
なのに。
「今日は……ご不快な思いをさせるような発言をしてしまい申し訳ありませんでした」
あの私の悪口を言った蒼の執事が不愉快そうに謝った瞬間、ビビった。
ビビってしまった。
「いえ、大丈夫、です」
ああ、ダメだ。私は、私は……。
蒼の執事が通り過ぎていく。なんか言えよ! 私!
「……枯れたジジイにはお似合いだよ」
……は?
蒼の執事が白銀に向かって、小さく吐き捨てるように言った。
私は耳が良い。聞こえてしまった。
その時、私の中で何かが弾けた。
私はいい。今の私は今まで散々私を切り捨ててきた。ダサい私だ。
でも、この人は、この人だけは。今からの私を信じてくれたこの人は。
「待ってください……!」
この人を、私の好きな人を守れなければ、本当に私は私を嫌いになる!!
「白銀を、私の好きな白銀を、馬鹿にしないでください……! 謝って……!」
心臓はバクバクだ。死にそうだ。いや、もう一回しんでるんだ。大丈夫。
「は?」
蒼の執事が、不機嫌そうに近づき拳を上げる。
後悔はない後悔はない! よくやった、よく言った私! いいよね、もう泣く! 泣いちゃうからね!
「それはいけません」
気付けば、白銀が蒼の執事の腕をとってた。
は? 達人?
「な……! っるっせえんだよ……! 離っ……!」
「白銀!」
蒼の執事が暴れようとしている。彼は結構若い。
細身だけど、それなりに力はありそうだ。私は思わず叫ぶ。
が、
蒼の執事がくるーんと宙を舞ってた?
は? 達人?
なんか、白銀が合気道的な何かで投げてた。
は? かっこよすぎか?
白銀が、蒼の執事を押さえている。こんなの刑事ドラマでしか見たことない。
「蒼樹……私はね、こんなですから千金楽からも草食系なんて言われることもありますが、勘違いしないでください」
「か、勘違い?」
「草食動物だって、大切なものを傷つけられようとしたら怒るんですよ」
は? かっこよすぎか?
ていうか、待って。落ち着け私。大切なものというのはお嬢様であるから当然であって、でも、ということは私はお嬢様であって、それを認めて頂けただけで嬉しすぎなんですがいかがお過ごしでしょうか。
わたしはこんらんしている!
「いいですか、誠心誠意謝りなさい。そして、もう二度とお嬢様を傷つけるな。でないと……」
白銀が、蒼の執事の耳元で囁く。めっちゃいい声で。
「懲らしめちゃいますよ」
は? かっこよすぎか?
かっこよすぎか?
かっこよすぎか?
心臓はバクバクだ。しにそう。いや、たぶんしんでた。にかいめ。
そのあとの事はよく覚えていない。
何故か凛音ちゃんと連絡先とか交換してた気がするが覚えていない。
ただ、また来ると伝えた時の白銀の笑顔で殺された。三回しんだ。
その日私は初めてレビューサイトに感想を書き込んだ。
今まで私如きがレビューする側とか烏滸がましいと思っていたが、関係ない。
私はお嬢様ぞ。
『伝えたくない……! でも、伝えたい……! 最高の空間がここに、あり、ます……!』
私は、また、あそこに行く。
私はこの日、ダサい私を奪われた。
私の心を奪った白銀に、あのSSR執事に相応しいお嬢様になるのだ。
散々馬鹿にしていた『自分磨き』で私は検索を始めた。
自分が好きな自分に、誇れる自分になる為に。
朝日、昇ります。
いや、ダサいな、流石に。
お読みくださりありがとうございます。
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少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたなら有難いです……。
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