19話 五十路、正す。
【登場人物】
福家 拓司。50歳。主人公。執事名【白銀】
白髪、老け顔、草食系、実は……。
南 詩織。30歳。執事喫茶【GARDEN】オーナー。
黒髪ロング、美人、活発、金持。
若井 蒼汰。??歳。教育係。執事名【千金楽】
金髪、二枚目、チャラ風、仕事出来る。
北野結 W大ミスキャンパス。YUI。
明るい茶色、ポニーテール、活発。
葛西寛子 芸能事務所女社長。葛西寛子。
ふんわりウェーブ、グラマラス、母性溢れる。
東雲明美 美しすぎる空手家。Akemi。
暗めの茶、緩めパーマ、グラビアアイドル並のスタイル。
小山内凛音 注目の新人女優。りん。
黒髪ロング、清楚、スレンダー、危険。
蒼樹。執事喫茶【GARDEN】の執事。他の店と掛け持ちをしている。
お嬢様を貶める発言をし、担当を外される。
「お嬢様、いけません。また猫背になっていますよ」
「いや、でも、そうじゃなくて……あの、むこうの凄い人たちが……」
むこうの……恐らく、りんさん達のことでしょう。
「お嬢様、私はお嬢様と楽しい時間を過ごすと約束させていただきました。お嬢様との約束を反故にするなど【GARDEN】の執事として在り得ません。それに、向こうのお嬢様達にもあとで必ずお仕えしますので、お嬢様はお気になさらず」
四人にお願いしたところ、快く了承してくださいました。
*********
『全く問題ないわ。流石白銀さんね。まあ、というか、正直少し早く来過ぎたのよ。ちょっと前のめりな子達が居て……』
葛西さんの視線の先には明後日の方向を見て誤魔化そうとしている結さんと、恥ずかしそうに小さくなっているりんさんがいます。
『とはいえ、私と明美ちゃんも早くふ……白銀さんに会いたくて、ダメ元で店に入ってみたらここまで通してくれて』
『おい』
『いや、ですが、小山内様が来られたので』
千金楽さんが今日の案内役の黄河さんを睨みますが、なるほど黄河さんのいう事も分かります。芸能人の方が入り口で待っていれば騒ぎにもなるでしょう。
『エントランスでお待ちいただいて確認してください』
『そう、ですね……申し訳ありません』
『いえ、アタシ達がもっと慎重になるべきでした』
あけみさんが頭を下げます。こういう時でも美しい姿勢で惚れ惚れしますね。
『ということで、少しエントランスに戻って……』
『いえ、早めに出発しなければならなかったお嬢様がいらっしゃり、丁度テーブルが空いているので、そちらへどうぞ』
葛西さんの言葉を止め、千金楽さんが提案します。
未夜お嬢様のテーブルですね。
『いえ、でも……』
『先ほど、こちらの黄河の言葉ではありませんが、皆様非常に有名な方でいらっしゃいますので、ここまでお越しいただいた以上、テーブルでお待ちいただいた方がこちらとしても有難いのです』
『そう、ですか』
『ええ、それに。私共執事一同、こんな有名人のお嬢様達がご帰宅されることをオーナーより知らされておりませんでしたので』
ニヤリと笑う千金楽さんと疑問符を頭に浮かべたような顔の葛西さんが南さんの方を向きます。
『え、えーと、色々聞かれたら、ちょっと、私的に、ね』
しどろもどろで答える南さん。あんなに千金楽さんにオロオロする南さんは初めて見ました。
『なるほど……よおく分かりました。じゃあ、折角だから、南オーナーさんとお話ししようかしら、ねえ?』
『は、はい!』
『楽しみねえ、アタシもちょっと南オーナーさんと話したかったんだよね』
『あたしもあたしも。南オーナーと話したかったです!』
『画像もっとあるんですよね、出してください』
と、仲睦まじい様子でテーブルへ向かっておりました。
千金楽さんがとても楽しそうでした。
********
そして、今、お嬢様がそのテーブルへ視線を向けるとりんさんがニコリと微笑み、小さく手を振ってくださいます。
「あ、あわわ……女優さんに、小山内凛音ちゃんに手を振られた……!」
お嬢様が慌ててメニューで顔を隠されます。
「有名なんですね」
「有名っていうか、これから絶対もっともっと有名になりますよ。あの誰にも出せないような清楚な雰囲気で、凄く幅広い演技してて、今大注目の新人女優さんなんです。だから、私なんかより……」
なるほど、りんさんが……。
私がりんさんに視線を送ると、りんさんは物凄く驚いた表情から何かを耐えるように真っ赤に、そして、にこやかに微笑み、何か声をかけた結さんを睨んでいます。
ころころと変わる表情は流石女優さん、なのでしょうか。
私も時代劇と○HKだけでなく、他の番組も見るべきですね。千金楽さんに今、話題の映画はいくつか見せられましたが、お嬢様と話を合わせるためにTV番組も見るよう言われておりました。
「ですが、お嬢様。ここは、【GARDEN】は、外での人気や評価など関係なく『一人のお嬢様』としてお迎えさせていただくのです」
「あ、ごめんなさ」
「なので、今、私の目の前にいるお嬢様は私の仕えるべき、仕えたいお嬢様なのです。比べることなどありませんよ」
「あ……はい……!」
お嬢様は小さく微笑み背筋を伸ばします。
「そうそう、お美しいですよ。お嬢様。そうでした、お嬢様のお名前はなんとお呼びすれば」
「えと……あの……朝日、です」
「朝日お嬢様、お嬢様に相応しい爽やかで素敵なお名前です」
「あ、ありがとう、ござ……」
「ありがとう、で十分でございますよ」
「……ありがとう」
ようやく大きな笑顔を見せていただきました。
「さて、では、朝日お嬢様も出発のお時間が迫っておりますので、短い時間ではありますが、この白銀誠心誠意お仕えさせていただきます」
「あの、だったら……お願いが」
「なんでございましょう」
「あの、私は、どうやったらお嬢様になれますか?」
朝日お嬢様が真っ直ぐな目でこちらをご覧になられます。
「私も、お嬢様になりたいんです」
なるほど。
「わ、私、一重だし、目が小さいし、眼鏡分厚いし、あの、服のセンスとかもないし……でも、私、どうしても、来てみたくて、でも、なんか、私みたいなのがいていいのかなみたいな感じがして」
蒼樹さんの言われたことを気にしているのもそうなんでしょうが、朝日お嬢様は、私によく似ています。自分自身に自信がないのでしょう。
私は膝をつきお嬢様と視線を揃え出来るだけ優しい声で話しかけます。
「朝日お嬢様、まずひとつ。朝日お嬢様は、お嬢様です。ここに来られた以上、お嬢様なのです」
「それは……!」
「朝日お嬢様は、勇気を出してここに来られたのでしょう? 自分に自信がないけれど、それでも、頑張ってここに。それは勇気です。素晴らしい事です」
朝日お嬢様の瞳が揺れます。私は、ハンカチを取り出し、先にお渡ししておきましょう。
「そして、私もまだまだ勉強中の身ではありますが、私の考えるお嬢様として必要なことは『誇り』ではないかと思います」
「ほこり……?」
「私は、お嬢様という方たちは、元々は家や国を背負う為に、マナーを勉強し、美や芸術、武芸、知識など己を磨き続けていた人たちなのだと思っております」
「はい……」
「朝日お嬢様にも、ご家族がいらっしゃるかと思います。友人知人で思い浮かぶ方いらっしゃいますでしょうか。そして、お嬢様が好きなもの、それらを作ったアーティストやそれこそ農家の方や色んな方。朝日お嬢様の『今』を作る色んな方たちがいると思います」
「は、はい」
「今の自分を作り出しているものや人たちに感謝を込めて、そして、恥じぬような振舞いをしよう。そう思うことが何よりお嬢様という存在を表現する方法なのではないかと私は考えます」
千金楽さんから、えすえぬえすの注意事項を聞かされた時にも言われました。
『最近多いんだよ。自分ひとりで生きてるとおもってるヤツ。でもな、どこ出身、誰の家ってのは勿論の事、自分の好きなものや人、そういうのがある以上、責任ある行動をしなきゃダメなんだよ。よくあるだろ、あの犯人は、なんとかっていう漫画を読んでたからああなったんだ、とか。テメエの好きな人や好きなものを守りたいならちゃんと自分を律しなきゃダメなんだよ……って、まあ、白銀は大丈夫だろうけど』
そもそも、えすえすえすが良く分かっていなかったことを告げると、千金楽さんにすごく怒られました。
「少しややこしく言い過ぎましたね。朝日お嬢様が、好きな人やもの達に胸を張っていられるような選択をしていくことが大切なのだと、だからこそ、お嬢様という方たちは輝いて見えるのだと、白銀は思いますよ」
「…………はい」
返事をする朝日お嬢様の背筋は美しく伸び、胸を張り顎を引きこちらをご覧になる姿は、
「朝日お嬢様、今、貴方は立派なお嬢様ですよ。とても、美しく、私は誇りに思います」
「はい。……ありがとう、白銀」
名残惜しいですが、時間となってしまいました。
ですが、時間だとお伝えすると、朝日お嬢様は満ち足りたお顔で優雅に頷き立ち上がられます。
そのお姿を見て、とても良い時間と感じて下さったようで私自身も嬉しくなりました。
「はあっ!? なんでですか?!」
そこに、彼の、蒼樹さんの怒声が響き渡ります。
相手は千金楽さんのようです。
「とりあえず、今日は帰りなさい。あちらのお嬢様に謝罪した上で」
千金楽さんの視線が朝日お嬢様に向いています。
蒼樹さんは、こちらを睨みつけましたが、小さく溜息を吐くとこちらに歩いてきて、頭を下げます。
「今日は……ご不快な思いをさせるような発言をしてしまい申し訳ありませんでした」
「いえ、大丈夫、です」
どこか棘のある謝罪でしたが、朝日お嬢様は少し怯えながらも答えてくださいました。
蒼樹さんは、顔を上げると、何事もなかったかのようにスタッフルームの方へ早足で歩いていきます。
「……枯れたジジイにはお似合いだよ」
すれ違いざまに蒼樹さんが私の耳元で囁きました。
ジジイで耳は遠いのですが、流石にしっかりと聞こえました。
枯れた、ジジイ、そんな事は気にしません。ですが、
「待ってください……!」
私が口を開くより先に、朝日お嬢様が振り返り蒼樹を睨みつけていました。
「白銀を、私の好きな白銀を、馬鹿にしないでください……! 謝って……!」
朝日お嬢様が、蒼樹に、そう仰ってくださいました。
「は?」
しかし、蒼樹はそれも気に入らなかったのか、拳を振り上げ、脅そうというのかテーブルを叩こうとします。が、
「それはいけません」
私が察し、蒼樹の腕をとります。
「な……! っるっせえんだよ……! 離っ……!」
「白銀!」
朝日お嬢様の叫び声が私にかけられますが、心配ご無用です。
暴れようとする蒼樹の腕をぐるりと回し、腕を捻じり、足をひっかけます。
蒼樹は派手に一回転して倒れ、私にその場で押さえつけられます。
「いっ……!」
鼻血も流れているんでしょうか、手で鼻をおさえています。
ですが、今そんな事に興味ありません。床に血がついてないかは心配ですが。
「蒼樹……私はね、こんなですから千金楽からも草食系なんて言われることもありますが、勘違いしないでください」
「か、勘違い?」
「草食動物だって、大切なものを傷つけられようとしたら怒るんですよ」
私が枯れたジジイであることは構いません。ただ、その枯れたジジイという存在と朝日お嬢様がお似合いというその言葉は許せません。
朝日お嬢様は立派なお嬢様なのですから。
「いいですか、誠心誠意謝りなさい。そして、もう二度とお嬢様を傷つけるな。でないと……」
私は出来るだけ怒りを込めて蒼樹に囁きます。
「懲らしめちゃいますよ」
……やはり、私は草食系なのでしょうか。あまり怒ったことがないのでなんというのが正解か思いつきませんでした。
ですが、蒼樹はカタカタ震えながら、小さく頷いています。
さて、少し面倒を起こしてしまいました。どう収めようかとオーナーの方を見ると、南さんを含め、皆様が鼻血を流しているのか鼻をおさえてらっしゃいます。
「厳しいロマグレ様……しゅき……」
「うぅ……かっこよすぎて辛い……」
「アタシ、もしかして、今日死ぬのかな……」
「詩織、あとでそれ頂戴」
「(パシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ!)」
えーと、皆さん、どうされました?
ねえ、千金楽さん。
「逆に怖いわ、その台詞」
逆とは?
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