5 二人の代わり
ライトとシーナがこのパーティーから去って数日。
我々の旅は遅々として進まなかった。
「どうしてこんな魔物相手に手間取るんだ!」
我がリーダーであらせられるハスターは怒り心頭だ。
こうなった理由は明白。
パーティーを結成したばかりで連携が取れていないことを差し引いても、埋め合わせとして入った探検家二人がライトやシーナより遙かに劣っているからだ。
「キリア! 後ろ!」
「えぇ」
ライトの代わり、バレンはたしかに優秀な前衛だ。
周りがよく見えているし、剣の腕もたしか。
だが、ライトのような多彩な魔法は持っていない。
「シンク! 僕を守れ!」
「は、はい!」
シーナの代わり、シンクは土や岩を操る魔法を得意としている。
岩壁は盾となって魔物の攻撃を防ぎ、槍状の岩を地中から突き上げて攻撃することも可能。
防御役という観点から見れば十分に合格点を上げていい。
しかし、やはりと言うべきか、シーナと比べると見劣りしてしまう。
「ようやくか。時間が掛かりすぎだ、もう日が暮れるぞ」
「まぁまぁ。まだ連携が取れていないだけだ。そのうちよくなる」
「はっ、どうだかな。人選びに失敗したかも知れん」
よくないな。
ハスターの一言で場の空気が更に悪くなった。
また二人のように辞められては俺の負担が多くなってしまう。
あとでフォローをして置かないと。
「シンク! 家だ! 今日はここで野宿だ」
「は、はい。わかりました」
地面から土が噴き出し、完成する地下室。
階段を下るとそれなりに広い空間が現れ、照明として光る鉱石が置かれている。
ベッド台も人数分あり、岩石のプレートで仕切りもできる仕様。
寝室として問題なく利用が出来、雨風が凌げて魔物にも気付かれにくい。
シーナの結界魔法と比べさえしなければ、シンクの魔法もかなり優秀だ。
そう、シーナと比べさえしなければ。
「チッ。俺はもう寝る」
魔法陣を用いた便利な機能はここにはない。
酔った勢いでシーナを追放したのはハスターだ。
流石の彼もその店については文句は言えない。
ふてくされたようにベッド台に寝具を敷いたハスターはそのまま床につく。
「今後についてまだ色々と聞きたかったんだけどな」
「こうなったハスターは意地でも動かない。翌朝には機嫌が直ってることだろうし、あまり気にしないほうがいい。精神がもたない」
「とんでもないパーティーに入ったのかもな。俺たちの前に抜けたって言う二人の気持ちがわかった気がする」
「もっとちゃんと出来るように私、頑張ります……」
雰囲気の悪いまま今日のところはこれで一日を終えることに。
まったく、困った話だ。
ライトとシーナの二人がこのパーティーの要だったというのに。
俺もハスターもおまけみたいなものだった。
だと言うのに酒と短気で二人を失い、パーティーはがたがた。
俺も二人に続いて抜ければよかったかも知れない。
だが、それでも俺にはどうしても金が必要だ。
目標額を貯めるまでは這い蹲ってでもハスターの後についていかないと。
「はぁ……」
大きめのため息を吐いて眠りにつく。
明日目が覚めたら抜けた二人が戻って来ていてくれないかと、そんなあり得ないことを思いながら。
§
村長と兄弟、老婆と村人たちに見送られ、ディアル村を後にする。
天候は晴。気温は高く、すこし熱い。太陽に雲がかかることを願う。
「黄金郷伝説によれば、旅人をサンタ・マリアに導いたのは金色の鳥だった」
「実際、金色の鳥はこの世界の各地で目撃例が挙がってる。ウルド・シルルの絵画、キリル・ダランの日記、シルク・ショーの彫刻。どれも眉唾ものだったけど、ついに実際に見たって人を見付けた」
「少なくとも七十年は前の話に信憑性があるか疑問だけどね。幻覚を見たのかも知れないし、夢の話かも」
「それで困ることあるか?」
「ない。真偽を確かめに行くのも旅の彩り。このまま金色の鳥を探しにいくわよ」
「そう来ないと」
パーティーを抜ける前に定めていた目的地から逸れ、老婆が示した道を行く。
「お婆さんが金色の鳥を見たのはディアル村から西に山を二つ越えた先。辿り着くまで長そうだな。途中で村があると良いけど」
「あたしたちもそろそろ馬か何かを買う時期なのかもね」
「馬か……でも、維持費がな。それに魔物と出くわした時に足枷になるし、死んだら悲しいし」
「あんた、そういうところ意外と繊細よね」
シーナはそう言うが、長年連れ添った馬のために引退する探検家は少なくない。
移動手段として見ていても、いつの間にか仲間となり、家族となる。
旅を長く続けたいなら馬を飼うな、それが探検家の定説だ。
「あら? 馬車が停まってる」
「行商人か? なんか珍しいもの売ってるかも」
足下から続く轍の先に停車する馬車。
近くに寄ってみると、どうやら様子がおかしい。
馬車から馬が外され、行商人は頭を抱えている。
「よう、どうしたんだ?」
「ん? あぁ、探検家か。いや、参った。馬が怪我をしてな」
見れば馬の右前脚に包帯が巻かれ、赤く血が滲んでいた。
怪我の位置から見て、自然についたものじゃなさそうだ。
「魔物でも出たのか?」
「あぁ、俺みたいなのでも追い払えるくらいの奴がったのが幸いだったよ。しかし、どうしたもんか。今日中に村まで運ばなきゃならない荷があるのに」
「ライト。あんたの出番じゃない?」
「そうだな。ちょっと怪我を見せてくれ」
「あ、あぁ。でも、何するんだ?」
「見てればわかるよ」
巻かれた包帯を丁寧に剥がし、傷の具合を見る。
出血は多いが、それほど深くはなさそうだ。
これなら大丈夫そう。
「ホロスコープ」
星の光が空中に集う。
「水瓶座」
それは清められた水となって患部を覆い、瞬く間に傷を癒やす。
後には傷も残らない。
「治った!? ははっ! こりゃ凄い! ありがとう! 助かったよ!」
「どう致しまして。その代わりと言っちゃなんだけど、次の村まで乗せてって貰える?」
「そんなことで良いなら喜んで。さぁ、乗ってくれ!」
早速、乗り込み、徒歩から快適な馬車の旅へ。
ちゃかぽこちゃかぽこ。
蹄の音と心地良い揺れの中、大自然の風景を眺めながら時間は過ぎていく。
「すげー楽だ。やっぱ馬は必要かも」
「でも死ぬと悲しいわよ」
「だよなぁ……保留で」
利便性と最期への憂いで揺れ動く中、日は傾き空が茜色に染まる。
地平線に夜の気配を感じていると、行商人から声が掛かった。
「見えて来たよ」
「ホントだ。結構、大きな村だな」
石造りの立派な門と、その前に立つ武装した門番。
馬車が一度停まりはしたが、すぐに村の中へと入れてくれた。
「ありがと、助かった」
「助かったのはこっちのほうだ。縁があればまた会おう」
行商人を見送り、改めて村の様子に目を向ける。
ディアル村よりも発展しているが、ハスターと別れた街ほどではないといった印象。
武装した兵士か自警団が巡回しているようだし、治安も悪くなさそうだ。
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