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1 再出発


「重たっ。あいつ俺一人に買い出し押しつけやがって」


 日用品や食糧が詰まった袋を下げて歩くのは見慣れない街並み。

 ここに滞在して丸一日。次の街に行く準備は俺の腕の中で完結してる。

 あとはあのお坊ちゃま貴族のリーダー様がその気になればいつでも発てるけど。


「今日も酔ってるんだろうな、あいつ」


 酒好きな上に酒癖が悪いし、必ずと言っていいほど二日酔いになりやがる。

 たぶん今日もこの街に滞在することになるだろう。

 あの飲んだくれめ。肝臓壊れちまえ。


「やっとついた」


 ドアノブにすこし苦戦しつつ扉を開ける。

 すると、飛び出して来た誰かと危うくぶつかるところだった。


「危なっ。気を付け――って、シーナか」


 黄金の髪に赤い瞳。

 整った顔立ちにツインテール。

 パーティーメンバーのシーナだ。


「そんなに急いでどうした?」

「はぁ……」

「なんだよ?」

「あたしこのパーティー抜けるから」

「は? え、なんで」

「あの飲んだくれ馬鹿に追放されたからよ。じゃ」


 俺の側をすり抜けて、シーナは街の人混みに消えて行く。

 その様子をただ眺め続けていた俺は、すこししてようやく現状を飲み込めた。

 買い物袋をその場に落とし、一目散に取ってある部屋へ。


「シーナを追放したってホントか!? ハスター!」

「ああん?」


 このパーティーのリーダー。

 貴族出身のハスターは火を噴きそうなほど真っ赤な顔をしてジョッキをテーブルに置く。

 扉を開けた瞬間から顔を顰めたくなるほど濃い酒の臭いがする。

 こいつ酔っ払った勢いで大した考えもなくシーナを追放しやがったな。


「そうだよ。あいつ、この僕に楯突きやがった。お前らの装備も! 食費も! 宿泊費も! 全部僕の金なのに!」

「それは最初期の話だ。初期投資はそうだったけど、自分で稼げるようになってからは違う。それに俺とシーナが借りた分はもう返済しただろ」

「黙れ! 誰のお陰で旅に出られたと思ってる! 誰のお陰で秘境を目指せると思ってるんだ! 言ってみろ!」


 ダメだこいつ。

 話にならない。


「おい、キリア。なんとかならなかったのか?」

「ハスターが決めたことなので」


 これだから自分のない奴は。


「考え直せ、ハスター。シーナが抜けた穴をどうするつもりだ」

「そんなものは幾らでも替えが効くだろ。大げさなんだよ、お前は」


 あぁ、こいつはまるで何もわかってない。

 シーナの代わりなんているはずがないのに。


「とりあえず、水でも飲んで酔いを覚ませ。俺はシーナを引き留めてくるから」

「待て」


 部屋の扉に手を掛けたまま振り返る。


「あんな奴は放っておけ」

「断る」

「僕の言うことが聞けないのか?」

「聞く必要がどこにある」

「俺に借りがあるはずだ」

「何度もお前の命を救ってやった。借りはもうない」

「どこまで僕の機嫌を損なわせたら気が済むんだ。いいから、あいつのことは、放っておけ」

「わからない奴だな、お前も。断るって言っただろ」


 ドアノブを捻り、扉を開ける。


「この部屋から一歩でも出たらお前も追放だぞ! ライト!」


 追放? 上等だ。

 正直な話、シーナが戻らないなら俺がここに残る理由はない。

 いい加減、クソ野郎の下にいるのも飽きてきたところだ。


「なら俺も抜けさせてもらう」


 なんの躊躇もなく部屋を出て扉を強く閉める。


「シーナを捜さないと」


 宿屋の入り口に落としていた買い物袋を跨いで外へ。

 金髪のツインテールを捜すも見当たらない。


「しようがない。まだ昼間だけど」


 発動するのは星魔法。


「ホロスコープ」


 星の導きが直感として現れ、シーナの行き先を教えてくれる。

 昼間はあまり精度がよくないけど、外れていないことを祈ろう。


「あっちだ」

 

§


「見付けた」

「ライト」


 向かい側のテーブルに腰掛け、頬杖をついたシーナと目を合わせる。


「戻んないわよ、あたし。あの恩着せがましいぼんくら貴族の下にいるなんて無理」

「俺もだよ。だから抜けてきた」

「え、ホントに?」

「そ。いい加減、嫌気がさしてたところだ。買い出しも一人で行かされたしな」


 店員さんがお冷やを持ってきたのでついでに注文を済ませる。


「旅は続けるんだろ?」

「えぇ、そのつもりだけど」

「なら男手があったほうがいいよな」

「あんたを連れてけって?」

「もっとストレートに言ったほうがいい?」

「まぁ……いいわよ」

「それどっちの意味?」

「ついてきても良いって意味。わかってて聞いたでしょ、今」

「バレたか」

「バレバレ」


 冷たい水を口に運ぶ。


「それじゃ、これからどうする? 路銀と物資にはまだ余裕があるけど」

「当初の予定通り」

「なら、変わらず目指すわけか。黄金郷サンタ・マリア」

「もちろんよ。そのための旅だもの」


 この世界には言い伝えのみが存在を証明する秘境が幾つかある。

 そのうちの一つが黄金郷サンタ・マリア。

 そこは木も、土も、動物も、すべてが黄金で出来ているという。

 俺たちの旅の目的は、その黄金郷サンタ・マリアに到達すること。


「でも、こうして改めて考えてみると雲を掴むような話だな。この街に来たのだって眉唾物の噂を手繰り寄せてやっとだってのにさ」

「もしかしたら正反対の方向に進んでるかもね。でも、それがいいんじゃない。回り道も旅の醍醐味でしょ? 黄金郷は逃げないんだから。本当にあるなら、だけど」

「だな。俺たちはそれを承知で旅してるんだった。忘れてたよ」


 旅の果てに何が待っていようと追い求めずにはいられない。

 それが俺たち探検家だ。


「それじゃ、行くわよ。ぐずぐずしてたらハスターと鉢合わせちゃう」

「心配しなくてもありゃ二日酔いコースだ。それに俺たちが抜けた穴も埋めなきゃならないし、しばらくはこの街で足止めだよ。だから、ちょっとだけ。な?」

「いい気味ね。じゃあ、あとちょっとだけ待ってあげる。注文したのが来て、それをあんたが食べ終えるまで」

「助かる」

「あたしも何か注文しよっと」


 しばらくして注文していた軽食が運ばれ、他愛の無い雑談を交えて食事を終えた。

 喫茶店を出ると時刻はまだ朝と呼べるくらい。

 日差しがキツくならないうちに街を出よう。


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