王の骸 4
最初から気づいていた訳じゃない。
ルールを聞いて圧倒的に負け筋しか見えなかった。
痛みがあって冷静じゃなかったのもあったと思う。
でも、布石になってくれた。
第三ゲーム。
迷うことなく面を選んだ。
「早くしろよ」
「……っち。待てよ」
「自分は待たせるのか?随分と都合がいいな」
「当たり前だろ。誰の賭場だと思ってんだ!」
「……」
相手の思考が分かってきた。最初の2、あれは俺の挑発に乗るかどうかを確かめるためだった。王を出すという選択肢はあったが確率的に不安定過ぎる。だから、負けても損傷がない2を選び、相手が何を出すかを見た訳だ。ただ……。
「ほら、決めたぞ」
そう考えていると、バルデルは握った手をテーブルに置く。
「こい」
「では、オープンしてくだせぇ」
手を開く。相手の手はドクロ、僕の手は1。
「……」
「5を選んでると思ったか?」
「……」
「ちなみに、3勝まで行かなかったら勝利数が多い方が勝ちだよな?」
「……」
「おい、お前どうなんだ?」
「へ、へい。そ、そうです」
「そうか。じゃあ、第四ゲームに行こう」
「……」
第4ゲーム。
相手の思考は完全に読めてる。だから、きっとここで彼女は……、
イカサマをする。
「……」
「なんだよ?」
「いや……」
目線に気を配るが、怪しい点はない。上を見ても恐らく今は無意味だ。鏡以外のイカサマ、魔法や魔法道具?いや、サインと考えるべきか?……、いや、そうじゃないな。
「……」
ゆっくりとサイコロを握って拳を置く。彼女に目線を合わせてニィヤァァァアアアと笑う。
「っち、キモイんだよ、カス!」
「……早くおけよ」
「分かってる。ほら」
「それではオープンしてくだせぇ」
手を開く。相手の手は5、僕の手は3。
「よしっ!ざまあみろガキ!」
「……それでいい」
「あ?」
「終わっていた。第一ゲームで」
「……何言ってんだ!」
「結果はもう出てるぞ」
「頭おかしいのか?お前は5と王、あたしは1と3。まだ読み合いは回ってるだろ!」
「本当にそう思ってるのか?」
「……は、早く次のゲームに移動しろ」
「へ、へい。ペナルティはなしでいいんですよね?」
「早くしろって言ってんだろ!」
「へい!で、では第五ゲームでさぁ」
第五ゲーム。
「俺は王でいく」
宣言を高らかに目の前に握った拳を置く。
「……あ、頭おかしいだろ。おまえ!」
「早くしろよ。3を出せば引き分けだ」
「……」
口元を隠して彼女は考え出す。そんな彼女をじっと見つめる。
「……」
握った拳から汗が出てきていた。
これは正真正銘の賭け。彼女が冷静であれば通用することはない。
「ふぅー。よし、ああ、勝負だ。あたしは3で行くからな」
「……」
互いの拳がテーブルの上に置かれた。
「そ、それではオープンしてくだせぇ」
手の平を開く。握った拳の中でじんわりと湿った王冠が明るみに出る。
「くっ!」
「どうした?開けよ」
バルベルは握った拳を開かない。
「何で!何でだよ!くそっ!深読みしたのか?あたしが……」
「……。魔法銃だろ。たぶん小型の。それを自身の歯に撃ってもらう。口元を隠していたのはそのためだろ?位置によって僕の手が分かるって寸法だ。僕の手は囲んでるこいつらが見て、魔法銃を撃つ係に伝える。それが第二のイカサマだ」
「……」
「第一のイカサマはサイコロにばかり目線をいかせるためだ。第一のイカサマに気づいてそれを警戒したら、第二のイカサマはし放題になる。わざわざ頭を下げなきゃいけないんだから」
「……気づいてたなら、どうして?」
「どうして手を変えなかったか。それはお前がそのイカサマを信用しないと読んだから。ここぞという時でお前は勝負する癖がある。
第一ゲームで出した2の面は、イカサマを信用した上でかつ勝負をしようとしたから。挑発に乗らないなんて口では言うがブラフだったわけだ」
「……」
「第一試合の第二ゲームだってそうだった。お前が先に面を決めている。
イカサマを使わないで第二ゲームを勝負するなんて普通に考えたら絶対しない」
「……おい、じゃあ、お前はそれの一手に賭けて出したのか?」
「もちろん」
「負けたら死んでたんだぞ?それなのに、か?」
「……勝ち続けるには、相手の心理を読む必要がある。ここで仮に安定択を取っていたら、裏カジノに行って負けてしまうだろう。なら、僕は……死を代償にしても、賭けるべきだと判断した」
「……おかしい。どうかしてるぞ、お前」
「どうかしてないと、賭博なんてやらないだろ」
「……閉幕だ。指輪を持ってきてやるからラーメンでも食って待ってろ。おい」
「へ、へい」
自分の手に刺さっていた釘が抜ける。
「ほら、行けよ」
「……ああ」
ダラダラと血が出ている手を見ながら僕は出入口へと向かった。




