残されたノート
城の裏へとフリルを連れて歩いて行く。
僕の手元にあったのは今朝貰ったノートだけだった。
辺りは暗くなり、雨が降っている。
「……」
これからどうすればいいのだろうか。寮を追い出されたわけだから、今日泊まる場所を探さないといけない。
「フリル、宿を知ってるか?」
震えた声で僕はそう言った。
「……」
何も答えず彼女は下を向いている。何を彼女に言えばいいのか、それが思いつきそうにない。仕方なく辺りを見渡す。文字が分からないので、それっぽい店に入ることにした。
「あの、すいません」
「はい?」
「ここは宿屋ですか?」
「は?文字読めないんですか?」
「……違うならいいんです」
馬鹿にするような目を店主にされた。どうやら違う店だったみたいだな。
外に出る。雨は止みそうにない。
「は、はは……」
笑っていた。最初、追放された時はどこか異世界にわくわくしていたのに……、今はまるで慣れた前の世界みたいに感じる。人が冷たくて、疎外されたような、そんな……。
「……おい、お前」
「……はい?」
「笹路……。生きてたんだな」
話しかけてきたのは見覚えがある顔をしたやつだった。でも、見覚えがあったのは顔だけ。片腕を亡くしたそいつは、バングルを見せて
「三村、覚えてるか?」
そう言った。
「……うん。覚えてる」
「……。他の奴と会ったか?」
「いや……。会ってない」
「そうか」
何故そこに彼が居たのか?そうした疑問は思いつかなかった。ただ、そいつはそこに居たんだ。
「一部屋、三人なんだが。お金は?」
「100ゴールドになります」
「……じゃあ。はい。これで」
そんな会話が聞こえたと思う。気がつけば僕とフリル、三村は宿屋の部屋に居た。
「おい、そろそろそいつについて教えろよ」
三村は目線でフリルを見る。
「……カジノで働いてた仲間」
「カジノに居たのか。会わないわけだ。それで、名前は?」
「フリル」
「そうか。おい、フリル。感謝くらい言わないのかよ」
「……」
「っち。何があったんだよ?」
「そっちこそ」
「……宿代は俺が払ったんだ。分かるよな?」
三村は威圧的な態度を取る。異世界に来ても人は変わらないんだな。
「死んだんだ……」
僕は三村にリュウのことや今までの経緯を話す。
「何だ、たった一人じゃねぇか」
話を聞き終わった三村はそう言った。
「た、たった一人!?リュウさんは僕を救ってくれた大切な!」
「こっちは!
こっちは、俺以外全員死んだんだよ。『ここら辺の魔物は弱いから』って王女に言われて俺らは国を出た。そしたらあいつ、俺らが出たのを確認してすぐに国の出入口を閉めやがったんだよ。それで……」
「……」
「辞めた。もう寝よう。俺もやっと帰って来て眠いんだ」
そう言うと二つしかないベッドの一つを占領して彼は寝だした。
「……フリル。このベッド使って」
「……。
あんたは、どうすんの?」
フリルは振り絞ったような声でそう言った。
「床で寝る」
「……」
僕の言葉に返答をせず、フリルもベッドに入る。
固い床で横になる。
ノートを抱えたまま、気がつけば眠りについていた。




