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稲荷寿司消失事件

「ねぇ、オカケン。ねぇってば!」


二時限目水泳の後の三時限目英語という地獄のコンボを乗り越えて辿り着いた貴重な休憩時間、気力と体力を使い果たして机に突っ伏している俺に無遠慮に話しかけてくるのは、このクラスのスクールカーストのトップに君臨する遠山だ。そもそもこの女にスクールカーストという概念はなさそうだが。だから最底辺の俺にも何の気兼ねもなく話しかけてくるわけだ。


ちなみに俺の名前にはオカの文字もケンの文字も入っていない。この女は中学生の時から同じ学校で何度か同じクラスになったこともあって俺の本名を知っているのにもかかわらず俺をオカケンと呼んでくる。そのおかげで今ではクラスの全員が俺の名前がオカダケンタだとかオカモトケンイチだとかに思っているらしく、出席確認で俺の名前が呼ばれるたびにダレソレ?みたいな空気になる。


その事の発端は春の始業式の新入生へのクラブ紹介の時、部員一人のオカルト研究部の部長に自動的に就任した俺がスピーチを担当するしかなかったのだが、その時に新入部員に入ってきてほしくなかった俺は世に言うオカルトがだいたいインチキであることや部活動を通じて何も得ることがなく、この部に入ると青春の無駄になりますよ。などとグダグダと伝えていたところ、それにブチ切れた教頭が大声で俺のことを「オカケン! 真面目にやれ!」と怒鳴りつけたことにあるので半分は自業自得なのだが。


「ちょっと聞いてるの? 起きてるんだったら返事ぐらいしなさいよ!」

「……なに?」


寝たふりでやり過ごそうと思っていたが、この女、意外にしつこいな。

素直に返事するのも癪なので俺はできる限りの嫌そうな声を作って不愛想に応える。


「あー! やっぱり起きてるんじゃん! オカケン、そういうとこだよー」


どういうところだよ。お前こそそういうところだぞ。


「はいはい、で、何の用?」

「ちょっと聞いてよー さっき早弁しようと思ったら、漁られた感じもないのに二つ入ってたお稲荷さんの一つがなくなってて……」

「はぁ? 最初から入ってなかったんじゃねーの?」

「えー、私が詰めたんだからそんなはずないっしょ」


この女こと遠山茉莉花はギャルではあるが意外と家庭的で手芸部の部員だったりする。制服に飾りなんかを付けるのは校則で禁止されてはいるが、手芸部で作ったものは黙認されていることもあって、部活で大量に作った「作品」を女子たちにばら撒いていて大人気らしい。


「それで、その代わりにおべんとの包みの中にこれが入っていて、なんか気持ち悪くて…… オカケンてこういうの専門でしょ?」


そう言いながら稲荷寿司が入っていたであろう隙間の空いたピンク色の小さな弁当箱を俺の机の上に置き、赤く色づいた葉っぱをほらほら、というように見せてくる。

なるほど、これがわざわざ他の誰でもないオカルト研究部部長の俺に聞いて来た理由か。


「どれどれ」

「文字みたいなのが書いてあるんだけど、何かわかる?」

「んー? あぁ、古い字体で稲荷大明神ってかいてあるな」


ということは奴らの仕業か……


「稲荷大明神って、あのお稲荷さんのこと?」


遠山は両手でコンコンとダブルキツネを作って俺の目の前でぱくぱくさせながらあざとく首をかしげて聞いてくる。そういうところだぞ。


「うん、この学校の裏に古い稲荷の社があって、多分そこのお稲荷さんの仕業だと思う。その葉っぱは多分お金代わりにでも置いてったんだろ」

「へー、さっすがぁ 悪いものじゃなくてよかったー。 で、これってどうすればいいの?」

「さぁ? 一応豊穣の神様の使いらしいから、お守り代わりにでも持ってりゃなんか良いことあるんじゃね?」

「ふーん、そっかぁ…… それじゃお守り袋作らないとね。ありがと、オカケン。今度なんかお礼するから」

「おー、別に気にしなくていいぞ」

「もぅ、私がお礼するって言ってるんだからちょっとは喜びなよー」

「はいはい、こういうところだろ」

「あはは…… うん、わかってんじゃん」


弁当を包みなおして「じゃね」と手をひらひらさせながら自分の席に戻っていく遠山の背を見送ると、クラスの男子全員の視線が突き刺さった。

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