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0.発端

 空の向こう側に何があるのか。という子供らしい疑問を抱いたことのない人はまずいないだろう。空というものが何か理解していない人々を除けば、の話だが。

人類の幼年期には様々な空想が形作られた。神話という形で。まあ、その類型について語ることが目的ではないから、それはそれとしておきたい。


太陽系は銀河系の渦状腕の端に位置する一恒星系に過ぎず、他の恒星系が地球という惑星の『空』の向こうに存在している。更に銀河系という上部構造が存在し、その銀河系をまとめた銀河団、超銀河団とも言うべきグレートウォールと、宇宙の大規模構造が続いているのは特定の宗教の根本主義者でもなければ理解しているし、認めている事象だろう。


それを肉眼で見ることが可能かどうかで言えば、現状不可能ではあるのだが。人類の肉眼で見ることのできる既知宇宙は意外と狭い。


 空の向こう側に何があるか、という話に戻ろう。光速以上の速度を出せるようになった人類は、多数の恒星系に植民をするようになって、同じことを考えた異星体にぶつかって、負けた。同じことを考えたクソ野郎が居たのだ。同じように移民して、同じように版図を広げ、内輪揉めをしながらどんどん外へ、外へと進むことを考えた連中が。そしてそれを実行するのがクソ野郎の方が早かったのである。


我の技術が敵の技術に優越していれば勝てたのかもしれないが、残念ながらその逆で、我の技術は敵に劣後していた。負けるべくして負けた、というだけ。

3001年。あらたな千年紀の始まったその年に、著名なSFの題名にとられた終局の旅どころか、天の圧政を受ける立場に人類は相成った。


「火星、どうなってるかなァ」


男は空を見上げながらぼやく。外出禁止令が敷かれている空軍士官学校卒業後の飛行学校の宿舎の屋上で、たまたま見上げた空にうつったかつては赤かった、今は青い惑星を見ながら、男はつぶやいた。

人種が入り混じり、既に白人とか黒人とか黄色人種とか、そう言ったラベリングが意味の無くなった時代ではあるが、色素の薄い肌に栗色の髪、青い瞳に張り出した眉丘の掘りの深い作りは白人を思わせた。が、名前はというと、峯宇吉国みねうよしくにという東アジアの弧状列島にルーツを持つ、といった具合で、この時代の人の行き来の盛んさを一人で体現していた。


「俺が知るかよ。明日どうなるかもわかんねえのによ」


 個人訓練用のHMDつきのヘルメットをごりごりと屋上にすりつけているのは、ラフマン・ラフマニ。

こちらは、というと名前通りに浅黒い肌に掘りの深い顔、黒い髪を持ち、中東にルーツがあることが見た目からもよくわかったが、実際はかつてのカナダ生まれ。

朝食にメイプルシロップがないと不機嫌になり、プーティンが食べたい、と食堂の飯に不平を垂れる、と言った具合。なんでそんなにカナダが好きなんだ、と聞くと、なんで好きじゃないんだ。と問い返してくるトンチキ野郎である。


「しかしなんだな、ラフマン」


「なんだよ」


 空を見上げれば、敵の艦隊の灯火類が見える。人類のセンスとは程遠い色彩ではあったが、しかし。


「悔しいほどに綺麗だな。敵の艦隊運動」


「まあな。実家の絨毯を思い出すよ」


「お、金持ちアピールか」


「先祖が持ち出せたのがそれだけだった、ってだけさ」


 クソ野郎どもの艦隊は見せつけるように盛んに軌道要素を変更しており赤い推進炎を空に刻み付ける。それ自体が、今この地球の空の覇権を握っているのは誰か、を誇示しているように見える。事実、掛け値無しにそうだったのであるが。


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