表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/196

76.情報収集

「そうと決まれば作戦会議ね。あぁ、その前にマリアが言った通り集められる限りの情報を集めましょう」

 

 私の言葉に皆が頷いてくれる。

「そうね…情報収集に関してはエルグラント、まずあなたにお願いがあるのだけれど」

 エルグラントに言うと、彼はなんでも言ってくれ、と返してくれた。ふふ、頼もしい。

「パッショニアの情報が載っている本。そうね、どんな小さな情報でも構わないわ。あまり下品でない程度の低俗なものから高尚な歴史書まで。ここスプリニアで一般に流通しているものを買えるだけ買って宿に運ばせて頂戴」

 私の言葉にわかったと二つ返事で頷いてくれる。


「そして、ヒューゴ。あなたにもお願いがあるのだけれど、これからあなたの権限を用いて私を王立図書館の禁書庫に入れてもらうことは可能かしら?一般には広まっていないパッショニアの情報も知りたいわ」

「…実際に申請が通るかはわからないが、私が同伴するならおそらく可能だと思う。だが…スプリニアの禁書庫は、禁帯出は勿論のこと滞在には制限時間が設けられている。確か…数時間程度だ。一冊を読み終えるか読み終えないか、というあたりだから、あまり有益な情報は得られないと思うぞ?」

「数時間あれば十分だわ。あなたが同伴して何人までなら入れる?」

「数時間で…?…おそらく、私を入れて三人が限界だろう」

 そう…と私は考え込む。割り振りはどうしようかしら。


「お嬢様」

 マリアが手を挙げてくれる。どうぞ、と促すと僭越ながら、と意見を述べてくれた。

「失礼な物言いを先にお詫びしておきます。ヒューゴ様はおそらく護衛としては少々役不足かと。私がお二人の護衛で王立図書館へ付いていきましょう」

「そうね…それが最善かもしれないわ」

 マリアの言葉にヒューゴが気分を害してないかそっと顔色を伺ったけれど、涼しい顔をしている。あ、もうこれは本人も完全に認めているのね。私の視線に気付いたヒューゴがふ、と柔らかい表情を見せた。

「私はスプリニアの外交官なので。ブリタニカ交渉団の人間のように、身体能力も求められるわけではありません。マリアさんの言うことは正しいです。正直、私は腕っぷしはめちゃくちゃ弱いです」

 ふふっと、噴出してしまう。よかった、ヒューゴも少し元気が出て来たみたい。


「…すると、俺は何をすればいいでしょうか?」

 レイがおずおずと手を挙げる。

「…残念だけど、レイ。あなたは宿で待機だわ」

 私が言うと、レイはちょっとがっかりした顔を見せた。

「仕方ねえだろ。俺と街中を動き回るのも目立っちまう。サラ嬢とお前みたいなのが二人変装したって、どこかのやんごとなきお方のお忍びかと思われて逆に注目を浴びちまう。…お前とサラ嬢は今狙われてるんだ。自重しろ」

「…俺数日前まで自由に動き回ってたんですけど」

「外交官まで使ってお前の情報を集めに来てるとわかった以上、お前を自由に動かすことはできない、いいな?サラ嬢のいうように、お前は宿に待機だ。お前なら何かあっても自分の身くらい自分で護れるだろ」

「…はい」

 おお、エルグラントがとてもとても上司っぽい。そしてレイが叱られた子犬のようにしょんぼりしているのがかわいい。


「そう言えばレイは数日間どこを回っていたの?」

「最優先事項としてエドワード国王への現況報告と、パッショニアに向けて不必要な情報開示への厳重注意を行ってもらえるよう嘆願書の手配。これがいろいろ検閲を通さないといけないので一番時間が掛かりました。それからブリタニカの大使館で、パッショニアから何か行動があった際の対処策について会議を行っていました。それからスプリニアにいる間の警備の強化の依頼。あとは…俺の所在を内密にしたままパッショニアの国王と直接話をできるルートを確保できないか、外交館へと赴いた先で、…まぁ、その後のことはご存じのとおりです」

 あああ、そこまでしてくれていたのね…

「ご、ごめんなさい。レイ…あなたがそこまでしてくれていたのに、私がメリーに直接会うとか言ったからすべて台無しになったわね…」

 思わず小さくなってしまう。レイが私に負担を掛けないように、私を守るために動いてくれていた一か月を無駄にしてしまったことに今更ながら気付く。

「いえ…どっちにしろ俺の行動では根本的な問題解決には至りません。エドワード国王の書状がパッショニアに届くまでの時間稼ぎしかできませんから。…そしてエドワード国王からそのような書状が届いたところで、メリーがすんなりおとなしくなるとも思えない。…実際にサラ様がメリーと対面というのはとても危険なんですが、それが最善の方法だというのも現状です」


「…それでも、そこまで奔走してくれてたのね。ありがとう、レイ」

 私のために、そこまで動いてくれたことがとても嬉しくて、なんだかへにゃり、と笑ってしまう。


「…~~~~っ!!!!」


 ん?レイが真っ赤になっている。

「ど、どうしたの?レイ」

「…なるほど、これは気苦労が絶えないな、レイ」

 ヒューゴが両手で顔を覆うレイの肩をポンと叩き、まるで慰めるかのように声を出す。

「…わかるか?ヒューゴ…俺の気持ち…」

「…なんというか、破壊力抜群だな。いや、私は妻一筋だが…それでも今のはキた」

「心臓持たねえよ…」

 ん?ん?なに?何の話をしているの?そして久しぶりに言葉崩壊しているわよレイ。


「まぁ、茶番はそのくらいにしてだ。そろそろ美術館も開館の時間だ。客が入る前に抜け出さないと目立っちまう」

 エルグラントの言葉に一同が頷く。

「この後はどうしますか?」

 マリアが聞いてくれる。そうね…と私は考える。

「五人でぞろぞろと動くのは目立つわね。二手に分かれて一旦宿に戻りましょう。ヒューゴは今日はお仕事は?」

「ここに来る前に休暇届を出してきた」

「そう、それなら…私とエルグラントとマリア。レイとヒューゴでそれぞれ宿に戻りましょう。レイ、申し訳ないけれどヒューゴに部屋まで案内をお願いできるかしら?」

 本来は私の護衛だから、私に付いているべきだ。だけど、今二人で同時に行動するのが目立つというのであれば仕方がない。

「もちろんです。サラ様もお気をつけて。エルグラントさん、マリア殿。無礼を承知で言わせてもらいます。サラ様をよろしくお願いします」


「まかせとけ」

「もちろんよ」


 ヒューゴが首を傾げる。

「レイ、私は宿も部屋番号も知っている。わざわざ案内を貰わずとも受付に言っておいてくれれば一人で構わないが?」

「ああ、そうか。実は夜中のうちに宿を変えたんだ。宿名を言えばわかるとは思うが、部屋番号まではわからないだろ。それに部屋番号を伝えておくより、俺と一緒に行ったほうが早く通してもらえる」

 レイの言葉にヒューゴが目を丸くする。

「な、なぜ?まさか私のせいか?」

「まあ、あけすけに言うとな。お前の不自然さに気付いたサラ様が、移動しましょうと仰ったんだ。どんな方法を使ってでも再び接触してきそうな勢いだったからな」

 レイが苦笑しながら言う。

「杞憂に終わってよかった。ヒューゴが、理性的な奴でよかった。大事な友人を一人失うところだった」

 本心からの言葉だろう。その美しい目が優しい光を灯している。

「…すまなかった…しかし、サラ殿は…一体」

「お、サラ嬢の秘密を知ってる側からこの流れを見られるのか。楽しみだ。…だが、時間がない。続きは帰ってからだ。あと腹も減って死にそうだ。とりあえず宿に戻るぞ」

 

 エルグラントの言葉に再び一同が頷いた。


 えーとエルグラント?…私大した秘密なんて持ってないんだけど。ハードル上げないで欲しいわ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ