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63.恥じらうわ…だって、女の子だもん!

 朝食が終わってから、マリアが私を乗馬服に着替えさせてくれた。レイからプレゼントされたそれはとてもとても上等な代物で、本当に素敵だと思うのに。


「いつもスカートだからパンツスタイルというのはどうも慣れないわ…脚の線がはっきりと見えてしまうもの…足太いとかレイに思われちゃったらどうしようマリア…」


 着替え終わってから鏡に映る自分の姿を見て、私はなんだかとても恥ずかしくなってしまう。

「お嬢様は控えめに言ってもスタイル抜群です。最近はお胸も出てまいりましたからね。余計に女性らしい体つきになってきましたもの。見惚れることはあっても、足太いなんてレイは死んでも思いませんよ」

「そうだといいけれど…」

 私はもう一度鏡を見る。

「デート服で乗馬服ってやっぱりあり得ないかしら?」

「何しに行くんですか。乗馬しに行くんでしょう?」

 マリアが笑って言う。確かにそうなんだけど…

「化粧も、もう少し頬に紅を入れたほうがいいかしら?」

「乗馬は意外と体力を使います。汗などでお化粧が剥げる可能性のほうが高いので、そのくらいの薄化粧がちょうどいいですよ」

 そう言いながらマリアが私の髪を高いところでまとめ上げる。

「髪の毛は上げてたほうがいいですね。まあ、レイの心臓には悪いでしょうが」

 ふんふんと鼻歌を歌いながらマリアが言い、私は首を傾げてしまう。なぜ髪の毛を上げるとレイの心臓に悪いのだろう。

「ほんの少し練り香水もつけておきましょう。汗と反応してとてもいい香りになります」

 そう言ってうなじにほんの少しだけジャスミンの香りの練り香水をつけてくれる。


「さ!完成ですお嬢様。今日も世界で一番かわいくて美しいです」


 今日も私大好きマリアが健在だわ。そんなマリアが私も大好きよ。


――――――


「レイ!お待たせしてごめんなさい!」

 エルグラントの家の裏側にある馬小屋に駆けていくと、もうすでにレイがシオンに荷物を持たせるなどの準備を終わらせたところだった。

 エルグラントも傍にいて、シオンを撫でている。私に気付くとニカッと笑ってくれた。

「おっ!サラ嬢かわいいな!似合ってる」

「ほんと?ありがとうエルグラント!」

 そう言ってその場でくるりと回る。

 でも…レイも私を見ているのに何も言ってくれないのが気になるわ。

「レイ、どうかしら?」

「ほら!キチンと言え!」

 エルグラントがレイの背中をバシン!と叩く。…ものすごく痛そうなんだけど…

 背を叩かれて痛かったのだろう。レイが頬を少し赤くしながらも私に向かって笑って言ってくれる。

「…お似合いです。世界一可愛くて、愛らしいです。正直エルグラントさんにも見せたくないです」

 おお、強火私担レイ。いつでも健在なのね。でも、とりあえず褒めてもらえてほっとする。

「ありがとう、レイにそう言ってもらえると私嬉しいわ」


「…お前は、なんで背中叩かねえと言葉出なかったくせに、いざとなるとそんな歯の浮くようなことを平気で言えるんだこのド天然…」

 エルグラントが隣で呆れたように苦笑している。ド天然は確かに納得だわ。

「もう準備は終わったの?」

 後ろから付いてきたマリアがエルグラントに聞く。ああ、大抵のものはなとエルグラントが返した。

「あとは…昼食は、ジットの町中に行って屋台なんかで食べてくると良い。いろいろあって楽しいぞ。サラ嬢はそういうのは平気か?」

「ええ!平気よ!」

「屋台に寄る公爵令嬢なんか聞いたことないがな」

 エルグラントが苦笑する。それを言うなら、

「屋台に寄る王弟殿下のほうがよっぽど聞いたことないわよ」

 私はちら、っとレイを見る。

「俺は、任務とかで普通に使いますから」

「ジットの屋台も行ったことあるの?」

「行ったことはありませんね。クーリニアでもジットには来たことありませんでした。俺も初めて見る食べ物がいっぱいありそうでワクワクします」

「まあ、今朝レイがいろいろ走ってきたみたいだから、土地勘に関しては心配しなくていいだろう」

 エルグラントが言い、私とレイは頷いた。


「それじゃあ行きましょうか、サラ様」

 レイがそう言って私の手を取ってくれる。そうしてシオンに取り付けられている鐙に足を掛けた。

「あ!!ちょ、ちょっと待って!」


 そ、そうだったわ。一つ気になっていたことが。突然の私の静止に、今にも飛び乗ろうとしていたレイがぴたりと止まって顔を覗き込んでくる。

「どうしました?」



「…あの…私もやはり昨日のマリアのように足を開いて跨がなくてはいけないのかしら?」



 今まで乗馬をしたことはあっても、跨るのではなく横向きになっていた。

 でも、昨日マリアは何の躊躇いもなく跨がっていた。本当の乗馬はそうするのが正しいとはわかるのだけど。足を開いて乗るのにはとてもとてもとても抵抗がある。


「あ、そうか…」

 レイがぽかんと口を開いた。

「そそそそそうよね、ごめんなさい。交渉団の女性たちだって当たり前のようにそう乗っているというのはわかるんだけど…」

「ああ、いえ。すみません。そこまで考えが及んでいませんでした」

 レイが笑って、鐙に掛けていた足を降ろした。

「ええと、じゃあサラ様。少しお腰に触れてもいいですか?」

「えっ?ええ、構わないけれど」

 じゃあ失礼しますね、と言ってレイは私の腰の周りを両手で持った。

「――――!?!?」

 そしてそのままひょいっと抱き上げる。ええええ!!!??この歳になって高い高いをされるだなんて思ってもみなかった!!

「レレレレレイッ!???お、重いわよ私っ!!」

「全然重くないですよ。もっと食べてください。はいっ」

 

 いともたやすく、ぽんっ、と私は馬の背に横向きに乗せられた。レイがすぐさまひらりと軽い身のこなしで私の後ろに乗ってくる。

「これで大丈夫です。ただ安定はしないので、腕を回してもらってもいいですか?」

 レイの顔がこれでもかというくらい近いところにある。なんだかとてもドキドキするんだけど。

「え、ええと失礼します」

 そう言っておずおずと私はレイの体に腕を回した。着痩せするタイプなのね。普段は細く見えるのに、実際にはとても逞しくがっちりとしている。ぎゅっと腕を回してぴとっとくっつく。ああ、ひどく安心するわ。


「おーい、レイ。馬を走らせる前に一旦現状確認しろー。走っている途中に我に返ったら危険だぞー」

 下からエルグラントがのんびりとレイに呼びかけている。


「…一旦現状確認?」

 すぐそばで怪訝な雰囲気を出すレイの言葉が聞こえた。

 ―――ふふ、くすぐったい。ちょびっとその大きな胸にすり寄ってみる。


「現状確…………~~~~~~~~っっ!!!!!!!」


 ん?なんだかレイの体温が急に上がったような?

 不思議に思って顔を上げると、両手で顔を覆い真っ赤になっているレイがいた。

「ど、どうしたの急に…」


「意外と近いしぎゅってされたときに思わぬ部分が触れて柔らかかったりいつもは見えないうなじが見えたりしてうわ細いな白いなとか思ったりすごい良い匂いがするやら睫毛長いなとか本当かわいいなとかわかってたくせに何にも考えずにのんきにお嬢様を前に横向きに乗せた自分に気付いたところですので気にしないでください。ちょっと冷静になるまで危険ですので出発は待っていてください」

「マリア殿!!!!!」

 すらすらと呆れたように言うマリアにレイが大声を出して抵抗する。


「―――サラ様、ちょっと待っててくださいね、クールダウンします」

 レイがふーっと息を吐きながら言って、私は笑ってしまう。

「いつまででも待てるわ。とっても楽しみ」

 そう言って私はぎゅうとさらにレイにしがみついた。


 ―――あれ?また体温上がってない?


「レイ、わかった。気持ちを切り替えろ。馬上に乗っている間はサラ嬢を移動させる任務中だと思えー」

「あ!それなら…いけますっ!」

 エルグラントの言葉にレイが自身が身に纏う空気を変えた。おお…さすがプロ…

 たちまちレイが元に戻る。というか、心なしかいつもよりきりっとしているような?

 うーん…でも…


「ねぇ、嫌だわレイ。せっかくのデートなんだから、いつものあなたでいて?」

 そう言ってレイを上目で見ておねだりの意味で首を傾げる。途端、またレイが赤くなって叫んだ。




「も……!!!!無理です!!!助けてください!!!!」



 レイの叫び声にエルグラントは腹を抱えて笑い出し、マリアは盛大に呆れた表情を見せている。


 結局出発できたのは、それからニ十分くらい経ってからのことだった。





 


 

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