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56.すみませんでした。

「ん…」

 なんだか頭が痛い。ええと、レイから拒絶されてものすごく寂しくなって、ベッドに横になって色々記憶を呼び起こしたけどなんで不快にさせたのか全然わかんなくて…

 号泣というわけではないけれど、ほとほとと泣いてしまって。

 そのまま寝ちゃったのね。…だめ、思い出したらまた泣いてしまいそう。

 

 最初のころのガチガチなレイがどんどん消えていくのが嬉しかった。硬かった雰囲気がとても柔らかくなって、ふんわりした空気を出してくれるようになって。触れても嬉しそうにしてくれて。たまに触れてくれる手がとても優しくて。

 …何に驚いたの?何に戸惑ったの?私に対するあの恐怖のような視線は何?あなたをそこまでの感情にさせたものはなに?何か怒らせてしまったのよね?…わからないわ…ごめんなさい。

 以前レイに言ったことがある。


『怒らせてる理由もわからずごめんなさいっていう男が一番嫌われるのよ』って。

 

 …怒らせてる理由がわからなくても、謝りたい気持ちわかるわ。今ならすっごくよくわかる。謝罪をしないと、このまま遠くに行ってしまいそうで。繋ぎとめるためなら訳の分からない謝罪でもなんでもしたくなっちゃうのね。


「ごめんなさい…」

 目を開けられないままぽつりと呟く。








「…謝るのは俺の方です」



「!!!????」

 ここにいるはずのない人物の声が聞こえ、私は慌てて目を開けてがばりと起き上がる。

「レ、イ…」

「はい」

 扉の所に、レイが姿勢を正して立っている。

「あ、あなた、いつから?」

 寝顔を見られるのは別に初めてのことじゃないから構わないけれど、泣いたまま寝たのを見られたのはさすがにちょっと子どもみたいで恥ずかしい。


「…すみません。レディーの部屋に勝手に入るのはとても失礼なことだとわかってはいるんですが。ノックしても、返事がなかったので…一人で泣いていらっしゃたらどうしようと思って…」

 そう言ってレイが失礼いたしました、とぺこりと頭を下げてくれる。


「…あなたとお話がしたいです。サラ様」

 その真剣な表情にびくり、と肩が震えてしまう。でも、話をしてくれるのなら、こんなに嬉しいことはない。

「どうぞ」

 そう言ってベッドの上に腰掛けるように促す。


「…そこ、ですか…」

 レイが少し赤くなりながら、口に手を当てている。どうしたのかしら?だけど、しばらくしてからよし、と小さく呟いて、私の方に歩いてきた。

「失礼します」

 そう言って、私の近くに腰掛けてきた。…なんだか、また少し雰囲気が変わったわ。余裕があるとでもいうのかしら…


「サラ様。まず、今朝の失礼な態度、心からお詫びいたします。申し訳ありませんでした」

 そう言ってレイが私に向かって頭を下げてきたことに、私は驚いてしまう。

「ちょ、ちょっと待ってレイ!謝るのは私の方よ…あぁ、でもごめんなさい。本当に思い出せなくて…きっとあなたに何か多大な迷惑を掛けたのでしょう?だからあなたはあのような…」

「迷惑を掛けたんじゃない。…あなたは、昨晩俺にとても大事なことを気付かせてくれたんです」

 思いもよらない言葉がレイから返ってきて、私は目をしばたいた。なんのことかと首を傾げると。




「…あなたのことが、大事すぎるんです」




 さらに予想もしない言葉が掛けられる。予想もしないけど、予想以上に嬉しい言葉が。


「昨晩痛感しました。俺はあなたのことが大事で大切で堪らないと。ただ単にそんな大事なあなたに触られることを急に照れ臭いと感じただけです。嘘はありません。必要ならどうぞ、目を見て確かめてください」

 たしかに、嘘を言っている目ではない。でもこれは、なんというか…

「嘘はないと信じるわ…でも、なにか大事な言葉は隠しているような…」

 私の言葉にレイはふはっ、と笑って流石ですね、と言ってくれる。その笑い方大好き。それを思うだけで泣きそうになる。


 レイが言葉を続ける。


「今まで通り、触れてください。そのことが俺はとてつもなく嬉しい。俺も、今まで通りマリア殿に怒られない程度にあなたに触れます。まぁ、しょっちゅう怒られそうですが。…もう、二度と避けません。全て受け入れますから」

「…本当に、あなたを不快にさせたのではないの?」

「天に誓って」

「触れてもいいの?」

「好きなだけ」

「…避けない?」

「二度と」

「触れてくれるの?」

「あなたが望むなら」






 ーーーぽたり、と涙が落ちた。

「…よかった…」

 よかった…嫌われたんじゃなくて。よかった…本当によかった…

「嫌われたかと…っ、思ったわ…!」

「俺があなたを嫌うなど、世界が滅びようとありえません」

「よかった…怖くて、怖くて…ごめんなさいっ…ただちょっと…ただレイに一回避けられただけのあれが…っ、怖くて」

「俺の配慮不足です。…不安にさせて申し訳ありません。サラ様」


 レイの声が私の名を呼びかける。これ以上なく優しく。


「触れても?」

 私は一も二もなく頷く。そっとレイの手が伸びてきた。その甘い外見からは想像もつかないような、ごわごわした手。でもとても温かい手。その親指の腹が私の涙を拭う。

「泣かせて、すみません。悲しい思いさせて、すみません。大好きですよ、サラ様」

「私…だって、大好きよ…っ」

「……俺とサラ様じゃ意味はズレてますけど。いつか、同じ意味になっていただきたいと思っていますから」

「なんの…話?」

「こっちの話です。…抱きしめていいですか?」

「抱きしめてくれるの?」

「…今だけ。慰めの抱擁だと思ってください」

 今受ける抱擁に、慰め以外の意味があるのかしら。でも、とてつもなく嬉しい。だったら…

「…力いっぱい、ギュってして」

 私が言うと。


 …。



 ……。



「………あぁーー、もう!」

 レイが突然声を出したと思ったら、いきなりその両腕で私を力いっぱい抱きしめてくれた。

「…余裕ってどうしたらいいんですかマリア殿…」

 ん!?マリア?!なんでそこでマリア!?

「サラ様も。俺の決死の言葉をさらりと飛び越えないでください」

 んん?い、意味がわからないわ…

「え、ええ…」

 とりあえずこくこくとレイの腕の中で頷く。ぎゅうう、と力いっぱい抱きしめられてとても苦しいのにこの多幸感はなんなのかしら。

 どんよりした心がすっかり軽くなったのを感じる。

 

 …私の心をこんなに簡単に上げたり下げたりできるのは、レイだけだわ。ふわふわした頭の中でそんなことを考える。





「…朝ご飯、なに食べたいですか?もう昼近いので、ブランチと言うことで。…あなたをデートに誘いたいのですが、その権利をいただいても?」

 ぎゅうぎゅうと抱きしめてくれたまま、レイが話しかけてくる。

 ふふ…っと笑ってしまう。なんて素敵なデートのお誘い。

「…甘いイチゴのお酒がいいわ」

「却下です。もうしばらくお酒は禁止です」

「ふふっ、冗談よ。そうね、…何でもいいわ」




 ーーーーあなたとなら。

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