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29.涼を求めて

「そろそろ暑くなってきたわね」

 グルニクの借家に来て三ヶ月。季節は冬季から夏季へと変わろうとしていた。

「そうですね。イランニアは海に面しているので、夏季でもまだ涼しい方だとは思うんですが…」

 私の言葉にレイが反応してくれる。

「サマードレスみたいなものも新調しなきゃだわ、マリア」

 国外へ出てからというものわたしはいわゆる貴族が着るようなドレスは着ていない。市政を勉強するにはやはりそれなりの服装を、ということで言い方はあまり好きではないが、いわゆる『庶民』の服を着るようになっていた。

「でしたら今巷で流行っている、ワンピースなど購入されてはいかがですか?」


「「ワンピース?」」


 私とレイの声が重なった。



ーーーーーー


 イランニア王国、王都ゲシュタト。


 というわけで今日はお買い物です!


「お店がたくさんだわ。すごい!」

 古い街並みだが、隅々までとてもきちんと整備されている。馬車で揺られても辛くない。

 馬車から降りるのをレイにエスコートしてもらう。

「こっちの方に服飾店が並んでいます」

 レイが教えてくれる。そうよね。何度も遠征できているから、土地勘があるはずだわ。

 そう言えば…

「マリアは来たことあるの?ここ」

「もうだいぶ前ですが。街並みは変わりませんし、ところどころ見たことのある店もあります。でももう新しい店の方が多いですね」

「いいなぁ、二人とも。色んなところにいけて。私も交渉団入ろうかしら」


「「やめてください」」


 二人の声が合わさりびっくりしてしまう。

「お嬢様は確かに頭脳は交渉団トップ…というか人心掌握という意味でも過去最高の人物になり得ますが、いかんせん、体力がありません」

 それに、と言いながらマリアはレイと頷き合う。そのままレイが言葉を引き継いだ。

「あんな狼だらけの中にサラ様が入ったらどうなると思います?」

「狼だらけ?狼なんか飼ってたかしら」

 犬や馬はいたと思うが狼を飼ってたなんて記録は見た記憶がない。私が知ったらいけない交渉団だけの機密事項なのではないのかしら。大丈夫かしら。

「おそらくその表情からとてつもない勘違いをしてるとは思いますが、狼というのは比喩です」

 レイがため息混じりに教えてくれる。

「女性も一定数いるとは言え、やはり男所帯ですから。そんな中に可憐で可愛らしくて守ってあげたい庇護欲を掻き立てる愛らしいサラ様が入ったらどうなると思います?」

 お、久々のレイの強火。

「交渉団が血を見ます」

 だめ。もう何言ってるかさっぱりわからないわ。

「とにかく入っちゃいけないのね?二人がそういうのなら辞めておくわ」

 年上の言うことは聞いておかなきゃ。あ、でも…

「ねぇ、マリアは?」

「?というと?」

 私の言葉にマリアが首を傾げる。

「私の目から見てもマリアってとても可愛らしいじゃない?四十の御歳でこれなら、二十代とかもっと可憐だったと思うの。その理論でいけば、マリアも交渉団で血を見たのではなくて?」

「微妙に文章がおかしいので、なぜサラ様が入ると交渉団が血を見るのか全くわかってないということはわかりました。…私はおそらく団の中で一番強かったので、どちらかと言うと団員が血を見るというより、血の気が引いてましたね」

「ブッ!!!!!!!」

 隣でレイが思いっきり噴き出している。

「そ、そうなのね…」

 恐るべしマリア…


 その後も談笑しながら街を歩きとても良さそうな服飾店を見つけて私たちはその中に入った。


ーーーーーーー


「ね、ねえマリア…こんなものなの?」

「ええ、そんなものです」


 数分後、私は全身を真っ赤にして鏡の前に立っていた。真っ白の、ほとんど袖がついてない、膝の見える白のワンピースを着て。


「こ、これどうにかならないの?これ、大丈夫なの?」

「貴族では御法度ですが、庶民では一般的な格好です」

「れ、レイ〜!これ、ダメよね?破廉恥よね?」

 後ろのソファに腰掛けさせて待ってもらっているレイに振り返って聞くと、レイは顔を押さえて俯いていた。若干耳が赤い。

「レイ?」 

 返事がない。

「ちょ…っと待ってください、ね」

 そう言ってレイは肩で呼吸をして、顔を上げてくれた、途端。

「〜〜…っっっ!無理です!」

 また顔を押さえて俯いてしまった。

「そ、そんなひどい?破廉恥というよりは見てられない感じかしら…?」

「いや、…違くて。違います、そうじゃなくて、」

「見たことない場所が見えて思ったより白いなとか細いなとか色々わかってしまって一瞬で沢山のことを妄想してそんなことを妄想しちゃった自分に一人でパニックになってドロ沼に陥っているだけなので気にしなくて大丈夫ですお嬢様」

「マリア殿!!」

「…そうですね。確かに丈はもう少し長いものにしましょうか。あまりにも可愛すぎて人攫いに遭ったらいけません。袖は日に焼けたらいけませんので、上に羽織る薄手の長袖の上着を買いましょう。そうすれば露出はなくなります」

 マリアの言葉にほっとする。

「本当?よかった」

「大体その組み合わせで色違いやデザイン違いを四着ほど購入しましょうか」

「ええ、マリア、お願い」

「それでは店の者にそのように伝えてまいります。お嬢様はその間レイの傍にいてください。レイ、ちょっと今のお嬢様は危険なので、絶対にそばから離れないように」

「はいっ」

 マリアの言葉に私は首を傾げる。お店の中にいるのに、そんな危険なことなどあるだろうか。

「サラ様」

 気がつくと、レイが立ち上がり私の手を取ってきた。そのままエスコートして、ソファに座らせてくれたと思ったら、レイも隣に座った。あら、珍しい。

 基本レイは私が座ってと言わないと隣には座らない。何度も言ってやっと渋々座ってくれるくらいなのに…と、そこまで思って、私は視線を感じて周りを見渡す。



 …なんだろう、物凄い見られている。


 チラチラとこちらを見る男性が圧倒的に多い。ここの服飾店は男性モノも扱っていて、男性客の姿も多い。でもカップルもこちらを見ている。女性も何人かこちらを顔を赤くして見ている。

 !!あっ!!!わかった!

「…レイ!あなたかなり目立ってるわよ」

 レイはとにかくイケメンだ。目を引くし、体格もいい。最初会った時も本当にどこのモデルかと思ったくらいだ。そんな目立つ人がいるんだもの。それはこれだけの視線を集めるわ。

 だが私の言葉にレイはがっくりと肩を落とした。

「目立ってるのはあなたですサラ様」

 私!?…あっ!!

「や、やっぱり破廉恥な格好をしてるから?はしたないと思われてるのよね…やだ、恥ずかしいわ…」

「全く違いますから…ちょっと失礼します」

 そういうと、レイは私の腰に手を回した。

 えっ??困惑していると、そのままレイの元へと引き寄せられる。

「ちょっとでも俺を壁にしてください」

「あ、ありがとう」

 なんだ、そういうことね。よかった。レイが壁になってくれたらこんな恥ずかしい姿晒さずに済むわ。

 ぴったりとくっついてると、何だかとても安心してくる。そのままレイの肩にこてん、と頭を乗せた。

「な…っ、サラ様?!」

「…あのね、この服、確かに肌が見えててとても恥ずかしいんだけど、それ以上にとっても可愛いと思ってね、でね、その、恥ずかしい服っていうの抜きにして考えて欲しいんだけど…」

 ちょっとドキドキする。否定されませんように。

「……か、可愛いかしら?私…」

 だめ!言った途端とてつもなく恥ずかしい!!!

 レイがポカンとしている。

 ああああ、しまった!!!

「ご、ごめんなさいやっぱり破廉恥よね!初めて来た服だから浮かれ…」

「めちゃくちゃ可愛いです」

 私の言葉をレイがキッパリと遮った。

「すごく可愛くて可憐で、驚きました。あまりにも愛おしさが沸いて、凝視できませんでした。…誰にも見せたくない。俺だけ見ていたいと思うほどに」

 レイの甘い声が耳元で響いて、身体が震えてしまう。でも何よりもレイがそう言ってくれたことが嬉しくて堪らない。

「…ありがとう」





 突然呆れたような言葉が投げられた。



「はいはいはいはいそこのとにかく生きてるだけで目立つ二人。おそらく今回もなーんも考えてないしなんなら壁になってる壁になってもらってるくらいの感覚しかないんでしょうし、ゲロ甘なセリフも、なーーーーーんも考えていないんでしょうが」









「距離感思い出す!!!」

「「はいっ!!!!」」



私とレイの返事が重なった。

 

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