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180.婚礼衣装と乱闘騒ぎ

「またあの日のこと思い出しているの?サラ」

「だってあんな美味しいポトフ食べたこと今までなかったんだもの。…どうにかしてお店出せないかしら…もうホーネット夫人は働きたくないわよね…老後はゆっくり暮らすって言ってたし…どうかなーエルグラント…」

 エルグラントを見ると苦笑して、「嬢が頼めば案外動くかもしれねえぞ」と言ってきた。

「『ホーネット夫人のポトフ店』とか最強じゃない??あーーーん!!投資も設備も全部するから頼んでみようかしら…!!!」

「これ以上仕事増やしてどうするの」

 レイが苦笑して言ってくるけど、結構本気なんだけど。


 今日は王宮にて婚礼衣装の打ち合わせ中だ。レイとジェイ、私にマリア、お母さまと、護衛としてエルグラントとハリスといういつものメンバーで来賓室にて打ち合わせをしている。壁際にはロゼリアたち侍女が待機してくれている。

 一般の婚礼とは違う、王族の婚礼に関しては決まりごとが山のようにあったけど、まぁ、そこに関しては全部頭に入ってるから問題ないとして。


「なんでこんなに着替えなきゃいけないの?」

 まず王宮内での結婚式で初めのドレス。なんやかんや王族の婚礼の儀式でとりあえず3着着替え、貴賓との挨拶回りで1着。その後昼餐会で1着、途中退席お召し替え1着。休憩中に国民の前に姿を現すので1着、晩餐会で1着、途中退席お召し替え5着。


「…信じられない…なんでレイは5回なのに…私だけ15回近くも…」

 儀式のところまでは伝統衣装なので、私に合わせて仕立て直すだけでいいんだけど。

「10着も決めなきゃいけないなんて…」

 私は頭を抱える。しかも、次期女王の結婚、今まで1回でも人前で着たドレスを使いまわすことは良くない。でも…

「10着で一般家庭の年収何年分だとおもってるの…」

 大丈夫かしら、私。国民から税金の無駄遣いと言われるんじゃないかしら。就任する前から贅沢の限りを尽くす女王とかって醜聞が広まったら生きていけない。


「まあまあ、でも、これって大事だからね?」

 レイが苦笑いしながら言う。

 そんなレイだけど5着のうち4着は伝統衣装、そして残りの1着は団服の式典用正装というかなりずるいラインナップだ。しかもレイは交渉団団長という肩書があるから、その正装を逆に壊しちゃいけないので、お召し替えもない。


「そうそう、この国が次期女王にどれだけの期待をしているのか、どれだけお金をかける価値があるのか、国外の来賓に見せつける意味合いもあるのよ」

 お母さまがド正論を言ってくる。

 うう、わかってる…。


 もし、お召し替えなしでずっと同じ衣装を着ていたら、ここ大国ブリタニカは次期女王にドレス1着も用意してやれないのかとせせら笑われることになる。

「わかってるけど…」

 はあ…とため息が出る。


「まぁ、俺とお義母さまで大体の目星は付けてるから大丈夫だよ、ですよね?」

 レイがお母さまに向かって微笑み、お母さまもええ、と頷いているのを見て、いつのまに!?と驚いてしまう。

「だって、ドレスの話は貴方とするよりもレイとする方が盛り上がるんだもの」

「サラにあれ着せたいこれ着せたいこんなデザインどうかなとか話し出すと止まりませんもんね」

 二人で「「ねー」」とか言い合っちゃってる。いつのまにそんなに仲良くなってるの。


「まぁ、そういうことなら…よろしくお願いします。ワンピースでも構わないんだけどなぁ」

「「「駄目です」」」

 レイとお母さまとマリアの声がハモる。うう、わかってるわよ。

 即座の突っ込みにジェイはすました顔してるし、エルグラントとハリスは肩を震わせて笑っている。


 そういえば、エルグラントとハリスは結構仲良くなって、たまに街飲みとか行っているみたい。もともと雰囲気の似た二人だものね。二人とも体格もいいし。体格は関係ないか。


「マリア、喉が渇いたわ」

「承知いたしました。ロゼリア」

「はい。少々お待ちくださいませ」


 基本的にマリアは女王付き筆頭侍女とはいえ、半ば側近のような扱いだ。身の回りの世話や給仕などは基本的にロゼリア達がやってくれる。

「ロゼリアは優秀ね」

「ええ、本当に。仕事がなくなってますます太ってきました」

「ふふ。元々がやせ過ぎなのよ。ねえ、お腹触っていい?」

「いいですよ」

 いつもはジェイやエルグラント、ハリスと同様にマリアも立っているけれど、最近は一緒に座るようにお願いしている。倒れられでもしたらたまったもんじゃない。


「ね?動くの?」

 触りながら聞くと、マリアは幸せそうに微笑む。

「ほんの少しだけ、わかります。外側からはわからないですよ。中でほんの少しぴくって押される感覚があるんです」

「…頑張って生きてるのね。元気に生まれてきてね」

 あまりに美しいマリアの顔にため息が漏れてしまう。母親の顔、というのかしら。慈愛に満ちた顔。


 と、そのとき。


「レイモンド殿下はいらっしゃいますか」

と扉の外側から衛兵の声が聞こえた。代わりにジェイが立ち上がり扉を開くと、焦ったマシューの姿があった。

「マシュー!どうした!」

 レイが立ち上がり数歩でマシューまで距離を詰める。

「お忙しいところ申し訳ございません殿下。交渉団にてちょっとした乱闘があり、怪我人が複数名出ています」

 一応衛兵や侍女がいる前ではきちんと喋るのねマシュー…なんて思っていたらとんでもない言葉が口から出て来た。

「乱闘の理由は」

 いつの間にかジェイがレイの背後に回り、団服の上着を着させている。レイは素早く袖を通しながらマシューに問う。


「それが…ごくごくくだらない理由で。女を取られたとか取ったとかで二名が揉めだして、気が付いた時には複数人を巻きこむ乱闘になってまして。今セリナたち隊長格が必死に止めているんですがなかなか収まらず…」

「…馬鹿共が」

 レイを纏う空気が変わる。ひやっとしたその温度に私までぞくりとする。

「わかった。急いで行く」


 そう言ってレイは私たちを振り返った。

「ごめんサラ、皆さん。少し出てきます。お茶を飲んで待っていてください」

「…!私も行っちゃだめ…?!」

 このころには私も陛下のご命令で王族が管理する機関にちょくちょく顔出しをしていた。だから今回も連れて行ってくれると思ったのだけど。

「駄目だよ。危ない。待ってて」

 レイはにこやかに制すると、私の元に颯爽と歩いてきて、額に口づけを落とした。

 そして何事もなかったかのように身を翻してジェイを伴い行ってしまう。


 レイとジェイが部屋の外に出たのを確認してから、私はハリスに言った。

「ハリス、行きましょう。付いてきて」

「だめですよ、お嬢様。レイの言う通りです。交渉団の人間は屈強な人間です。もし万が一お嬢様が巻き込まれた場合、責を取らなければいけないのはレイなんですよ」

 マリアがぴしゃりと釘をさす。だけど、言っていることはごくごくまともだ。


「うう…はい」

 と言ってしぶしぶ引き下がる。


 結局その日レイは打ち合わせに帰ってこなかった。

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