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177.さあいざお忍びデートへ

「なんだか全然違う人とデートしてる気分だわ」


 屋台の立ち並ぶ町中。隣に並んで歩くレイを見て、私は今日何度目かもわからない言葉を投げかける。


 マリアの手によって、レイの髪の毛は瞼まである黒髪に変えられ。瞳の色も全くの真っ黒になった。金色短髪碧眼イケメンどこにも存在せず。造形が美しいことは隠しようがない。

 

「これはこれで好みだから困るわ…」

 私のぽそっと言った言葉にレイがぎょっとした顔を見せた。

「えっ…!?サラはこういうほうが好みなの?いつもの俺より?!」

「んんっ!?そういうことじゃないわよ!?」


「はいはいそこの生きてるだけで目立つ二人。こんな町中でそんな大声出したら嫌でも目立つでしょう。自粛!」

 マリアの渇が入り、レイがキラキラした目でマリアを見つめる。


「懐かしいです!!!国外追放の時よく言われてたな~それ。生きてるだけで目立つとか、距離感!!!とかって」

「ああ~よくマリアに言われてたわね。ほんと懐かしい」

 私が同調するとマリアは大きく頭を抱えた。

「ほんと…今思いだすとあれでよく二人とも恋人同士じゃないって言えましたよね…」

「ほんと、呼吸するようにいちゃついてたもんなぁ」

 エルグラントが苦笑しながら言う。


「なによ、エルグラントとマリアもいちゃついてるじゃない」

 私はぷうと口をとがらせて言うがすぐにエルグラントの反論に遭う。

「これはいちゃついてるんじゃなくて、必須事項なんだ。やんなきゃなんねえことなんだ」

 そう。身重のマリアを支えるように、エルグラントがマリアの腰に手を回して、荷物も全部持ってくれている。さっきから、小さな小石が落ちていてもさっと拾うし、馬車や走る子どもたちが近づいてもさっとマリアにぶつからないように立ち位置を変えてるし。

 果たしてこれで護衛は大丈夫なのかしら??と思うほどの過保護っぷりだ。


 マリアもそれは重々感じているのか、エルグラントが過保護な動きをするたびに、「ちょっと、大丈夫よ」とか「やりすぎよ」とか言うんだけど、エルグラントは聞いちゃいない。


「にしても、マリア、つわりひどいじゃない?こんなに屋台なんかが立ち並ぶところ歩いてて大丈夫なの?」


 私の問いにマリアは少し困ったように笑って答えてくれた。

「実はちょっときついです。でも、家の中でじっとしているのも体に良くないので」

「マリアのように強靭な体力があっても精神的に強くても、やっぱりつわりってきついのね」

「きついですね、ご迷惑をおかけしないようには致しますので。申し訳ありません、お嬢様にまで気を遣わせてしまって」

「いいのよ、だって体の中に二個心臓があるのだもの。全然違う人間が入っているのだもの。どうもないほうが珍しいのよ」


 私はそういって隣を歩くマリアのお腹を撫でる。もう少しで五か月というそのお腹は少し大きくなったかな?というくらいで、人ひとり入っているようにはとても見えない。

 でも確実にここには一つの命がある。そう思うと本当に不思議な気分になった。



「…私も、赤ちゃんできたら今のマリアの気持ちがわかるわね。楽しみだわ」

「ぶほっ!!」


 ぽつっと何の気なしに言っただけなのに。隣から盛大に噴き出す声が聞こえ、そちらを見るとレイが真っ赤な顔をして両手で顔を塞いでいた。


「れ、レイ???どうしたの?お顔真っ赤よ?!」

 なにか今恥ずかしいこと言ったかしら?そう思って問いかけるとレイは顔をぶんぶんと左右に振って

「なんでもない!なんでもないから!!」

 と、大慌てだ。私がキョトンとしていると。


「おい、意識しすぎだこのスケベ」

 エルグラントがレイに向かっていい、その横で静かに歩いていたジェイもうんうんと頷く。

「ほんとに…我が主は。初心も大概になさらないと引かれますよ。今時そんな会話で赤面するとかどこの低学年の男子ですか」


「え??え??なんでレイそんな真っ赤になったの?」

「ちょ、もうやめよう?サラ。もうほんとやめよう?」

「ねえ、何を意識したの?」

「いやほんとやめてもうちょっとほんと勘弁して」

「なんでスケ…」


 ―――ベ、と言いかけたところではたと我に返る。


「あ…」

 もちろん子どもができるために何をしなければならないかくらいわかっている。わかっていたけど。

 ―――かあああああっ!と顔の中心に熱が集まってくるのが分かる。

「そそそそそそそうよね!!!こここ子どもができるということはよよよよ夜伽を…っむぐっ!」


 皆まで言う前にレイのごわごわした手が私の口を塞いだ。

「も、!!もういいから!!!それは結婚してからの話だから!!!」

 私も涙目になりながらこくこくこくと頷く。確かにこんな道の真中で白昼堂々と話すような内容ではない。


 しばらくして二人してやっと落ち着いてレイの手が離れてから、私はふーっと息を吐いた。ぱたぱたと手で顔を仰ぐ。


「ね、ねえなんか喉乾かない?」

 慌ててこの話題を逸らそうとするもののエルグラントやマリア、ジェイにはバレバレだ。でも皆大人だもの。苦笑しながらもじゃあ飲み物でも買おうかということになり、屋台に立ち寄る。

 

 エールを飲んでも構わないといったのに、護衛中だからと頑なに拒否するエルグラントに口を尖らせながら、果実のジュースを五つ買ってからふと、私はエルグラントに尋ねた。

「ねえ、エルグラント。今日私たちを内密に護衛してくれてるのって何人くらいいるの?」

「ん?十人だが」

 そんなに!?予想以上に多くて私はびっくりしてしまう。


「きっと皆も喉が渇いているわ、休憩にしてもらいましょう。ご主人、この果実のミックスジュースを瓶で十本くださる?あと、軽く摘まめるものも十程いただけるかしら。片手で食べられる…そうね、これがいいわ。このバケットサンド。持ち帰るように包んで欲しいのだけど」

 あいよ毎度あり!と言う威勢のいいご主人の後ろで従業員の皆さんが手早くそれらを包んでいく。


「おいおい、嬢。護衛のことなんて気にしなくていいんだぞ?まる一日飲まず食わずで要人を護衛する訓練を受けているやつらばっかりなんだから」

 エルグラントが苦笑しながら言うけど。

「いいじゃない。護衛だって人間だもの。食べて飲まなきゃ元気は出ないわ」


「はいよ、おまちどお!」

 そう言って手早く包まれたそれらをエルグラントがひょいと受け取り、ジェイがレイの代わりに財布を取り出すより先にさっとマリアが代金を払う。

「私のお金から出してね」

「心得てますわ」


「…ったく。これ以上嬢のファンを作ってどうするんだ」

 エルグラントがくっくっくと笑いながら言うけど、私のファンってなに?初めて聞いたんだけど??



「―――セリナ」

「はっ!!!」

 わっ!びっくりした!エルグラントがセリナ様の名前を呼ぶと、途端にセリナ様がどこからか姿を現した。どこにいたの!!うーん、でも相変わらずお美しい。


「サラ様からの差し入れだ。皆に配ってくれ」

 そう言ってエルグラントがセリナ様に紙袋を渡すと、セリナ様はその美しい顔をたちまち赤くさせて明らかに歓喜の表情を見せた。

「さささサラ様から私共に!???!??あああああなんてこと!!!畏れ多すぎますわ!!!もったいなくて食べられませんわ!!!」

「うん、食べてね?」

「家宝にしますわ!!!皆にも家宝にするように伝えておきます!!!!!」

「いやカビ生えるから食べてね???」

「そんな…もった」

「食べないと怒るわよ」


 私が言うとセリナ様は顔をさぁっと青くさせた。いやだってこれくらい言わないと本当にカビても家宝ですわ!!!とか言い出しそうなんだもの。


「…っ!!っく!!わかり…まし…た!!苦渋の決断ですが食させていただきます!!!心より御礼申し上げます!御前失礼いたしました!!!」

 そう言ってセリナ様はまたさっと町の中に消えていった。


「…相変わらずだな、セリナ…」

 レイが呆れたように言い、私はくすくすと笑ってしまうのだった。




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