176.お忍びデート(の準備)
もうめちゃめちゃ忙しくて更新頻度落ちてます~~すみません~~~
私は朝からうきうきしていた。だって!今日は!待ちに待ったお忍びデートの日!
あれから一ヵ月が経った頃、ようやくレイと私の休みが合うことになった。ホーネット夫妻にも訪問の日時の手紙を出して、準備は万端。
もちろん、立場上お忍びとはいっても護衛は相当数付くことになった。目に見える護衛はエルグラントとマリア(まぁそれだけで十分すぎるほどじゃないかとは思うんだけど)、それからジェイ。その他の護衛は、私たちには見えるか見えないかの位置から見守っていてくれるらしい。
「めちゃくちゃ久しぶりね!!ワンピースだわ!!」
「でも、あのときからお嬢様はだいぶ体つきが変わってしまわれましたからね。今のお胸や腰回りに合わせて仕立て直しておきました」
「ありがとうマリア」
「公爵令嬢であるとともにもうお嬢様は次期女王なんですから。仕立て直しなどせずに新調なさっても良かったのに」
マリアが私にワンピースを着せながら言う。
「うーん。それでも良かったんだけど。ほら、この服って国外追放のときに一番お気に入りで着ていたワンピースじゃない?…あのときの思い出って私にとって本当に宝物みたいでキラキラしていて。これ着ると、一気にあの時の楽しい気持ちを思い出して幸せになれるの」
「うわ可愛いうちのお嬢様が今日も世界一可愛いことを言ってます」
「マリア落ち着こう?」
強火私担マリアは相変わらずだ。
「はー…レイがお嬢様の久々のワンピースにゲロ甘なセリフを吐くに50万ペルリ」
「うんだからマリア落ち着こう?微妙に賭け金が高いし」
「50万ペルリを高いなんて言う次期女王なんてお嬢様くらいですわ」
「うん問題そこじゃない」
小気味いい掛け合いをしながらも着々と私の準備が終わっていく。
「ああ…もう全くダメですね。どうしたって高貴な雰囲気はもう消せませんね」
マリアが支度を終えた私の姿を見てはぁ…と溜め息を吐いたのと、こんこんと部屋がノックされたのは同じだった。
「はい」
マリアが返事をすると、「レイが到着したぞ」と扉の向こうで待機してくれていたエルグラントが教えてくれた。
「お通しして」
私の返答に扉が開かれ、レイとエルグラントの二人が入ってきた。ジェイは扉の外で待機しているらしい。
「わ、天使がいる。どうしたの?今日は空から迷い込んだの?」
全く照れもせずレイが言うものだから笑ってしまう。少しくらい照れてくれたらツッコミ甲斐もあるのに、これを大真面目で言っているんだもの。
「空から迷い込んだのでもなければ天使でもないわ。ただの人間よ」
「それなら俺はこの地球上で天使のような人間を見られたラッキーな男ということになるね」
流れるような仕草でレイは私の手を取り、口づけを送った。
もうだめ。何を言ったってこの人は甘い言葉吐かないと死ぬ生き物なんだから。私は諦めて笑ってしまう。
「改めておはよう、俺の愛しい人」
「おはよう」
そう言って私はレイの姿をまじまじと見る。
一応服だけは変えようとしたのだということは分かる。でも…
「ねぇ、マリア。私も雰囲気を隠せてないといったけど…」
マリアにそっと言うと、マリアもはぁ…と溜め息を吐いて頷いた。
「ええ。恐ろしいくらい隠せていませんわ。せめてカツラか何かかぶらないと…」
そう、私は一応帽子の中に長い髪の毛を結い上げてストールを巻いて口元を隠し、メイクもいつもより濃くして、逆に誰だかわからない状態になっている。
だけどレイは。かろうじて一般市民のような服を着ているものの…
「金の短髪碧眼男性なんて、自分がレイモンド殿下ですって大声て言いながら歩いているようなものだと思うわよ…レイ…しかも一切変装無しって…」
そう、先日の婚約発表以来、市井には私やレイの肖像画入りのグッズが記念品としてあらゆるところに並んでいるらしいのだ。そんななかを歩いてしまったら一瞬でバレるようなものなのに…
「レイの金髪と碧眼は王族かその直系の方々特有のものなのだから、すぐにばれてしまうわ」
「…えっ、そ、そうかな」
「なんでそういうところはほんと抜けてるのあなたは…」
「まぁまぁ、嬢」
エルグラントがくっくっくと笑いながら、私の言葉をやんわりと制した。
「レイは昨日楽しみすぎて眠れなかったみたいなんだよ。朝寝坊して時間に間に合わないって支度もそこそこに出て来たらしいんだ」
「まぁ、そうだったの?」
「だって久しぶりにサラとデートだよ?しかも護衛はついてるもののお忍びデートだよ?本当に楽しみで楽しみで眠れなかったんだから」
「子どもじゃないんだから…」
はぁ、とマリアがため息を吐くのを、レイが拗ねたように見て言った。
「だって俺からしたら初めての恋人で婚約者で。浮かれないほうが無理がありますよ」
「にしてもあなた…」
これ以上マリアから言われると本格的にしょげてしまうレイが容易に想像できて、私は助け舟を出す。
「ま、マリア。ねえ、まだ時間はあるのだからあなたがもう少しレイに支度してくれない?黒のカツラもあったわよね?あと、アイグラスも」
「「アイグラス?」」
レイとエルグラントの声がハモった。私は笑いながら頷く。
「私が投資している商会が今度出す新商品なんだけど。目の中にガラスを入れて、瞳の大きさや色を変えるの。ほら、私の今日の目も、少し違うでしょう?」
「あ、なんだか違うと思っていた違和感はこれなんだね」
「そう、私今日はブラウンにしてるのよ、ほら」
そういってレイに近づくと、レイは私の目をまじまじと覗き込んで。そして
――――ちゅっ。
「!!!!!!!??????!???!?!?!」
いきなり口に口が触れ、反射的に飛びのいた私をマリアが受け止めてくれる。
「あ、ごめん。つい」
「ごごごごごごごめんついじゃないわよごごごごめんじゃ!!!」
「いやもうだって、そんな身近に来られたら、しないほうが無理っていうか」
「人目!!人目があるでしょう!?そして今その流れじゃなかったでしょう!?」
「えっ!?そうでした?エルグラントさん」
レイがキョトンとしてエルグラントに尋ね、尋ねられたエルグラントは肩を震わせて笑っている。マリアは心底うんざりした顔をしているし!
「今のをどう考えたら…くっ…く、口づけの流れになるにょよ!」
「お嬢様噛んでます」
「噛んでもかわいい」
「ぶほっ!!!」
「んも~~~~っ!!!マリア!!!レイの支度してきて!!!!」
私の絶叫が、部屋中に響き渡った。




