174.お祝い
久しぶりです!
「おめでとーーーー!!!」
ヘンリクセン公爵邸の中庭にてマリアとエルグラントを祝う声が上がった。
あれから数日後。
私はマリアとエルグラントをお祝いするためのささやかなガーデンパーティーを催すことにした。もちろんお父さまもお母さまも心から賛同してくれて、快く敷地を使うことを許可してくれた。
参加者はヘンリクセン家の人間、使用人、エルグラントのご家族のみ、レイ…だけのはずだったのだけど…
「あまり仰々しくされるのはマリアが嫌がると思ったから王宮から呼ぶのは貴方だけにしたのに…」
イチゴのカクテルを飲みながら隣でミントのカクテルを飲んでいるレイに声を掛ける。
「ごめんごめん。お忍びで来る予定だったんだけど、どこからか義兄さんにバレちゃって」
そう。なぜか陛下も我が家に来てしまい、エルグラントのご家族と我が家の使用人たちが真っ青な顔をしながらあたふたとしている。
私は言葉を続ける。
「陛下だけならまだしも…」
「「義姉さまーー!」」
双子のハモった声が耳に届き、私は声のする方を振り返った。
「カール!ヘイリー!わざとねえさまって呼ぶのはやめてよ!!!私あなたたちと同じ年なのよ!?」
「だってアース兄さまの婚約者だったときから僕たち、人前ではねえさまって呼ぶように言われてたんだもん」
「そうそう、それにレイ兄の婚約者になったところで、どっちにしろ義姉になることにはかわりないし」
「レイは呼び方が兄なだけでしょう…?義姉にはならないわよ!ほんとそこらへん適当よねあなたたち!」
金髪のサラサラヘアの双子。カールとヘイリーだ。カールはその肩まである美しい髪をそのまま流しているが、ヘイリーはいつも結んでいる。私はさすがに見分けがつくけど、大人になったのに奇跡に近いレベルで全く同じ成長をしているものだから、髪形を変えないと区別がつかない人がほとんどらしい。
まぁ、本人たちはそれを逆手にとってたまに中身入れ替えて遊んだりしてるんだけど。
イグレシアス王家は美形一族。アースもあれはあれでザ・王子という顔面をしていたし、レイに至ってはそれに加えて鍛錬によって培われた男らしさも入っている。
カールとヘイリーも、当然その血が入っているから、美しさは当たり前として。
この二人はどちらかというとその中に猫っぽさというか、若干のかわいらしさが入ってくる。
というわけで、アース、レイ、カール、ヘイリーが揃うと、令嬢の間ではどの殿方が一番好みかという会話はもはやあいさつ代わりのようなものになっている…らしい。さすがに私の前でそういう会話をする令嬢はいないけど。
まあその話はおいといて。レイと、陛下、カールとヘイリーが来ている。当たり前だけどアースは来ない。
「だいたいなんであなたたちまで来るのよ!陛下は、マリアのご友人だからいいとしても、私はレイしか呼んでないんだけど!?」
「えーだってサラの傍にいると絶対何かあるから楽しいんだもん」
カールが笑う。
「そうそう、馬鹿兄さまがやらかしてくれたり、サラとレイ兄が婚約したり、この間はいっきにライバル公爵令嬢二人蹴落としたりさ!話題には事欠かないからなんか今日も楽しそうなことあるかな~って」
ヘイリーが手を頭の後ろで組みながら邪気のない顔で笑う。
「カール、ヘイリー。そんなくだらない理由でサラの周りをうろつくんじゃない」
レイがすぐさま二人を注意する。
「レイ兄威嚇しすぎ!心配しなくても僕ら小さい頃からサラをそういう目で見たことないから!」
けらけらと笑う二人に私は溜め息を吐く。幼いころからこの二人はこうなのだ。邪気がなく、面白いことが大好き。
もう妙齢だから縁談もいくつも来るらしいのだけど。本人たち曰く、「面白くなさそうだからヤダ」の一点張りだと、陛下も頭を抱えていた。
しかも、シャロン陛下が他国間との交渉などの理由での婚姻だけはさせるなと言っていたらしく、死ぬまで王宮にいようかな~とか言っているらしい。
「当たり前だ。そういう目で見たら…わかってんだろうな?」
レイが眼光を鋭くして二人を睨みつける。うわ、怖。でも、二人は随分となれたもので。
「「わかってるよ~」」
とへらへらしているだけだ。
「で、サラ、あれどうにかしたほうがいいんじゃない?」
不意にカールが言い、私は彼が指さした方を見る。
「…誰のせいだと思ってるのよ…」
私ははーっと大きなため息を吐いてしまう。そう。視線の先には庭の隅っこでガチガチに固まっているエルグラントのご家族、ホーネット家の皆さまが。
「そりゃ、次期女王のいる公爵邸に来るってだけでも緊張しただろうに、いざ来てみたら現国王と、王子たちがいたらびっくりするよね…」
レイが頭を抱えてほんとごめん…と呟く。私はぷうと頬を膨らませて意味のない抗議をして見せる。
「ちゃーんとこの埋め合わせはしてね?レイ」
「なんでもしてあげるよ」
レイがそう言って私の頭に口づけを落とした。目の前の二人がニヤニヤしながらそれを見ている。
「いいなー僕も恋人見つけよっかな~」
「えーカールが見つけるなら僕も見つけよっかな~」
そんな気もないくせに白々しく言う二人に笑ってしまう。
「いずれあなたたちにもいい人現れるわよ。さ、うちの侍女にお祝いの言葉でも贈ってきて」
「「りょーかい。またあとでね、サラ、レイ兄」」
また見事にハモりながら二人はひらひらと手を振ってマリアとエルグラントの方に向かって行った。
「ほんとごめん。うちの鼻垂れ甥っ子が」
「あの顔面だからご令嬢からは大人気なんだけど…どうもあの二人は幼いわよね」
エルグラントのご家族の元に歩きながら話す。最近はこうやって歩く時もレイの手が腰に回されるようになった。うふふふ堂々といちゃつけるって最高!
「埋め合わせなにしよっか?」
レイが弾んだ声で聞いてくるものだから笑ってしまう。
「それは私のセリフじゃない?なんでレイが楽しみにしてるのよ」
「埋め合わせっていったらデートとか?お忍びデートしよっか。来月なら一日くらい休み合わせられるかも」
「見事に私の質問スルーしたわね!?ああ、でもいいわね。お忍びデート。行きたいわ」
「よし決まり!楽しみにしとく」
そんな話をしていたら、ガチガチのホーネット家の皆さんの前に着いた。
「レレレレレレレレレイモンドく…王弟殿下…きょきょっこここここっ」
「おおおおお落ち着いてくださいホーネットさん!!!いつものようにレイモンド君でいいですから!!!」
鶏のようになったエルグラントのお父さまにレイが慌てて声を掛けるが、ホーネットさんはガタガタ震えている。
「ままままままままさかエルグラントがたまに連れてきたレレレレレレレレレイモンドくんがががががおおおおおおおうてててて」
「落ち着けおやじ!!」
未だガタガタ震えるホーネットさんの声を遮って大きな声が私たちの後ろから届く。
「エルグラント!!」
「エルグラントさん!!」
私とレイは振り返り、その声の主を笑って迎える。隣にはマリア。二人ともものすごい苦笑してる。
「ご無沙汰してます、お義父様」
「マママママママリアちゃん」
「だから落ち着けっておやじ!お前らも!挨拶くらいしろ!」
エルグラントが弟さんたちに声を上げるが、弟さんたちもどうしたらいいかわからず突っ立っている。
「だだだだって兄貴!!貴族に自分から声かけちゃいけねえって…」
「ししししかもこんなべっぴんさん」
「馬鹿!!お前この方は次期女王だぞ!!!迂闊なこといってんじゃねえ」
「兄貴!!もうどうしたらいいかわからねえよ!!!」
「いい!、から!、おち!、つけ!!!」
エルグラントが一息ごとに弟さんたち四人の頭に次々拳を打ち込んでいく。ふがっとかんぎゃっとかカエルが踏みつぶされたような声を皆さんが出して、もう私は耐えられなかった。
「あははははははははっ!!!やだっ…もう!楽しすぎるわっ…!エルグラント、もしよければご紹介して?私マリアのご家族になる方にきちんとご挨拶したいわ」
ああ、なんて楽しくて素敵な日なのかしら!
初のカールとヘイリーです!




