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173.おめでとう

「エルグラント前団長、そなたに大きな危害が加えられてなくて安心した」

「もったいないお言葉に御座います、陛下」


 あれから、レイが一人で控えていた部屋に戻り、陛下と陛下の側近二人、レイ、私、マリア、エルグラント、ジェイ、ハリスの面々で向かい合っている。向かい合っているといっても、正確には陛下と私とレイが座り、他の面々は背後に控えている形だ。


「しかしまたサラの読みは完全にあたったな…」

 陛下がはーっと苦笑いしながら溜息を吐くものだからびっくりしてしまう。え、だ、ダメだったの?私がキョトンとしているとレイが隣でくすくすと笑う。

「違う違う、サラ。義兄さんは褒めてるから大丈夫だよ」

「あ、そ、それならよかったわ…」


 ほっと胸を撫で下ろす。と、視界にマリアとエルグラントが入る。うん、二人の目が読まなくても分かる。『説明してください』って言ってるわね。晩餐会まで説明する時間は…うん、十分にあるわね。

「陛下。事のあらましを説明してもよろしいでしょうか」

「ああ、ぜひ聞かせてくれ」


 陛下の許可をもらって私は話し始める。

「…今回のこと。アデライド嬢の最終的な目的なんだけど。おそらくレイとの間に何かしらの既成事実を作ることだったの。ルーカス公爵はずっと王族との強い結びつきを作ることを狙っていて、カールとヘイリーにも何度か公爵からアデライド嬢との婚姻の打診があったんですよね、陛下」

「ああ、だが…どうにもルーカス公爵には悪い噂が絶えなくてな。…わざわざそんなところから嫁を取らずとも、他にも我が王族に利となる家門の令嬢はいるわけだから、その都度断ってはいたんだが」


「アデライド嬢がレイと既成事実を作るためには、まだ多くの貴族が残る中でどうしても行わなければならなかったの。皆の証言が必要だからね。だから仕掛けてくるなら晩餐会の前だとは思っていたけど」

「ちょちょっちょ、ちょっと待て嬢!」


 エルグラントが陛下の前だということを忘れて、慌てて私の会話を止めた。無礼よ、とマリアが窘めるが陛下が構わない、と鷹揚に笑ってくださった。

「どうしたのエルグラント?」

「嬢、言ってたじゃないか。あの二人の令嬢がなにか直接仕掛けてくる気配はないって。嬢だったら、何かを企ててるってわかるだろ?」

「そのことだけど…アデライド嬢はおそらく私が目を読めることを知っているわ」

 

 私の言葉にその場にいた全員が目を丸くする。


「どこの情報かは知らないけれど、私は別にこれ、隠してるわけじゃないから。どこからでも彼女の耳に入ってたんでしょう。そして彼女もまた、そういう私を知っていたから敵意だけを瞳に灯すように意識したんじゃないかしら。それでも怪しかったからあなたに注視しててねっては言ってたのよエルグラント」

「そうだったのか…」

 エルグラントが呻くように言うのを見て、私も頷く。

「黒いベールを侍女に被らせていたのを見て確信したわ。あの見目を気にするアデライド様が顔に傷のある侍女を雇うわけがないもの。…あんまりこういう言い方好きじゃないけど」


 私は話を戻す。

「エルグラントが攫われたのは、理由を付けて私を呼び出すため。そしてレイと離れたところをアデライド嬢が部屋に行き、無体を強いられたと吹聴する。事実があったにしろなかったにしろ、証言だけあればレイはアデライド様を傍におくか、それがどうしても不可能なら、アデライド様が傷者にされたことを笠に着て、王族に対して優位な関係を作ることができる。ルーカス公爵からすれば王族とのつながりができるし、アデライド嬢はレイの御手付きになれる。親子で考えた作戦なのでしょうね。」

「いつお嬢様はアデライド嬢のたくらみというか作戦に気付かれたのですか?」


 そのことなんだけど、と私はくすりと笑ってしまう。

「ダンスのときにね、アデライド様がレイに向かって熱い熱い視線を投げかけていたの。私と目を合わせるときはバレないように必死にご本心を隠してらっしゃったんでしょうけど」

 そういって私はレイを見てまた噴出してしまう。


「…待っててね。あとで行くわって、期待に満ちた彼女の目がびしばしレイに向けられていたから。なんでそんな確信に満ちた期待の視線を向けているんだろうと思っていたけど。…レイと離れるように侍女から誘導されたときにピンと気づいたわ。あ、アデライド様がレイの元にいくなら今ねって」

「なっ!サラ、それ笑うところじゃないでしょ!?下手したら俺冤罪を掛けられるところだったんだよ?!」

 レイが慌てている。

「だって、それを伝えた時のレイの顔…ああ、だめ、思い出したらおかしくって。まるで未知のものを見るような恐怖の顔…ふふっ」

「…楽しんでるでしょ…と、まぁサラの推測通りなら、部屋に誰よりも強い証言をしてくれる人間を待機させておかなきゃなんないってことで。義兄さんに頼んだんです」

 レイが補足で言葉を続けてくれる。

「襲われてもすぐにかわしておこう位の気概でいたんだけど。まさか勝手に脱がれて勝手に騒がれるとは思わなかった」


 あ、と私はレイに伝えていなかったことを言う。

「たぶんね、アデライド様は少しはだけた時点でレイがその気になってくれると思っていたはずよ。でも、あなたはおそらくほぼ無意識に軽蔑の視線を投げかけた。それで慌ててあそこまで騒ぎ立てたのよ」

「げ」

「げって言わないの。あれだけ可愛らしい方だもの。男性なんかどれだけでも手玉にとれたはずよ。レイも同様に容易く落ちるとでも思っていたのでしょうね。腹立たしいわ」

「俺もそんな風に思われていただなんて考えただけで腹立つけど…」


「ま、これが今回の真相よ」

「サラの機転のおかげでルーカス家の膿を出すことにも成功しそうだしな。あの公爵邸がどれほどの横領を行っているか、今から王城の者を派遣させるのが楽しみだ」

 陛下がはっはっはと笑う。

「あまりご令嬢への処罰を厳しくしても反感を買いますしね。あれくらい甘い処罰にしておけば公爵家も財産管理の者が城から派遣されることにも否といいにくいでしょう。…まぁ、でもルーカス公爵家の領地から得られる税収を考えると、どうしても王宮への納税が数字がおかしいんですよね。私があそこでもっと大きく罪を取り上げずとも、近いうちに公爵家はあるべき形に収まるでしょう」


 そういって陛下と視線を合わせると、陛下もまた似たような悪い顔をしているもんだから笑ってしまう。

「くっはっはっは!!やはり、シャロンが見込んだだけのことはある!!!まさかアデライド令嬢のおいたを利用して公爵家の膿まで出してしまうとは。いやはや、大したもんだ」

「おほめ頂き光栄です」

「二人とも…笑顔が怖いよ」

 レイがはーっと溜息をつく。ほんとこの二人敵に回したくないとかなんとか聞こえたけど気のせいよね?


「お嬢様が…エドワードのせいでどんどん腹黒に…」

「おいおい、人聞き悪いことを言うなマリア。これは次期女王としての通過しなければならない試練の一つだ」

 陛下が嬉しそうに言って、マリアがはぁ、と溜め息を吐く。と、不意に考え込む表情を見せた。

「でも…なぜエルグラントが狙われたのでしょう?」


 マリアの言葉に私は柔らかく微笑む。

「…本来なら、あなたが狙われていたはずよ、マリア」


「「「「「「は!?」」」」」」

「自然とお腹をかばっていたり、少しだけ具合が悪そうだったり。あなたの変化に気付いてないとでも思った?でも、今日の王位継承権発表が終わるまではと思っていたのでしょう?



…赤ちゃん、できたのね」



 そう言ってにっこり笑う。

 あんぐりと口を開ける私以外の皆の顔を見て笑いそうになりながら言葉を続けた。

「最初マリアを狙う予定だった間者は、あなたの様子を見て妊娠に気付いた。それで、雇い主であるアデライド様と話し合ってすぐに標的をエルグラントに変えたのよ。エルグラントに使われた薬。あれ、胎児には大きな影響を与えるわ。それでもし赤子が流れでもしてしまったら、大ごとになるもの。そこまでの混乱は望んでいなかったはずだから。もちろん私を狙うのも例外。バレてしまったら大罪だもの」


 そこで、と言葉を続けた。

「標的はエルグラントに変わった。いざとなればマリアの身に危険を及ぼすぞとでも言ったのでしょうね。ふふ、身重でもマリアなら返り討ちにしてしまうでしょうに。…でも、エルグラントはそう言われて手を出すことができなかった。…歯がゆい思いをしたでしょう?ごめんね。巻き込んでしまって」


 私はエルグラントとマリアに向かって礼をしようとする…のをマリアが慌てて肩を掴んで止めた。

「やめてくださいお嬢様!!…まさか…そんなことが…本当なの?エルグラント」

 マリアの問いにエルグラントが頷いた。

「本当だ。…マリアとお腹の子がどうなるかわからないと言われ、動けなかった。…すまなかった」

「…ほんとよ!なんのためにあんなに鍛錬…!」


 マリアが言葉を続けるのを私は遮った。

「マリア。あなたと赤ちゃんを守るために、熊を気絶させるくらいの薬をエルグラントは甘んじて受けたのよ。これが勇敢じゃなくて、愛じゃなくてなんだというの。あなたの旦那様を誇りなさい」

「お嬢様…」

「ふふ、とっても嬉しい。もう、早くあなたの口から聞きたくて仕方なかったのに我慢できなくて言っちゃった。


…心からおめでとうを言うわ。マリア、エルグラント」

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