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164.の、弊害一つ目。

「後ろから失礼いたしますわ」


 ――――きたわね。

 お花を摘みに手洗い所へ入り、用を済ませて出ようとしたところを呼びかけられた。背後にスカーレット嬢とその護衛が付いてきているとエルグラントから言われていたので心構えは出来ていたけど。

 さすがに手洗い所の中まではエルグラントは入ってこれないもの。手洗い所からだいぶ離れたところで待機してくれている。なにか接触してくるならここらへんだと思っていたけど。


「お久しゅうございます。スカーレット様」

 後ろを振り向き、挨拶をする。一応身分的にはまだ同格だものね。どちらから挨拶をしても構わないわ。

「こちらこそ、お久しゅうございますわ、サラ様」

 スカーレット嬢も美しい所作で軽く膝を折り返してくる。隙のない動きはさすがだと思う。小さな頃から教育を受けてきた賜物だわ。


「―――随分とうまくおやりになりましたのね」

 うーん。きたか。悪意に満ち満ちているわ。

「うまく、とは?何のことでしょう?」

「おわかりでしょう?」

「懐の探り合いのような言葉遊びはやめませんこと?明快に言っていただいた方がスカーレット様の意図も掴みやすいかと」

 私はにっこりと笑って言う。あー…久々だわこのイラっと来る感じ。メリーと喋った時以来。


「元々レイモンド殿下狙いだったのでしょう?アース殿下との婚約破棄もあなたがそうなるように差し向けたのでしょう?国外追放も、その国外追放にレイモンド殿下が付いてくることもすべて織り込み済みの上でアース殿下にそうなるよう差し向けたのではなくて?…うまくおやりになりましたこと」

 はぁ、と溜め息を吐きたくなる。まぁ、アースの婚約破棄の流れは遠からず近からずだけど。

「…お言葉ですがスカーレット様。レイモンド殿下の存在は全く秘匿されておりました。国王陛下が仰っていたように確かに私は六歳のころから女王となるべく教育を受けておりました。ですが、レイモンド殿下とお会いしたことは一度もありませんでしたわ。そのような方をどうしてお慕いできましょう?」

 ま、王族閲覧用の家系図見て存在は知っていたんだけどね。ってこんなことをここで言ったら火に油を注ぐだけなので、黙ってるけど。

 

「アース殿下のことも、スカーレット様。一介の令嬢が王族をそそのかして手の上で転がしてたと?そうおっしゃりたいのと同義ですよね?…さすがにそれは不敬罪にあたるかと」

 かっ!とスカーレット嬢の顔に赤みが差した。うーん。言い合いしたいわけじゃないし、大ごとにしたいわけじゃないけれど。真実は真実として伝えさせてもらわないと、のちのち弊害が生じるし。


「…スカーレット様。結論として、何を仰りたいのです?」

「レイモンド殿下の隣にあなたは相応しくありませんわ。…私のほうが相応しいと言いたいのです」


 …。



 …。



 …うん?



 …うん????ええと、失礼だけど、スカーレット嬢、そんなに頭良くなかったよね???レイの隣に立つってのはつまり女王になるということなんだけど。大丈夫???

 あまりの発言に口があんぐり開きそうになる。


「…お言葉ですが、何を以ってレイモンド殿下の隣に私は相応しくないと仰るのでしょうか?」

「相応しくないというより、私のほうが相応しいという話ですわ」

 

 お前さっき相応しくないいうたやろ。



 脳内で令嬢らしからぬ突っ込みが入る。駄目だわ。なんかこの人との会話疲れる。

 えええ、スカーレット様ってこんな人だったかしら…。あまりお話したことはなかったけど、もうちょっと気品に溢れてたイメージだったのに。いや、その美しいお顔だけは気品に満ちているんだけど…

 あああ…もう。面倒くさい。はやく戻ってレイと話したい。こういう中身のない会話が一番嫌いで疲れる。


 だいたい何よ。自分のほうが相応しい?はぁ?そこにレイの意志はゼロじゃない。

 なんで自分ありきなのよ。なんでレイの気持ち考えないのよ。あなたレイとろくに話したこともないくせに。どうせあの美貌とか肩書とか対外用の所作とかに釣られただけでしょう!?運命の相手だわ!きゃ☆とかなってるだけなんでしょうけど!!!

 ぶちまけてやりたい気持ちを必死に落ち着ける。こんなところで揉めてるだなんて誰かに知られたら今日のパーティーを企画してくれたレイの面目も、快諾してくださったであろう陛下の面目もつぶすことになるもの。

 

「ではその根拠をお聞かせ願えますか?私もレイモンド殿下の婚約者としての誇りが御座います。そんな私よりもご自分が相応しいと言い切れる根拠を」

 ちょっときつい物言いになっちゃったかしら。スカーレット様の肩がびくりと震える。

「あ、あなた一度婚約破棄されてバツが付いているじゃない。私は清廉だわ。それだけで十分に私の方に価値があるのよ!」

「そうですね。私は確かに一度婚約破棄されました。でも、それを知ったうえでレイモンド殿下は私を選んでくださいました」

「それは国王陛下命令ですもの。従うしかなかったのだわ」

 ふん、と鼻息荒くスカーレット様が言う。ああ…もう。


「では私はどうしたらいいのでしょうか?」

「婚約解消なさいな。そして私を推薦なさい」


 ヴァッッッッッカじゃないの!!!???え?なに?この人何言ってるの???

 さっきレイが制定した『婚約の儀』見てたわよね!!??

 …駄目だわ、心が折れた。もう完全に疲れた。会話する気が起きない。無理。ガチで無理。


「お断りします。お話はそれだけでしょうか?…婚約に関しては私からは出来ませんので、望まれるのでしたらレイモンド殿下に直接お話になってください。…失礼します」

「んな…っ!!ちょっと!待ちなさい!!!」

「もう一度言います。…失礼します」

「待ちなさいってば!!」

 スカーレット嬢の言葉を無視して彼女に向かって挨拶のつもりで軽く膝を折り、私は顔を上げた、とき。



 ――――パチンッ!!!


 目の奥で光が走った。と思うと同時に左頬に強い痛みを感じた。

 スカーレット嬢の右手が私の左頬に振り下ろされていた。

「…え…」

「…えっ…」

 

 いやなんで叩いたあなたがびっくりしてるのよスカーレット様…こっちがびっくりだわよ。

 なんてこと思っていたらスカーレット様の顔色が見る見るうちに青くなっていく。


「…ちが…これは、違っ…!」


 私はひりひりする左頬をそっと押さえる。…あーあ、もう。スカーレット様…これはさすがにかばいだてできないわよ。だって結構この叩く音響いたわよ。

 

 きっと直ぐに彼が来るわ。ずっとこちらに注意して神経を研ぎ澄ましていたはずだもの。前交渉団団長。特殊訓練を受けていて、レイほどではないけど耳が良くて勘もいい―――



「サラ様!!!!!何事ですか!!」

 ほらね、もう来ちゃった。大ごとにしたくはなかったのに。

「…エルグラント…」


 ――――敬語全然似合わないけど最高にカッコいい私の信頼する護衛が。

ちょっとどたばたしているので、更新頻度が少し落ちます~~~

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