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163.公にするということ

最近忙しく更新できませんでした。足を運んでくださった方すみません!

 昼餐会もなごやかな雰囲気で終わり、ダンスパーティーが行われる大広間へと移動する。

 ジェイとエルグラントが私とレイを挟むようにして歩いてくれている。マリアは侍女なので控室で待機だ。そういえば…マリアとエルグラントって踊ったりしないのかしら?公爵邸で小さなダンスパーティーでも開催してみようかしら。


 私たちは一番最後に入場する流れになっている。

「いこうか、サラ」

「ええ」

 レイがにこやかに笑いながら私の手を取ってエスコートしてくれる。うう…眩しい。眩しいイケメン…

「…ドレス、良く似合っている。良かった」

「あなた私に散財しすぎよ…」

「他に使いどころがないんだもん」

 もんって…。私は苦笑してしまう。薄紅色を基調とし、レースが幾重にも重なっている珍しいドレスのデザイン。レースがふんだんに使われているから、生地の多さでスカート部分が膨らんでもっと幼い印象を受けるかと思ったけれど、いざ身に纏うとボリューム感は少なくどちらかと言うと大人っぽくてシンプルな印象だ。


 いやまぁ…なんというかとっても好みなのが逆に困る。なんなのこの人。なんで贈ってくるドレスが私の好みいちいちドンピシャなの。


「レイモンド・デイヴィス・ペトラ・イグレシアス王弟殿下と、サラ・ヘンリクセン公爵令嬢の入場です」

 入場を告げる知らせと共に扉が開かれると、中にいた人の視線が一気に私たち二人に集まる。まぁ、当たり前よね。私たちは今日の主役だもの。わあっと言う歓声と拍手が送られ、私たちはフロアの中央部へと移動する。一曲目は私たち二人だけのダンスを来賓の皆は静観しなければならない。二曲目からはフロアにいる人間は自由に踊っていいことになっている。


 やがて音楽隊による演奏が始まった。フロアの中で私とレイだけが動ぎ始める。

「なんかやりにくいね」

 こそっとレイが言い、私も思わずうなずく。

「本当に。一挙一動を見られるのって不安だわ。ステップ間違えないかしら」

「サラは上手だから大丈夫だよ」

「ありがとう、レイ。前も言ったけどあなたもとっても上手よ」

 お互いに微笑む。この前よりもゆっくりとしたステップだ。関係を公表した開放感からか、自分でもわかるほど熱い視線をレイに向けてるし、レイからも愛情を隠しもしないほど熱い視線が注がれているのがわかる。でも、別にいいの。悪いことしてないし、もう隠す必要もないのだから。


「ああ、やっぱり。そのドレス、ダンスするときに絶対美しいと思ったんだ」

 レイが私を見て顔をほころばせる。

「そうなの!?どんなふうに見えてるの?」

「サラが回るたびにふわりとレースが開いて、まるでサラが美しい一輪の花みたいに見える」

 砂糖!!!!砂糖大量出現案件発生!!!なんなんですかレイモンド・デイヴィスってこういうことを言わないと死ぬ生き物なんですか!!???誰か教えて偉い人!!!


 ぐぬぬ、と顔が赤くなるのを必死でこらえる。あとでマリアに絶対言おう…

 けど、そんな爆弾を落とした本人は涼しい顔をして問いかけてきた。

「この後どうする?二曲目までは踊る?」

 婚約者という立場を公表したから二曲続けて踊ることは問題ない。私は頷く。

「二曲目まで踊って、私たちはあいさつ回りをしましょうか。…怖いご令嬢が二人ずっとすごい視線をこっちに向けているから、ダンスはやめてあなたにくっついていることにしましょう」

「怖いご令嬢?」

 レイがきょとんとする。私はくすくすと笑って言った。

「スカーレット嬢と、アデライド嬢。ここに入ってきたときから私への敵意を隠しもしてないわ」

「…ああ、あの二人か」

「王弟の寵愛を受ける次期女王候補に手を出したらどうなるかわからないほど浅はかではないでしょうから、メリーのように直接嫌がらせをしてきたりはしないでしょうけど、まぁ嫌味の一つや二つは言われるかもしれないわね」

「エルグラントさんに言っておく?」

「そうねぇ…念のため。一曲目が終わったらエルグラントに伝えましょう」

「わかった。じゃあ俺の方も念のためジェイにも言っておこうか」

 ええ、と返事をする。


 体がぴたりとくっつき、鼻先が触れそうな距離まで顔を近づけて見つめ合う。ほう…と観客席からため息のようなものが漏れているわ。まぁ、これだけ見せつけられちゃね。ごめんなさい、と心の中で思うけど。じつはちょっとわざと見せつけてるところもあるから。

 レイってば、モテるんだもの。婚約発表したあとなのに、レイへの秋波を隠しもしない令嬢だらけでびっくりしてしまった。むしろ、「まだ婚約者」だからいつでも破棄できると思っていそうな空気だわ。

 

 そのため―――つまり婚約破棄が簡単に行われないためにレイが『婚約の儀』を設定したのに。まだまだこの新しい慣習が根付くのは時間が掛かりそうだわ…。私は心の中で溜め息を吐く。


 やがて音楽が終わり、二曲目までの間奏が流れ出したところで私は壁側で待機しているエルグラントに視線を寄こした。さすがエルグラント。意図を汲み取って即座にジェイと共に私とレイの元へ来てくれた。

「いかがいたしました?」

 人目があるからエルグラントが敬語だわ。ふふっ、面白すぎる。

 私は持っていた扇子で口元を隠しながらエルグラントだけに聞こえるように言う。ジェイにはあとで伝えてもらえばいいしね。


「…スカーレット嬢と、アデライド嬢。直接何かをしてくる可能性は低いと思うけど、ゼロじゃないわ。私への敵意の視線が人一倍強いの。ちょっと注視しておいてもらっていい?」

「…嬢が言うと、これから何か起こる予感しかしないんだが…」

 同じく小声で返すエルグラントの纏う空気が変わる。

「杞憂に終われば済む話よ。今のところ何かを企てている目ではないから」

「…わかった。―――レイモンド殿下のミントのカクテルですね。すぐに持ってまいります」

 エルグラントが少し大きめに声を出した。ふふっ、ミントのカクテルってなによ。

 

 王族ともなると、給仕係を信頼せず腹心の部下に見張りをさせつつ飲み物を持ってこさせることも多い。毒物混入とかの可能性があるからね。

 間奏の間に護衛を呼んで何を話しているんだと気になる人もいるでしょうから。あまり聞かれてもいいような内容でもなかったしね。エルグラントが機転を利かせて誤魔化してくれたというわけ。


「じゃあ、サラにはイチゴのカクテルを。薄いやつで」

 レイが言って、ジェイがかしこまりました、と言ってくれる。一連の流れを見ていた人からすると、恋人がお互い相手の好きなものを部下に取りに行かせただけのただののろけ行為になってしまった。


 エルグラントとジェイが飲み物を取りに行ってくれる間に私は笑ってレイに言う。

「二曲目まで踊るんじゃなかったの?もう間奏終わっちゃうわよ」

「途中から参加すればいいよ。ちょっと俺も緊張してたみたい。カクテルが来るなら嬉しい」

「あなたが緊張?」

「だって婚約者を公表してから初めての公のダンスじゃないか。嫌でも注目を集めるのに」

「…あっ、そうね」

「あ、そうね…って」

 レイがくしゃりと笑う。あああっ!馬鹿!あなたを見ていたご令嬢の頬が赤くなっちゃったじゃない!!!何を話しているかはわからなくても、その笑顔は皆が見えちゃうのよ!!駄目!

 そんなことを言い合っていたら二曲目が流れ出した。今の一連の流れを見ていたため、二曲目のお誘いは皆が遠慮してくれたらしい。誰もダンスを誘いには来なかった。

 

 まあ、隙あらば選んでもらおうと遠巻きではあるけど多くの人が私とレイの周りにはいたんだけどね。曲が始まって別の人と踊りだしてはいるけど。


「…ほんと、俺の婚約者は器が大きすぎる。度胸がありすぎる。…俺、まだまだなんだって嫌でも思い知るよ」

 何の話?と聞こうとしたところにエルグラントとジェイが私たちのカクテルを持った給仕係を連れてきた。

「お持ちしました」

 ありがとう、と言ってそれらを受け取る。

「また何かございましたらお呼びください」

 エルグラントとジェイがそう言って再び持ち場へと戻った。ふふふっ、かしこまりエルグラント、とってもおもしろいんだけど、とっても素敵だわ。


「ん、おいしい」

「イチゴのカクテルだけは、ちょっとこだわった。サラ、好きだから」

「ひょっとしてあなた料理にまで口出したの!?」

 思わず笑ってしまう。なんだか昼餐会も、やたらと私の好物が並ぶと思ったらそういうことだったの。

「一緒にずっと食事を摂ってた二年間で、サラの好きなものも好きな味付けも全部把握してますから。せっかくなら喜ばせたいな、って」

 うううーん、良い笑顔。いい笑顔だし、やっぱり…

「あなた甘やかしすぎよ…」

「もはや生き甲斐」

「振り切ったわね!?」


 二人で笑い合う。やだなにこれ。すっごく楽しい。



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