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160.王位継承権発表

 王宮、謁見の間。


 王族であるアースやレイはもちろんのこと、国内のある一定以上の地位を持った貴族や名家、末席には大きな商会の会長などがそこには朝から呼ばれていた。()()()()にいた人たちは私がシャロン前女王陛下から次期女王としての任命を受けていたことを知っているから、私が陛下に手を取られながら一番最後に登場した時に、なんとなく察した人もいたみたいだった。

 それ以外の人はなぜヘンリクセン家の公爵令嬢が陛下にエスコートをされているのだ?と疑問の表情だったわ。まぁ、この集まりの主旨を伝えられていなかったから当たり前だけど。


 レイの時のように今回は民を呼び寄せてバルコニーで大々的に発表することはしない。私はあくまで次期女王『候補』であって『女王』ではない。民にはこの発表ののちに号外などの形で知らされるとのことだった。


 やがて陛下が玉座の前に立ち私もその隣に並んで立つ。陛下は一枚の書を側近から受け取り、それを広げ、良く通る声を発せられた。


「これは前女王、シャロン・ペトラ・イグレシアスの遺命である。皆の者、心して聞くがよい。

―――『私、シャロン・ペトラ・イグレシアスは、正当な王位継承権を有するものとして、次の者を任命する。


 【サラ・ヘンリクセン公爵令嬢】


 この書が読まれたその時から、ここに集う者達はその者を正式な第一王位継承者と認めるように』


 …以上」


 ざわっと大きなどよめきが謁見の間に広がる。まぁ、世襲制度だったこのブリタニカに於いて、いきなり王族の血筋とは関係ない貴族の令嬢が女王候補に召し上げられるだなんて前代未聞だものね。

 でも、こんなの想定済みだわ私も陛下も。陛下がそれらの動揺を見透かし、言葉を続けてくれる。

「…世襲制度が当たり前だった我が国において、王位を禅譲するというのは前代未聞のことだ。だが、十有余年ほど前に国家内の貴族の令嬢に国を挙げての試験が行われたことを覚えている貴族も多いだろう」

 陛下の言葉に貴族同士が顔を見合わせている。そういえば、そんなのがあったな…という表情。

 陛下が言葉を続けた。


「今明かすが、あれは前女王シャロンが次期女王を選抜するための試験だった。……皆の者よ、しかと聞くがよい。ここにいるサラ・ヘンリクセン公爵令嬢は、わずか齢五歳にしてあれらの難問を全て違うことなく正の解を導き出した唯一の令嬢である」

 ざわっとまた大きなどよめきが立つ。嘘だろう?あの難問を?五歳で!?と言う声すら聞こえだした。

「サラはその能力を更に生かすため、齢六歳のころより王宮にて女王教育を受けている。王に成るべくして成る人物だ」

 いやでも、ヘンリクセン家は王族の血統ではなかったろう?いくら知識があったとしても…などと貴族たちがざわざわと騒ぎ出した。


「静粛に!!余は発言を認めてはおらぬぞ!!!」

 びりり、とした陛下の声が聞こえ、一斉に皆が黙る。私も若干肩が跳ね上がった。

「…血統を気にするものについても、シャロンは憂いておった。…故に当時の元老院たちとも話し合いを重ね、王族の血を流れるものとの婚姻を条件とし、サラ・ヘンリクセン公爵令嬢を正式な王位継承者として認めることとした!異論は一切認めぬ。これは亡き先代女王シャロン・ペトラ・イグレシアスのたっての願いであり、揺らぐことのない王命だと皆心せよ!」


 しん、とした沈黙ののち。どこからだっただろう。わあっと言う歓声が上がり、それらはたちまち大きな拍手と喝采へと変わっていった。中には拍手をしながら何人か訝し気な目を向けるものもいたけれど、それは別にそれで構わない。上に立つ者が皆から好かれるとは限らないもの。

「…サラ、そなたからも」

 陛下が私の背中をそっと押してくださる。私は陛下に向かって頷いた。

 ああ、なんかしばらくぶりだけど。うまくできるかしら。私は声に威厳が満ちるように意識する。


「…サラ・ヘンリクセンです」


 ぴた、と拍手や喝采がやんだ。ええ、大丈夫、きっと威厳に満ちた声が響いたわ。

「先代シャロン陛下の名に恥じぬよう。そして今代のエドワード陛下の名を汚さぬよう。誠心誠意をもって王命を拝命しますことをここに宣言いたします」

 凛、とした声だったと自分でも自負できる。皆呆気に取られているような感じだけど大丈夫かしら?中には冷や汗のようなものをかいてる人もいるみたいだけど…。


 やがてぱち、ぱちとまだらな拍手が流れ出した。それが大きな拍手になり、それがやがてわあっという歓声へと変わった瞬間私は胸を撫で下ろした。

 よかった。とりあえずは恙なくこなせたようだわ。

 陛下の方を見ると、優しく笑ってくれた。私もふ、っと微笑み返す。


 …んーーーーと。だけど。何か大事なことを忘れているような…?


「あっ!」

 私はそれを思い出してはっと声を上げる。まだ拍手が止まぬ中、小声で陛下に向かって尋ねた。

「あの、陛下?…確か正式にレイとの婚約を明言される予定ではありませんでした?なぜ明言されないのでしょうか?」

 私の問いに、陛下がふっと噴出された。え?えええ!?

「今からのことを考えたらわざわざ明言する必要もないと思ってな。ここにいる全員がしかとその目に焼き付けるのだから」

「…????な、何を仰っているのです?」

「レイもな、あれも今日まで隠し通すために必死でサラと会わぬように頑張っていたらしいぞ。すぐバレてしまうから、どうしても内緒にしていたかったそうだ。まあただでさえ忙しいのにこれをねじ込んだからな。どっちにしろ忙しくなりすぎて会えなかったというのもあるのだが。」

「ちょ…、ちょっとお待ちください陛下?私には何のお話をされているのか全く…」


「静粛に!!!」


 突然陛下が皆を黙らせる。え?ちょ、ちょっと待って私との話は!?

 そして混乱する私を更に混乱させる一言が陛下から放たれる。


「今より、我が愛義弟レイモンド・デイヴィスと、我が愛義娘サラ・ヘンリクセンの『婚約の儀』を執り行う!皆の者はそのまま参列するように」

 



 …へ…?



 コ、コンヤクノギ?



 ―――――なななななな何それ聞いてないわよ!!!!!????

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