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こぼれ話:レイとセリナ

「私と踊っていただけますか」

「ええ、光栄です」


 アデライド嬢とのダンスの後、俺はセリナに声を掛ける。いつもの団服ではないドレス姿。セリナは美人だから一般的に見れば似合っているけれど、団服ばかり見ているから違和感がすごい。

 セリナが交渉団隊長ということは周知の事実だし、俺が彼女と踊ってもなんら噂の的になることはない。団長が団員に声を掛けた、くらいにしか皆の目には映らないだろう。だから好都合なんだけど。


「お疲れさまでした、団長…いえ、王弟殿下と言ったほうが正しいのですわね、この場では」

 アクロバティックな動きをしながらセリナが笑ってくる。

「…黙っててすまなかった」

「誰にだって秘密の一つや二つありますもの。でも、これでやっと謎がいろいろ解けましたわ」

「謎?」

 セリナの体幹の良さは団の中でも知られている。あんまり深く考えずに踊っていてもさっとついてくるからすごい楽だ。あと、セリナもいろいろと心得てくれているのか、体がくっつくようなステップは踏んでこないことがめちゃくちゃほっとする。


「仕草や所作が、出自不明の人間とは思えませんでしたもの。団員の皆と、絶対にどこかの高位貴族の隠し子だって話まで出てたんですのよ」

「なんだそりゃ」

 ふはっと笑ってしまう。

「当たらずも遠からずだな。隠されていたのは事実だし」

「…まさかデイヴィス・イグレシアス殿下だとは思いませんでした」

「態度、変えるなよ?」


 俺の言葉にセリナは一瞬きょとんとして、それから優雅に微笑む。

「…王族であろうがなんだが、私たちにとって団長はただただ尊敬する交渉団団長で御座いますもの。態度の変え方が逆に分かりませんわ」

「…助かる。ありがとう」

「先の団長の王弟発表の後に団員の皆でちょっとだけ集まりましたが、皆激しく納得していましたわ。団長が厳しい中にもあれだけの気品を保っていらっしゃるのも、実は底抜けにお優しいのも、その出自なら納得だ、ということでした」

「出自関係あるか?それ」

「生まれ持ったものと、小さな頃からの教育と言うのはその人の人生に現れるものですわ」

「…そうか。褒められてるのか?それは」

「べた褒めです」

「なら良かった」

 交渉団には二日後に行く予定になっている。…皆とその時色々話ができたらいいな。


 セリナが俺の周りを一周して帰ってきて言った。

「そういえば、さっきのサラ様とのダンス!!!!最高でしたわ!!!!私あれで何冊も薄い本が書けそうです」

「…薄い本?」

「創作雑誌とでも言いましょうか…推せるカップルの話をあることないこと妄想して書くんですの!」

「妄想」

「よかったら今度お見せしますわ」

「…うん、大丈夫だ。それはセリナ一人で楽しんでくれ」


 セリナ…めちゃめちゃいいやつなんだけど、たまに理解不能なこと言うんだよな…


「まぁ、つれませんのね。…で、どうでした?」

「どうって?」

 くるくると器用にセリナが回る。ほんと、何も考えなくていいダンスってめちゃくちゃ楽だな…

「スカーレット様とアデライド様です。王宮主催のダンスパーティーでは今までカール殿下とヘイリー殿下にべったりでしたのに。今日は見向きもされないんですもの。びっくりしましたわ」

「そうだったのか…まぁ、なかなかにアピールが凄かった。どちらも伴侶探しに必死だな」

「短いワルツで良かったですわね…ん?」

 セリナが俺の腕をくぐりながらふと考え込む表情を見せた。のちに、ふふっと笑う。


「なるほど、そういうことですのね。団長も用意周到だこと」

「バレたか」

 俺も思わず笑ってしまう。

「同じ短いワルツが二回も流れるだなんて不思議だと思っていたんです。団長の息がかかっていたとは」

「で、最後にこの長い曲」

「私でダンスは終わりというわけですわね。私に嫉妬されるとは思いませんが、サラ様は大丈夫ですか?」

 そう、基本的に第二部は王族がダンスを踊らないといけないが、第三部まで行けば参加は任意だ。俺は第二部でダンスは終わらせて、客人と会話を楽しむつもりでいる。

「セリナは大丈夫だ。俺に恋心なんて抱いてないことが俺から見てもサラから見ても分かるし。…問題は前の二人だな…」

「お胸つけられそうになるわ、あからさまなあざとい視線を向けられるわ傍から見ても凄かったですもの。お疲れ様でございました」

「香水の匂いついてないか?」

 ふと俺は心配になって、踊りながら服の香りを嗅ぐ。スカーレット嬢からはバラの香り、アデライド嬢からはバニラの香りがすごくて、正直すこしだけおえっときた。


「若干ついておりますわ。でも、別にこの後はこのままお開きでしょう?何をお気にされていらっしゃるんですか?」

 セリナの問いに、俺は少しだけ赤面して答える。


「…プロ、ポーズ…しようかと思って」

 ぶわっとセリナの背後に歓喜の花が咲く。な、なんでセリナがそんな喜んでるんだ…?

「ま…っ!!!まぁまぁまぁまぁ!!!!本当ですの!!!???」

「こんな嘘つくわけないだろ」

「ああああ…っ!本当にイヤイヤだったんですが今日このダンスパーティーに参加して大!正!解!でしたわ…っ!!!」

 鼻血でも出そうな勢いでセリナが喜ぶ。


「がんばってくださいませ団長!!あああ…!サラ様の結婚式のドレス姿!!!楽しみで楽しみで仕方ありませんわ!!!駄目です鼻血出そう!」

「落ち着け。まだ返事ももらってない」

 俺が苦笑するとセリナは首を傾げた。

「勝算がないんですの?」

「いや、頷いてもらえるとは思う」

「ドレス姿楽しみですわ!!!」

「だから落ち着け」

 ほんと、仕事以外ではぶっ飛んでんだから。まぁ、この全く恋愛の感情を送ってこない存在が、すっごい心地いい。


「それなら団長、きちんと匂いは消して行きませんとね。他の女の残り香なんてさせてはダメですよ。いいですか、匂いを消すには…」


 セリナがそう言ってあらゆる消臭方法を教えてくれる。俺はそれを一つ一つ頭に丁寧に叩き込んで行った。

セリナちゃん各方面に推しが多いオタク女子なので、結婚する気はゼロです。

家族は諦めモード。という設定。

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