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152.ダンスパーティー

 レイが贈ってくれたパーティー用のドレスは、レイの瞳と同じ蒼を基調としたドレスだった。


「これを着るときが一番他の男の目に触れますから。この色だけは譲れません」


 なんかそんなこと言って選んでくれていたけど。式典も似たようなものだと思うんだけど…?

 まぁ、そこらへんは置いといて。


 レイ達がバルコニーから王城の中に戻り、お父さまたち高位貴族は謁見の間で再びレイからの挨拶と、陛下の正式な通告を聞く運びとなっている。基本的に爵位を持つ人間と、爵位を継ぐと確定している嫡男しか入れない。

 そのため私たちは一旦ヘンリクセン家に戻り、その間にパーティー用のドレスに着替えるというなかなか私にとってもマリアにとっても大変な一日を過ごすことになる。


「久々に見る顔ぶればっかりだったけど、皆成長していたわ」

「お嬢様の年頃の二年間って言うのは顔つきも体形も変わりますしね」

「ええ。…とても美しくなってたわ」

 その中にはもちろん今日レイと踊る公爵令嬢二人の姿もあった。きっと今頃大慌てで屋敷に戻り手持ちの中で最上級のドレスを選んでめかしこんでくるのでしょう。レイが来るとは招待状には書いていなかったけれど、どう考えても王弟復活を祝うパーティーだもの。レイが登場することを誰だって察するわ。


「…ねえ、マリア。エルグラント」

 いつも通り、護衛とはいえエルグラントには馬車に乗ってもらっている。

「どうされました?」

「どうした?」

 二人が優しい顔で聞き返してくれる。私は昨日からずっとあった胸のもやもやを話す。


「レイね、今日のダンスパーティー、私以外の人とも踊らなければならないんですって。貴族間の争いを避けるために」

「争いを避けるために…最小限の相手に済ませると考えて…。相手はエヴァン公爵家のスカーレット嬢と、ルーカス公爵家のアデライド嬢…か?」

「あなたよく知ってるわね!?」

 すらすらと答えたエルグラントにマリアが驚いている。

「いやさすがに俺だって二年前まで王宮で勤めてたからな!?高位貴族のご子息ご息女くらいの名前は憶えてるさ」


「そう、その二人。ご名答よエルグラント。で、さっきその二人見たんだけど…」

 私は思いっきり溜め息を吐いてしまう。



「めっちゃめちゃ美人で可愛かったの―――――!!!!」


「「んん!?」」


「スカーレット嬢は高貴さがもう顔からにじみ出ていて、鼻も高いし、目もきりっとしてて…!あとお胸もとっても大きいし!!身長高くてスタイル良いし!!!アデライド嬢は可愛いを体現したような見目で、目は大きいし唇は美しい桃色だし肌は白いし、少し小さいけどレイと並ぶとその身長差までもが可愛いと思うの…!!!」


「え…ええ」

「お…おう」


「勝てっこないわ…どうしよう。予想以上に美しくて可愛くてあんな令嬢たちと踊ったらレイの気持ち傾いてしまわないかしら。ものすごく不安」



「あー…嬢?一つ聞きたいんだが…今日は何の視線も感じなかったか?」

 エルグラントが苦笑いしながら聞いてくる。今その話関係あるかしら?私は首を傾げながら答える。

「たしかにめちゃくちゃ見られていたけど?わざわざ目を読んではいないけど、それは国外追放から帰ってきた好奇の目でしょうし、後ろにマリアとエルグラントがいたから目立ったんだと思うわ」


「おい…マリア。マジか?嬢が男どもの視線すべて集めてたと感じるのは俺だけか…?」

「いいえ、私も全く一緒よエルグラント。少なくとも今名前が出たお二人のご令嬢と比べ物にならないくらい見られていたわ」


「二人とも何こそこそ話しているのよ?」

 私の疑問に答えたのはマリアだった。

「確かにお美しいご令嬢たちでしたが、大丈夫です。お嬢様が一番お美しいです。あと、レイがよそ見をするなんて天地がひっくり返ってもあり得ませんから。あれだけお嬢様バカなんですよ?信じてください」

「信じては…いるんだけど。はぁ…もう醜い感情でいっぱい。レイがこれからどんどん遠くの人になっていきそうな感覚よ。皆がレイの魅力に気付いたわ。皆があの人の美しさ…外見だけじゃなくて知れば知るほど内面だって美しいことを知ることになる。…私だけが知っていたかった、だなんて思ってしまうの…ほんと醜い」


 口にすると本当に自分勝手な感情だと思う。けど、二人から返ってきたのは意外な言葉だった。


「おー!それならやっと嬢もレイのやきもきする気持ちがわかるな?!」

「よかったですそれが分かったのであれば」

「んん!?」

 な、なんでここで良かったって言葉が出るの!?



―――――――


 王宮。ダンスパーティー。


「ねえ、お兄さま。皆ひどいわね。私まるで珍獣扱いだわ」

 お兄さまと腕を組みながら私は溜め息を吐いた。

 ダンスパーティーが始まってすぐ多数の男性が私のところにダンスを申し込みに来た。お兄さまがすぐさま駆け寄ってくれて、すこし最初は食事を楽しみたいので~とかなんとか断ってくださって助かったけど。

 やっとダンスの申し込みの列が途絶えたところで、私とお兄さまはシャンパンを取りに立食テーブルの近くまで移動していた。

「うーん、あれはそう言うのとは違うと思うけど、まぁお前がそう思っているのであればそれでいいよ、サラ」

 お兄さまが苦笑しながらシャンパンを手渡してくれる。これ一杯が許容範囲だけど、これ以上飲まなければ大丈夫。


「王子に婚約破棄されて国外追放された令嬢がそんなに面白いのかしら。私と踊れば話のネタにでもなると思っているのでしょうね」

 ぷう、と頬を膨らませてみると、隣でお兄さまが苦笑している。否定はしてくださらないのね。まぁいいけど。


 その時だった。ひと際大きいラッパの音と共に、入り口の扉が開かれた。

「お、やっとお出ましか。今日の主役が」

 お兄さまの言葉に私は胸が高鳴る。


 まず、エドワード国王陛下。続いてアースとカール、ヘイリー。そして―――――レイが入場した。

 

 先ほどとはまた装いを変えて、今度はパーティー用に少し華やかな正装をしている。レイの姿を見た途端、男性からは感嘆の、女性からは熱のこもったため息が漏れる。ここが貴族だけの場でなければきっときゃあきゃあ黄色い声援が飛び交っていたに違いないと思わせるような空気だわ。

 陛下が一人、全体を見回せる場所に位置された椅子へと腰かけた。


「皆の者、今日はゆるりと宴を楽しんでくれ」


 鷹揚な陛下の言葉に止まっていた音楽が再び動き出した。

 とたちまち、レイの周りには男性の貴族が自身の娘を連れて群がりだした。もちろんアースやカール、ヘイリーの周りにも。でもやっぱり今日の主役はレイ。圧倒的に彼の周りの人だかりが大きい。


「ほら、サラ。行こう。近くにいないとレイがお前を見つけられない」

 お兄さまがそう言って私をエスコートしてくれる。

「…レイ、モテモテね」

 ちょっと唇を尖らせて言うと、お兄さまは「サラでもそんな顔をするんだなぁ」と頭をぽんぽんと撫でてくれる。

「でも、きっとこれからの宴、やきもきするのはお前よりレイの方かもしれないぞ」

「え?どういうこと???」

「そのまんまの意味だよ。よし、今日は思いっきりレイをやきもきさせてやれ」

「?????」


 レイからも私を見つけられる位置に立つ。けど、こうやって中心部にくると男性陣からのダンスのお誘いが後を絶たない。正直煩わしい。「そんな私をネタ扱いしておもしろいですか!?」って逆上してやりたいくらい。

 そして、やがて第一部の音楽が終わった。

 通例であれば、第二部のスタートから王族はダンスに加わる。第一部と第二部の間に王族の人間は今宵初めての相手を選ばなければならない。男性の王族であれば、気に入った女性に跪いてダンスを申し込み、女性の王族であれば男性達が女性に向かって手を差し出す中から選ぶ。

 それをわかっているので、今まで王族に群がっていた人たちはすっと離れていく。


 最初に選んでもらえるとは思うけど!!!緊張するわ。

 どきどきしながら待っていると、ふとレイと目が合った。瞬間、蕩けそうな笑みを浮かべて私に向かってくる。…もう、本当好き。ぎゅーってなる。

 

 そうして、レイが私の前に跪いた。ざわ…と誰のものかもわからないどよめきが起こる。

 私の手を取って軽く持ち上げた。すべての所作のあまりの美しさに彼が王子だということをここにいる全員は理解せざるを得ないわね、とそんなことまで考えてしまう。



「今宵あなたと踊る権利をいただけませんか?サラ・ヘンリクセン令嬢」


 

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