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151.王弟復活公表当日

 朝から今日は快晴だ。


 王宮の方から、式典の知らせの花火音が聞こえた。今日はいよいよ、レイの王族復帰公表当日。

 マリアに手伝ってもらい、式典用のドレスに着替える。王宮前の群衆が集まる広場の方でもちょっと小高い貴賓席の方に座ることになっているから、きちんとした服装をしなければ。あ、ちなみにこれもレイの仕立てです。


「ほんっと、独占欲の塊のような男ですねあれは…」

 ドレスと同時に装飾品も二種類贈られた。式典用とパーティー用と。ええ、もうお値段のことは考えません。怖いわ。明らかに家が建つもの。

 どちらも深い蒼の宝石を基調とした装飾品。とってもセンスが良くて美しくて、あのお母さまですら唸ったほどだった。

 式典用の装飾をつけながらマリアがイラっとした声を出すものだから笑ってしまう。


「いいじゃない。私は愛されてる感じがして、ほっとするわ」

「お嬢様がいいならいいですけど。…はい、できました!今日も世界で一番美しいお嬢様です」

「ありがとう。今日は一日マリアも大変だけど宜しくね。ていうか、あなたも退団後の初の公の場だし、かなり目立つかもしれないわね」

「大丈夫だと思います。今日はレイが主役ですから皆の関心は彼に向くでしょうし。お嬢様がそれだけ美しければ、背後に立っている私など路傍の石です」

「そんなわけないじゃない…」


 元騎士団団長から交渉団団長、公爵家侍女、前交渉団団長と夫婦。国王陛下と前女王陛下とは旧知の友人。この設定盛り盛りの人間のどこが路傍の石なのよ…

 そう思ったけど口には出さないでおきましょう。


「そういえばエルグラントは?出席するって?」

「あれっ?お嬢様、旦那様と奥様から聞いてないんですか?」

「????聞いてないって?何を」

「彼、ヘンリクセン家の護衛として正式に雇われることになったんですよ?ヘンリクセン家ですけど主にお嬢様の護衛として」

「えええええええええええ!???何それ聞いてない!!!!!」


 びっくりしてしまう。だって本当にそんなこと聞いてない。

「お嬢様は次期女王ですからね。もうそろそろ正式な護衛を付けないといけないということで。やはり護衛はそれなりに腕が立つ者が必要だとエドワードが旦那様に言っていたらしく。旦那様からそれを聞いたので、だったら今暇そうにのんびりと庭仕事をしているエルグラントはどうか?と私から打診させていただいたんです。一応あれもそれなりに腕は立つので」

「全っっ然知らなかったわ…」

 っていうか、暇そうに庭仕事って。そのエルグラントを見てみたいんだけど。


「次期女王として正式に発表があるまではヘンリクセン家で雇い、発表後は王宮預かりになるようです。というわけで、今日から初任務なんですよ。夫婦共々よろしくお願いいたしますね、お嬢様」

「なんだかびっくりはしたんだけど、とても嬉しいわ。私もエルグラントが近くにいてくれたら心強いし、気心知れてるからやりやすいもの」

「そうそう、護衛にする条件があまりに多くてエドワードもどうしようか悩んでたらしく」

 なにかを思い出したようにマリアがくすくすと笑う。

「条件?」


「超絶狭量なお嬢様の恋人が、護衛にするならこんな人にしてくれってエドワードに条件を出したらしいですよ」

「レイが?なんて言ったの?」

「交渉団団長レベルで腕が立つ人間で、できれば女性。無理なら男性でもいいけどその場合は既婚者で、他の女性に見向きもしない人間。優しく朗らかで、お嬢様が心を許せるほど信頼できる人物で、でも許したとしても絶対に恋愛の方向にスイッチの入らない人間で。あとなんでしたっけ…まぁそんな感じです」

「それエルグラントそのままじゃない…」

「マシューっていう線も出たんですよ。でも、マシューが『だんちょーから蹴られたくないんで』って断ったそうです」

 噴出してしまう。絶対レイはエルグラント意識して言ってるわよね。


「昨日レイも言っていたけど、私そんなにモテないわよ。心配性ねぇ」

「本気で言ってるんですか…?」

 マリアが驚愕の視線を寄こしてくる。

「本気よ。だって帰ってきてから釣書の一枚も来ないじゃない。婚約破棄もされて潔白も証明されたのに。私残念ながらモテないのよ」


「…………………あぁ、なるほど」

「何今の沈黙!あなた失礼ねぇ」


 マリアが押し黙った後に納得したように頷くもんだから笑ってしまう。さすがにモテないってわかってるけど傷つくわよ!


「最近焼却炉がフル稼働されている理由が分かりました。ま、旦那様とロベルト様のご判断なら私が言うべきではありませんね。…さて!そろそろ参りましょうか。エルグラントも到着したようですし」

「えっ!?」

 窓の外を見るけれど、エルグラントの姿は見えない。そんな私を見てマリアがしれっと言う。

「到着したら犬笛吹くって言ってたので。門のところに到着したようですね」

「なんなのこの夫婦…」

「お嬢様にも訓練して差し上げましょうか?レイも聞き取れますし秘密の暗号なんかあるとき便利ですよ」

「け、検討しておくわ…」

 そうこうしているうちに本当にエルグラントがシオンに乗って到着した。うーん、この夫婦面白すぎる。



――――――


 快晴の空の下、ラッパの音が鳴り響き、群衆が発表の内容に期待を膨らませて待つ。

 エドワード陛下が、王城のバルコニーに姿を見せた途端、地鳴りのような歓声が鳴り響いた。あまり仰々しいことを好まれない陛下が民の前に出ることは滅多にないから、それだけで群衆は高揚する。続けてアース、カールとヘイリー。それからエリザベート前女王陛下とブランドン前王婿殿下。当たり前だけど滅多に見られない王族の姿に群衆がざわめく。


 そうして、国王陛下が声を張り上げた。


「ここに、喜ばしい発表を皆に知らせられることを誇りに思う!!!」

 陛下が後ろを振り返った。やがてその視線に誘導されて正装に身を包んだレイが後ろから姿を現した。

 …かっこいい。ものすっごくかっこいい!ずるいわ!

 

 群衆の間に沈黙が走る。誰だ?という困惑が民中に満ちるのを肌で感じる。

 真向かいの方で整列している交渉団の皆さんも、「団長?」と目を丸くしている。マシューだけが先頭でなんだか嬉しそうにレイを見つめているのが微笑ましい。

 

「前王シャロン・ペトラ・イグレシアスの実弟。デイヴィス・ペトラ・イグレシアスだ」


 群衆がそれでもポカンとしている。中には彼の存在を知らない人もいるだろうし、知っている人もまるで信じられないとでも言わんばかりの視線をレイに寄せる。予想通りの反応に陛下が更に言葉を続ける。


「二十年前、実質薨去とせよと通達して以来、病の床に臥せってきた。だが、十六の時に奇跡的な回復を遂げ、我が国の最高機関である交渉団で勤めてきた。此度時が熟したため発表の運びとなった」

 そう、不戦の契りは王族しか知ってはいけない情報。弱みになってしまうからね。だからこれは方便ではある。あと、なんで今さら発表になったのかとかそういうの全部「時が熟した」ってぼやかして発表したけど、陛下がいうとそれっぽく聞こえるからやっぱり王ってすごいわ…


「デイヴィス・ペトラ・イグレシアスは、前王シャロンの存命中に王より一つ名前を賜った。新しい名を持つ彼を正式に王族として再び迎えることをここに宣言する!」

 群衆の目から疑問が消え、徐々にだけど代わりに期待がその瞳に灯る。王弟の回復。国にとっての喜びだもの。当たり前よ。


「民よ!喜べ!民よ!騒げ!歓喜の声を上げ踊れ!」

 陛下の力強い声が、群衆のボルテージをどんどん押し上げていく。熱気が伝わってくる。皆、陛下の言葉が終わり歓喜の叫びをあげるのを今か今かと待っているのが分かる。



「今日は、王弟レイモンド・デイヴィス・ペトラ・イグレシアス復活の日だ!!!」



 わあああああああああああああ!!!!!と宇宙まで届くような大歓声が群衆から沸き起こる。誰もが高揚し、涙し、歓喜の声を上げている。紙吹雪が舞い、ラッパが盛大に鳴り響き、中には踊りだす人も現れた。


「民の者よ。此度はこの祝福に酔いしれるがよい!この日を胸に刻むがよい!」


 そう言って、国王陛下がレイの背中にそっと手を添えた。途端に、群衆がぴたっと声を上げるのをやめた。誰もがレイの声を聞きたがっている。

 その期待に応えるようにレイがふわりと優しく微笑んだ。

 ちら、と群衆の顔を見ると…。むーん。わかってたけど。女性がぽーっとした視線をレイに向けてるんだけど!!!ちょっと!!レイサービスしすぎよ!?


「レイモンド・デイヴィス・ペトラ・イグレシアスだ。エドワード陛下の王政を支える腕となることをここに約束する。…民の者よ。頼りなき王弟だが、どうか支えて欲しい」

 そう言ってからまた優しく優しく微笑んだ。だーかーらーもう!!!やりすぎだってば!!!


 再び大歓声が沸き起こったけど、さっきより黄色い声が増し増しなんだけど!!!???もー!絶対後で一言言ってやる!!!

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