148.改めまして
「改めまして、サラ・ヘンリクセンに御座います。先ほどのご無礼誠に…」
「ごめんね!!!」
「ごめんなさい!!!!」
私の言葉を遮って目の前のお二人が拝み倒すように謝罪の言葉を投げかけてくる。
あれからマリアにお願いしてもう一度きちんとドレスを着させてもらって、綺麗にお化粧もしてもらって、よしっと気合を入れなおして。
お二人がいらっしゃるという部屋にケヴィン様に案内していただいて。
そこでまたもう一度よしっと気合を入れなおして入室してから開口一番、めちゃくちゃ勇気を出して言ったのに。謝罪に謝罪を返される羽目になった。
「ごめんねごめんねサラちゃん~~~お願いだから嫌いにならないで!!」
「私たちのせいでレイと別れるとか言わないで!本当にごめんなさい!!!」
「や!やめてください!私全然怒ってないです!」
「ほんと!?ほんとに??仲直りしてくれる???」
「いや仲直りも何も…」
「ありがと~~~~サラちゃん!やっぱりあなたとてもいい子だわ~~」
…う…薄々感じていたけど…あの…この方たち元女王と王婿よ…ね??
私の戸惑いを察知したのか、レイがくすくすと笑いながら教えてくれた。
「王として即位してた頃はめちゃくちゃ気を張ってたらしくて。その反動で今はゆるふわ老夫婦になっちゃったんです」
「え…ええ、その賢王ぶりは歴代でも群を抜いていた…と教えられたもの。正義を貫き、悪を諫め、いつでも我を律し、不当なことには厳しくありつつも臣下や民の声には寛容な王だったって…」
「ええ~~~やだ~~~私そんな風に教えられてるの!?やだ~~照れちゃう!!」
「母上落ち着いて」
即座にレイからの突っ込みが入る。
な、なんか落ち着いて見るとエリザベート様きゃっきゃしてるわね…?
「あの…それでも、私もお二人の気持ちを察することができずに…」
「ねえねえサラちゃん!!お腹空かない?」
ブランドン様がきゅるんっとした目で言ってくる。わーお私の言葉まるっとむーし。
よくよく見たら、レイに似ている。その瞳の美しさもすべての造形の美しさも。顔が日に焼けていて一見わからなかったけど。レイも将来こんな風になるのかしら。…激イケオジ。やだめちゃくちゃときめくんだけど。
「あ…えっと。す、少し空きました」
「よしじゃあもう早いけど夕ご飯にしちゃおう!僕もエリザベートもお腹ペコペコで」
「召し上がってらっしゃらなかったんですか!?」
「だって僕たちのせいでサラちゃんが倒れちゃったのに。僕たちだけ食べられないよねぇ、エリザベート」
エリザベート様もうんうん、と頷く。
「レイは別にいいけど。マリアとエルグラントもサラちゃんに付き添ってて何も食べてないのに私たちだけ食べられないわよー。っていうか、久しぶり二人とも!!エルグラントはそれなりに年とったけどマリアは変わらな過ぎてびっくりしたわ~」
「お久しぶりです」
「ご無沙汰しております」
「ほんと久しぶり。なんか不思議なものねえ。私に忠誠を誓った二人が、私の息子のお嫁さんの侍女と護衛だなんて!!感慨深いわぁ。そこらへんの話もご飯食べながら聞かせて頂戴。ああ、ほんとお腹空いた。ご飯行きましょ?」
そう言ってエリザベート様は私の腕に自分の腕を絡ませてきた。
わ。わわわわ!!!な、なに!?ちょちょちょちょちょっと嬉しすぎるんですけど!!!!
「母上…ちょっとくっつきすぎです」
「なぁにレイ。やきもち??狭量な男ねえ。ブランドンそっくり」
「じゃなくて!!サラ様が困るでしょう!?」
「こここここ困らないわレイ!!!!だめ今私腕組んでもらって嬉しすぎて舞い上がりそう!!!」
思わず言葉が出ちゃった。だって!だってこんなの嬉しすぎるじゃない!!!
「ええええええなにこの可愛いお嫁さん!!!ねえねえもう女王なんて辞めてここに住まない!?」
「母上!?」
「それいいじゃん!!僕たちとのんびり暮らそうよ!!もうそのままレイがエドから王座受け継げばいいんじゃない?エドとサングリットに女王制撤廃の法案作ってもらおうよ!王政なんかレイに任せて釣りとかして暮らそうよ」
「父上も何馬鹿なこと言ってるんです!?」
レイが慌ててるのがおかしくて。レイのご両親が想像以上にいい人で。
思わずしまりのない顔でへにゃりと笑ってしまう。
…。
……。
ん?ど、どうしたの??なんでイグレシアス一家の皆様黙ってるの。
「…こ、れは。苦労するね…レイ」
「あああああやだ可愛い可愛い可愛い何うちの嫁可愛い!!!!天使なの???天使降臨なの!?だめ鼻血出そう!!!!」
「~~~~っ!もう!気の抜けた笑顔は禁止っていつかロベルトに言われたでしょう!?」
「え…ええ?ごめん、なさい?」
マリアは慣れた様子ですましているし、エルグラントは肩を震わせて笑っているし…。な、なんだか今日とても慌ただしいわね。
――――――
「「すみませんでした!!!」」
晩餐を取るための部屋に入って、恐縮するエルグラントやマリアも無理矢理座らされ。食事が出てくるまで食前酒を飲んで皆でわいわいと話していたときに、部屋まで訪ねてきたカーサさんとペドロ様が私に向かって謝罪した。
「あんたみたいな可愛いお嬢ちゃんをだますなんて、気が引けるって言ったのにうちの主人たちが聞かなくて…」
「俺もです…本当にすみませんでした。うちの主人たちが…」
ええ、と。何度も再確認したいけど。『うちの主人たち』って前女王陛下と王婿殿下よね!?王室離脱したとはいえ、立派な身分をお持ちの方にそんな物言い大丈夫なの…!?とひやひやしながらブレンドン様とエリザベート様お二人を見るけど、『てへっ』という顔を見せてるだけで怒っている様子はない。
えーやだー可愛い―――てへってなに。私の義両親(予定)可愛いー。
…って、そうじゃなくて!
「あの、私は本当に気にしていませんから大丈夫です。ご丁寧にありがとうございます」
そう言ってにっこりと笑うと。
目の前の二人がぶわっと泣き出した。えええええええ!!!???な、なんなの!?
「れ、レイモンド坊ちゃんにこんないい人が現れるなんて…あたしゃ嬉しくて嬉しくて!!!坊ちゃんをよろしくお願いします!!!」
「あのレイモンド坊ちゃんが結婚だなんて…俺も嬉しくて…昔から人一倍我慢強くて人のことばっかり考える坊ちゃんが選んだ相手なら間違いないに決まってます!!!ほんと!坊ちゃんをよろしくお願いします!!!!」
「ちょ!!カーサ!ペドロ!サラ様の前で坊ちゃんはやめろ!」
レイが慌てている。ふふふ。本当にこの人は皆から愛されているのね。よろしくお願いされたのだもの。きちんと答えなくては。
「私の方こそ、こんな素敵な殿方からお心をいただいて、いまだに多幸感から夢の中にいるのではないかと思うことがあります。全身全霊をもって一生レイモンド様に変わらぬ愛情を注ぐとお二人の前に誓います。…右も左もわからぬ若輩者ですが、仲良くしていただけると嬉しいです」
そう言って、ふわりと笑う。
…。
……。
ん?なにこの二回目の沈黙の流れ。
「…っちょっっっと前言撤回だわあたしゃ。…坊ちゃんには勿体ないんじゃないのかいこのお嬢さんは」
「奇遇だねカーサばあさん。俺も全く同じこと思ったよいま…」
「ばあさん言うな」
「カーサ!?ペドロ!?ちょっと寝返るの早くないか!?」
レイの慌てた声に、部屋にいた全員が大爆笑した。




