142.贈り物
週末更新できなくてすみませんでした~
いつも読んでくださりありがとうございます!
レイから『仕事帰りに少し寄ります』と昼間に書状が届き、『それなら夕飯を共にしましょう』と返事を返して。
書状通りレイは仕事帰りにヘンリクセン家に来て夕食を一緒に摂ってくれて。今サロンで皆でティータイム中。ティータイムと言っても男性陣はお酒だけどね。お母さまと私はきちんとお紅茶。
今日はマリアとエルグラントは新居を探しに行ってる。帰りが遅くなるのでどこかに宿を取りますって言ってきた。
わかってたけど、ものすごく寂しい。マリアが遠くに行っちゃうみたいで。
ま、それはおいおい考えるとして。今は目の前のレイ。アースの謝罪から全然会えてなかったからとてもとても久しぶりで。一週間とちょっとくらい。
私の部屋からレイが馬に乗って到着するのを見つけたとき、思わず走り出したくなるのを必死で堪えるのが大変だった。
「まぁ、じゃあとうとう一ヶ月後に公表が決まったのね?」
「はい」
レイから人払いをお願いされた時点で大体なんの話か分かったけれど、予想通りだった。王弟復活の公表日の報告だった。
「ふふ、レイモンド様緊張してらっしゃる?」
お母さまの問いかけにレイが頬をぽりぽりと掻きながら照れ笑いする。
「恥ずかしながら、少し。それでも、今は期待感の方が大きいです」
「そりゃー、王弟となれば堂々とサラと結婚できるもんな」
「ああ、幸せで堪らない」
「少しくらい照れろよ?!」
お兄さまのちょっと意地悪なイヤミも正攻法のレイには届かない。私は笑ってしまう。
「そうかぁ。一ヶ月後か…生活がガラッと変わるね」
お父さまの言葉にレイが神妙に頷く。
「…そうですね。仕事以外では常に護衛がつきます。住居はそのまま交渉団の宿舎にいたいんですけど、警備の面で考えても…無理でしょうね。王宮住みになると思います。…ヘンリクセン家にこうやってくるときも常に護衛がつきます。俺は基本お忍びという感じでお邪魔したいと思いますが、…ご迷惑をお掛けするかもしれません」
「いいよいいよ大丈夫。お忍びでサラと逢引きだなんて若いっていいなぁ。ドキドキするね」
「逢引き…ってお父さま」
苦笑してしまう。普通のお父さまって皆が皆こんなかんじなのかしら?
「それでですね、これはサラ様にはまだお伺いを立ててはいないんですが、一ヶ月後の発表まではわりかし自由にできるので…五回ほど御令嬢をデートにお誘いしてもよろしいでしょうか?そして、一日だけ遠出を許していただけないでしょうか?どちらもマリア殿に同行してもらい、護衛にエルグラントさんが付いてくれるようにお願いしてあります。少し帰りは遅くなりますが、日を跨ぐことはありませんし、日が暮れてから二人きりになることなど絶対にしないと誓います」
「真面目だなぁレイは。いいよいいよ。ん?遠出ってもしかして」
お父さまが何を言いたいのか分かったようにレイが頷く。
「はい、もうエドワード義兄さんから書状は行っているので知ってはいますが、俺の口から直接父と母のところに王族復帰する報告と…サラ様を紹介したいなって」
「ん?レイ…ちょっと待ってあなたのお父さまとお母さまって…」
私は慌ててしまう。だってそれはつまり!
「ぜ、前女王陛下と、前王婿殿下ってことよね?!」
「大丈夫ですよ。なんだかのんびりした人たちだからサラ様のことも気に入りますよ」
「のんびりとされていることと私を気に入ってくださること全然別問題じゃない!?」
「そうです?」
だめだわこのド天然。
私はお母さまを見て言う。
「どうしましょうお母様。私ご挨拶に行けるようなドレス持っていないわ。夜会などで使う煌びやかなものしか持っていないもの。ご挨拶にふさわしい清楚なドレス、仕立ててもいいかしら」
私の言葉にお母さまがぱあああと顔を輝かせる。
「まぁ!まぁまぁサラ!もちろんよ!それならさっそく明日マダム・ラ・セーナを呼びましょう!愛しい私の娘!あぁ、嬉しいわ。あなた滅多におねだりしないから!!!」
お母さまのテンションがいきなり急上昇だ。
「ね、あなた。五着くらい仕立ててもいいかしら?」
「あぁ、好きなだけ仕立てるといい」
二人の言葉に私は慌ててしまう。
「お母さまもお父さまも!一着で充分です!ご存知でした?一般的な服は数着買っても三万ペルリでお釣りが出るんですのよ!…贅沢しすぎです!」
私の言葉にお母さまとお兄様は驚いた顔をしている。お父さまは一般向けの事業も展開しているからさほど驚いた顔はされていないけど。
「まぁ、それでもヘンリクセン家は公爵という立場ですからサラ様。しかもあなたは次期女王。当然といえば当然ですよ」
レイがふはっと笑ったあとに、私を宝物を見るみたいな目で見る。
「きちんとした服装も、自分の立場を明らかにするために必要な一つの道具です。…でも、それを贅沢だと言えるそんなあなたが好ましくて、愛おしいですよ俺は」
はい来たほら来たくると思った!!久しぶりなのに変わらないこの感じ!恥ずかしいけど!恥ずかしくてたまらないけど!ああぁもうギュってしたい…っ!
そんなこと思っていたらレイがふと尋ねてきた。
「そういえば、この前言ってたじゃないですか。卒業パーティーで着る予定だったドレスがあるって。俺と踊ろうって言ったやつです。あれ、よくよく考えたらもうサイズは合わないんじゃないんですか?」
レイの言葉に私は頷く。
「そうなのよ。この二年間で身長も伸びたし、体つきも変わってしまって。…帰ってきたら全てのドレスが合わなくなってたから、既製品のもので今はやり過ごしてる状態なのよ」
私の言葉にレイはふむ…と考え込む仕草を見せた、のちに、お母さまに向かって言った。
「サラ様のドレスの好みってマダム・ラ・セーナの系統なんですか?」
お母さまは目をぱちぱちさせたのちに頷いた。
「ええ、サラは大体マダム・ラ・セーナのところのドレスが好きね。あとはマダム・フルール・ルナとか…」
「なるほど、そっち系統か…」
ふむ、とレイが考え込む。ん?ん?ど、どういうこと?そっち系統って?
私の訝しげな視線に気付いたレイが微笑んだ。やだ何このイケメン。そのイケメンはそのままお母さまに向き直って笑顔でとんでもないことを言い出した。
「もし良ければ、サラ様に数着贈らせてもらえませんか?こんなの似合うだろうなぁって今すごく色々思い浮かんじゃって。…うちの父と母のところに行くときのドレスはお二人に任せます。普段着としてのドレスとか、パーティー用のドレスとか少し贈ってもいいですか?」
「れれれれれレイ?!何を言ってるの?大丈夫よ!私別に今不足はしていないわ?!」
「違うんです。これ、俺の単なる我儘なんです。…多少違うかもしれないけれど、十六歳までのサラ様のドレスって基本的にアースが関わってますよね?アースと出かけるためとか、アースと踊るためとか。…なんかやだなぁって。全部俺に関わってるものに塗り替えたいなぁって」
レイの言葉にそこにいた全員がポカンとなる。
と、次の瞬間ぼんっという音が聞こえたと思ったら私が真っ赤になってしまった。私かい!いや爆発するわよこんなの無理!
っていうか!もう!本当この人何なの本当に何なの!!!どうしてそう言うことを一ミリも照れずに言うの!?もう!しかも家族の前で。
「あっはっは!レイは本当面白いなぁ!最高だよ」
お父さまがお腹を抱えて笑い転げているし。
「レイは独占欲が強いんだな…」
ほら!お兄さまはまだポカンとしてるし!
「あらあらあらあらまぁまぁ!ねえ、レイモンド様はドレスにお詳しいの?」
おしゃれ大好きなお母さまの目がきらり、と光る。違うと思う。今拾うとこはそこじゃないと思う!
「詳しいですね。義兄さんが興味が全くなかったので。姉君のドレス選びの見立てに付き合わされているうちに詳しくなりました。多少は目が肥えていると思います」
「まぁまぁ!おしゃれで有名だったシャロン女王陛下の御見立を!?レイモンド様!ちょっと後でサラのドレスの打合せしませんこと!?」
「いいですね、喜んで」
私ばっかり取り残されて話が進んでいくーう。
そんな私の思考回路を読み取ったかのようにレイが尋ねてきた。
「サラ様、いいですか?俺からドレスを贈らせていただいても」
満面の笑みで、イケメンオーラ全開で、心から幸せそうな顔を向けてきて。
断る選択肢なんかあるわけないじゃない。
…それに、ちょっと嬉しいし。




