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137.お久しぶりです、アース様

 王宮、謁見の間。


 両側には(まつりごと)に関与するこの国の高位貴族の重鎮がずらりと並んでいる。


 そして、正面にはこの国の最高権力者、エドワード国王陛下。その隣には…


「久しいな、サラ」

「お久しゅうございます。アース第一王子殿下」

「顔を上げよ。楽にしてくれ」


 彼の言葉に私はゆっくりと顔を上げた。決して怯んでいるなどと思われないように、強い意志を持って目の前の元婚約者に視線を合わせる。

 周りの貴族たちから、ほう、というため息が漏れてるんだけど何その反応。


「レイモンド団長、エルグラント殿、サラの侍女殿、どうかあなたたちも顔を上げて楽にしてくれ」

 アースの言葉に平伏していた後ろの三人も顔を上げた。


 エドワード国王陛下が貴族たちに向かって声を上げる。びり、と空気が変わる。

「此度は我が息子アースの公式謝罪の場にわざわざ参じてくれたこと、心より感謝する。そなたたちは証人として、どうか清聴していてくれ」

 陛下の言葉に貴族たちが恭しく礼をする。

 私はアースの顔を見る。懐かしい。国外追放を言い渡されたときよりももっと男性らしい顔つきになっている。ベアトリスちゃんとはうまくいっているのかしら。そうだといいけど。


「さあ、アースよ」

 エドワード陛下の促しでアースが重々しく口を開いた。


「此度は、私の不用意な言葉で貴殿を傷つけてしまったこと。確たる証拠もないのに罪人扱いをし、一方的に婚約破棄をして貴殿を国外追放の身に追いやってしまったこと。…すべてが私の愚かさと浅はかさから出たものだ。貴殿に罪は何一つない。すべて私が悪かった。ここに私の全ての発言の撤回と、貴殿への心からの謝罪を表する。…本当に申し訳なかった」


 そういってアースが私に頭を下げる。当たり前だけど、貴族たちからもざわざわと動揺の声が聞こえる。当たり前よね。王族は謝罪などしない。頭を下げるという行為自体、時に国を動かすほどの行為だもの。

 心が伴っていても伴っていなくても、アースがこうやって誠実な言葉で謝罪をしたのであれば、また私も誠実に返さなければ。


「お顔を上げてください。アース第一王子殿下」

 私の言葉にアースがその顔を上げた。ひどく傷ついている顔。当たり前よね。こんなの彼にとっては屈辱以外のなんでもないもの。

「ご誠実な謝罪の言葉、しかと承りました。ですが…醜聞が出回ったのも事実で御座います。アース様だけが責められる立場ではございませんわ。私にも不足が御座いました。混乱を与えてしまったこと、私も心より謝罪申し上げます」

 そう言って私も頭を下げる。

 

 エドワード陛下が目を丸くしている。そう、ここで普通なら謝罪の言葉だけを受け取って終わりだ。でも、そうするとアースの立場はますます悪くなってしまうから。別に私そんなこと望んでないもの。私にもいくらか非があったということを明言しておくだけで、貴族たちからのアースの評判はだいぶ良いものに変わるでしょう。

「本当に…そなたという人は…」

 陛下がぽつりとつぶやいたのが聞こえ、私はにこりと笑って見せる。 


「あ…ああ」

 アースもまさか私からそんな言葉が来るとは思っていなかったのでしょう。びっくりしているわ。

 まぁ、今回の騒動の発端は私が自分で醜聞を広げたせいだから、あながち私の謝罪も的外れなものではないのだけど。


「…それでは、これにてこの場は解散とする。この場にいた者たちよ。証人として今日のことはしかと記憶に留めておくように。…下がるがよい」

 エドワード陛下の言葉で、重鎮たちが次々に退出していく。最後の一人が出て行くのを見届けてから、私たちも軽く陛下たちにお辞儀をして退出しようとした、その時だった。


「サラ!」 


 アースが私の名を大声で呼んだ。わ、なによびっくりした。

 何か焦燥を隠せない表情でアースが私のことを引き留めている。


「少し…話をできないか?」

「何のお話でしょう?」

 話すことなんて特にないんだけど…。

「ここではちょっと…二人きりで話ができないか?」

 ええええー、そんなの更に無理よ。っていうか嫌よ。と思ったけれど、目の前のアースの必死な言葉に私は心の中でため息を吐きながら言葉を返す。


「私はすでに心を渡し合った殿方がおりますので。いくら王子殿下と言えど、二人きりはご遠慮申し上げます。もしよろしければ私の後ろの者たちも同席させていただけるのであればお話し合いに応じさせていただきます」

「…そんな相手がいるのか…いや、私が言える義理ではないな。…わかった」

「アース、この場でそのまま会話を続けるがよい。私も同席しよう」

 エドワード陛下が言い、手を挙げる。途端に側近と護衛の人間がさっと退出していき、謁見の前には、陛下、アース、私、レイ、マリア、エルグラントの六人だけになった。


「お話とは」

 私の言葉にアースがう、と言葉に詰まる。まさか何にも考えずに呼び止めた…とか?

「…なんで言わなかったんだ?」

 あ、一応聞きたいことはあったみたいね。だけどなんで?なんでとは何?

「要領を得ませんわ。なんでとはなんのお話でしょう」

「…自分で自分の醜聞を広めていたとなんで私に言わなかった」

 ええええええええ????今更そんな話!?もういいじゃない、全部終わったじゃない…と言いたくなるのをぐっと堪えて、私は笑顔で返した。

「それをお聞きになったところでどうなさるおつもりだったのです?」

「どうする…つもりも…ないが…」


 がくり、と肩が落ちそうになる。駄目だわこりゃ。本当に頭の回転が遅い。


「ベアトリス嬢に夢中になって、別れたがっていたのはアース様の方でしょう?私は少しばかりそのお手伝いをさせていただいただけです」

「貴殿はいつもそうだ…」


 アースがぐっと拳を握りしめている。わずかだけど、背後で三人が警戒心をひゅっと高めたのが分かった。


「いつも!!!いつもいつも!!背後で画策し、先回りして私を馬鹿にして!!!わかっている!サラが私のプライドが傷つかないようにわざと能力を落として接していたことぐらいわかっている!!とっくに卒業できるほどの能力を持っているのに俺に合わせてわざと下げていたことも!だがな!それがどれだけ男のプライドを傷つけるかわかるか!!??どれだけ馬鹿にされた気持ちになるかわかるか!?慈悲深いだと!?ふざけるな!!!いつもいつもそうやって――――」

「それまでだ、アース」


 これ以上ないほどの威厳を含ませた声がアースの言葉を止めた。止めたのは陛下…ではなくて。


「レイ…」

 厳しい顔をして私をアースから守るようにして間に入ってきてくれたのは。



 ――――レイだった。


アースゥ…

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