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127.帰宅

「ああ…なんて懐かしいの」


 二年ぶりにヘンリクセン公爵邸の門が見えてきて私は思わず泣きそうになってしまう。

 美しく手入れされた庭も庭の中央に設置された噴水も何もかもが懐かしい。敷地内に入って少し馬車を走らせると本邸が見えてくる。


 そして、本邸の前には沢山の使用人がきちんと整列して待っていてくれた。それだけでも感激なのに。


「お父さま、お母さま、お兄さま…!!」

 使用人たちの前に立つ最愛の家族の姿が見えて、私はもう堪えられなかった。感極まる。まだ早いのに。まだ家族のところに着いていないのに。その姿を目が捉えた途端涙が溢れて溢れて仕方ない。


 二年前は家族と離れた寂しさで大泣きして。

 そして今日は家族の元に帰ってきた嬉しさで泣いている。

 嬉し泣きだもの。幸せな涙だわ。


 隣に座るマリアがハンカチを差し出して背中を摩ってくれる。レイが泣きじゃくる私の肩を、エルグラントが頭を優しく撫でてくれる。もう、本当に皆優しいんだから。余計泣いちゃう。


 やがて、馬車が皆の前に到着した時、私はもう我慢ができなかった。御者が開けてくれる前に、中から扉を開けて、家族の元に駆け出した。


「お父さま!お母さま!お兄さま!」

「「「サラ!!!!」」」


 私は三人の元に飛び込んだ。お父さまがしっかりと私を抱き止めてくれる。温かくて優しくて大好きな大好きなお父さま。

 お母さまが泣く声が耳のすぐ横で聞こえる。ほんわかしていつでも優しく、マイペースだけどおおらかなお母さま。

「お帰り、お帰り、サラ」 

 お兄さまの震える声が反対側の耳から聞こえる。真面目で、私のことが大好きで優しい優しいお兄さま。


「ただいま…戻りまし、た…っ!!!」

「「「お帰り」」」


 三人の温かい声が私を迎えてくれる。どれくらいそうして皆と抱き合って泣いていたかはわからないけれど、やっと顔を上げられたときは化粧も剥げて、涙と鼻水で私の顔はぐしゃぐしゃだった。

 でも全然気にならなかった。だって。

 私以外の三人の顔も同じようにぐしゃぐしゃだったんだもの。

 お互いにぐしゃぐしゃな顔を見せて笑い合う。ああ、なんて幸福なのでしょう。



 ーーーー本当に帰ってきたんだわ。


 私は改めてもう一度家族に向かって笑っていう。

「…ただいま」


 三人が満面の笑みで返してくれた。


「…おかえり」



ーーーーーーー


「というわけで、この度こちらのエルグラント・ホーネットと婚姻の約束を取り交わしましたので、旦那様、奥様、ロベルト様にご報告申し上げます」

「おめでとうマリア!!!!エルグラント前団長!」

「おめでとう、良かったわねぇ。念願叶ったのね」

「これは交渉団にとってはこれ以上ないほどの朗報になるな、マリア、エルグラント殿」

 お父さま、お母さま、お兄さまが順番にマリアとエルグラントに向かって祝福の言葉を述べる。



 夕食まで時間があるので、私たちはサロンに腰を落ち着けてティータイムを楽しむことになった。

 マリアがお茶の準備の為に即座に動こうとするのをお父さまが止めて、「まずはマリアの報告を聞かせてくれないか?ほら、座って座って」と無理矢理マリアとエルグラントも座らせたのだ。

 マリアは本来使用人の立場だからかなり恐縮していたけれど、お父さまの押し切りに負けちゃった。ふふ、当たり前よ。私の旅に二年も付いてきてくれた功労者だもの。丁重に扱わなければ。

 


「…で、だ。サラ」


 急にロベルトお兄さまが私の方に話しかけるけれど、声音がとても低いわ。ん?どうしたのかしら?


「おおおおおおおおお前のししししししし紹介…っ!!!!!」

「ど?!どうしたのお兄さま!?」

 カタカタカタカタとその口がからくり人形のように震えている。だ、大丈夫?!


「落ち着きなさいロベルト」

 お父さまが苦笑している。

「もう聞いちゃって大丈夫なの?お夕食の後にしないとロベルト、ご飯が喉を通らないんじゃない?」

 お母さまがのんびりとお兄さまに問いかけるけど、お兄さまは眼鏡を押さえてふー、っと息を吐いて何かを落ち着かせていらっしゃる。


「すまない。取り乱して…その、サラお前の…しょ、しょう、しょしょしょしょしょしょ…ッッッ!!!!!!」

「お、お兄さま?!だ、誰か?気付け薬を…っ!」

「だ!大丈夫だサラ!!」


 ふーふーふーっ、とお兄さまが呼吸を整えている。

「ほ、本当にどうなさったの…?」



「ロベルト、サラが紹介したい人が誰だか気になって気になって仕方がないんだよ」

「父上!!!!!」

 サラリといい笑顔でお父さまが言っちゃってお兄さまが慌てているけれど、なんだ、そんなことね?

「ああ、それなら」


 私が続く言葉を言う前に、隣で今まで押し黙っていたレイがすくっと立ち上がって、目の前の三人にガバリと腰を折り頭を下げた。

「レ、レイ?」


「王国交渉団団長レイモンド・デイヴィスがここにご挨拶申し上げます。御息女、サラ・ヘンリクセン令嬢と婚姻を前提としての交際を公爵閣下、並びに奥様、ロベルト様にお認めいただきたく、ここに馳せ参じた次第でございます!!!」


「やっぱりレイモンド団長だったかーー!」

 お父さまが笑って言い、

「嬉しいわぁ。こんなイケメンの義息ができるなんて」

 お母さまがのんびりと言いながら笑ってくれる。


「ほらね、言った通りでしょ?」

 あまりにも歓迎の姿勢に、逆にレイがキョトンとしてしまっているのに笑ってしまう。

「あ…いえ、あの…やはり婚姻というのは家同士の繋がりなので…こういう挨拶自体かなり珍しいことなので…流石に戸惑われるのではと思っていたのですが…」

「アース王子とのことでサラは散々な思いしたからねぇ。次は家のことなんか関係なく自分の好きな人と添い遂げてほしいと思ってたんだよ。認めるも何も、サラが選んだならそれだけで私たちは君を認めているよ」


「そ…う、ですか…心から、感謝いたします」

 レイがホッとした表情を見せる。馬車の中からガチガチに固まっていたものね。いつもの優しい表情が戻ってきて良かった。



 …と思ったら。




「…私は認めると言った覚えはありませんよ?レイモンド団長」



 地を這うような、低い低い声が聞こえて私は思わず声の主を見る。レイもひゅっと息を呑んでそっちの方向を見た。



「…うちの可愛い可愛い妹をどうたぶらかしたのか、くわ〜〜〜〜しく聞かせてもらえるでしょうか…?」


 顔の半分くらいに暗い暗い影を落としたお兄さまがそこには、いた。

ロベルト兄ちゃん…!!!

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