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123.久しぶり

 結婚。…今更だけど、私プロポーズはされてないんだけど。どんなふうにしてくれるのかしら。楽しみにしておきましょう。

 

「…お前と、サラが…結婚?ちょっと待ってくれ。なぜそういう話になっているんだ?」

 陛下が驚愕の表情を見せている。無理もないわ。唐突すぎるものレイってば。私は代わりに説明する。

「私が次期女王となるためには王族との婚姻。つまりカール王子かヘイリー王子との婚姻が必要ですよね?」

「あ…ああ、そうだ」

「次期女王となることを決意した時に、自分の気持ちに気付いたんです。私はレイのことが好きだって。…伝えて終わりにしようと思ったんです。そうしたらレイも同じ心を返してくれて」

「…王族との婚姻が必須条件であるなら、俺だってその条件には適っていますよね」

 レイが畳みかける。

 有無を言わせない迫力を陛下に向けているのにちょっとハラハラしちゃうけど。

「カールとヘイリーもいい子です。でも、どんなにいい子でもサラ様は渡したくない。俺も彼女を愛しています。以上のことを踏まえたうえで、陛下のご意向をお聞かせ願えますか」


 それは敬意を示してることになるの…?かしら。若干押し切ろうとしている空気も否めないんだけど。ちょっと笑いそうになってしまう。


「…その前にお前の義兄として問いたい。レイ、いいのか?」

 陛下の返しに、レイが頷く。どういうことかしら。

 私の不思議そうな表情に気付いたのだろう。レイが補足してくれる。

「…政治的な問題で五歳から存在を秘匿され続けて、そしてまた政治的なことで王族として復帰するんです。…義兄さんは優しいから。責任感じてくれてるんですよ。でも、義兄さん」

 レイの雰囲気が変わる。

「今回の王族復帰に関しては、政治的なことよりも、俺自身がサラ様と共に生きたいと強く願ったんだ。だから自分で考えてそう望んだ。義兄さんが責任を感じる必要はないよ」

 陛下が小さく息を呑んだのが分かった。

 ややあって、陛下の纏う空気が本当に本当に優しいものになっていく。


「…レイ、可愛い私の義弟よ。そしてサラ、私の愛しい義娘よ。私が心から愛する二人が人生を共に歩むという。これほどの幸福があるだろうか」


 そうして、息を大きく吸い込まれた。凛、とした声が部屋中に響く。


「ブリタニカ国王の名に於いて、このうら若き二人のこれからの道に大きな祝福と幸があらんことを願う。…二人の婚姻は国中が歓喜するものとなるだろう」


 私はレイと目を合わせる。レイもまた嬉しそうに目を輝かせながら頷いてくれた。国王が認めてくれたのだもの!嬉しくないはずがないわ。

「正式な場をまた設け、その時にも私がきちんと宣言しよう」

 感謝いたします、というと陛下もまた頷いてくれた。


 

 ―――そして、最後の一人。

 陛下の視線が未だずっと頭を垂れていたマリアに向けられる。

「…本当は、シャロンと言っていたんだ。サラの婚姻相手にはレイが一番ふさわしいだろうと」

 シャロン、という名が出た途端、マリアの肩がピクリと動いた。


「…シャロンはお前のことも必死になって探していたんだぞ。マリア…顔を上げてくれ」

 

 マリアがゆっくりと顔を上げる。その目が優しい光を灯して陛下に向けられていた。

「ご無沙汰しております。エドワード国王陛下」

「やめてくれ。今は誰もいない。…いつも通りに」

「…久しぶりね、エドワード」

「ああ、久しぶりだ。マリア。変わらないな」

「エドワードは少し老けたわ」

「最愛の伴侶を亡くしたんだ。そりゃ老け込むさ」

「再婚は考えなかったの?」

「シャロンから絶対にするなと言われた」

「ぶっ!」

 マリアが噴出した。陛下と対等に話せる女性なんてこの国に一人だけじゃないかしら。…ほんと、うちの侍女計り知れない…。


「まさかサラの侍女をしていたとはな…一体どういう経緯で」

「ヘンリクセン公爵に拾われたのよ。あ、ヘンリクセン家を咎めるのはなしよ」

「わかっているさ。お前が元気でいてくれたことが嬉しい。…シャロンも死ぬ前に一目会いたいと言っていたんだ」


 陛下の言葉にマリアの表情に陰りが差した。

「ごめんね、エドワード。…私の変な意地でいろんなものを狂わせてしまったの」

「過ぎたことだ。今が幸せならそれでいい。エルグラント元団長と結婚だって?シャロンに報告することが山盛りあるな、今日は」

 陛下が嬉しそうに笑う。マリアもまた嬉しそうに笑っている。


「さて、もう少し話をしていたいが、私も一応国王なもんでな。仕事が山積みだ。…名残惜しいが今日のところはここでいったん解散としよう。後日ゆっくりとまた話そう。…ともかく、良く帰ってきてくれた、サラ。皆も」

 陛下の言葉に私も皆のところまで戻り、陛下に向かってレイをする。


「もうよいぞ!」

 陛下が扉の向こうに待機しているであろう側近と護衛に向かって声を投げる。扉が開いて一同が敬意を表したのちにそれぞれの持ち場へと戻った。


「…追って連絡する。サラ、一度アースからの謝罪の場も設けようと思うが、構わないか?」

「陛下の御心のままに」

 レイも同席してもいいかは、連絡が来たときに聞いてみよう。今は人目があるものね。


「一同の帰還を心より歓迎する。今日はゆるりと休まれよ。…それでは退出を」

「失礼いたします」


 陛下から退出の許可をもらい、私たちは謁見の間を後にした。扉を閉めた途端、エルグラントが伸びをするもんだから笑ってしまう。

「んあーーー疲れた。くそ疲れた」

「聞こえるわよエルグラント、さすがにそれは不敬だわ」

「国王にタメ口のほうが十分不敬だろ。シャロン前陛下と仲良かったのは知っていたが、エドワード陛下ともあれだけ気安く接してるとは知らなかった」

「シャロンとお忍びで抜け出して談話室で話してたらちょくちょくエドワードも顔を出すことが多かったのよ。内緒話だからでてけってシャロンによく言われていたけど」

「ほんと、初代団長量り知れねーな」

 エルグラントがくっくっくと笑う。私もそれには激しく同意よ。


「さて、と。これからどうするんだ?」

「サラ様、ヘンリクセン家に行く前に少し時間貰ってもいいですか?」

 レイが私に言う。

「勿論よ。どこか行きたいところがあるの?」

 私の言葉にレイがいたずらっ子のような表情を見せた。

「…交渉団に皆で顔出しませんか?俺、マリア殿のこと皆に自慢したいです」

「おお!いいなソレ。ついでに婚約も伝えておくか」

「ちょっと私見せ物じゃないんだけど」

 マリアが呆れたような顔をしている。

「…だめ、ですかね?」

 レイがちょっとしょぼんとしている。なんなのこの可愛い生き物は。

「儀礼を端折ってくれるように指示を出してくれるんならいいわよ。隊長格全員にされたら面倒くさくてたまらないから」

「お前ほんとあれ嫌いだな」

 エルグラントが言い、マリアがげんなりした顔で頷くのを見て私は笑ってしまう。


「なら決まりね!行きましょう。…あ、私はどういう(てい)でいけばいいのかしら?」

「普通に俺が護衛していたヘンリクセン公爵令嬢で大丈夫です。団員は知っていますので。…恋仲っていうのは、まだ内緒でいいですか」

「わかったわ」


 交渉団。女王教育の一環で資料としての施設の見取り図や編成図を見たことはあったけれど、実際に行くのは初めてだわ。とてもわくわくしちゃう。

 

 それに、と私は隣を歩くレイをちら、と見る。

 お仕事モードのレイ、とっても見てみたかったんだもの!楽しみ!

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