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122.ただいま!!

 約二年ぶり。


 遂に、私たち一行はブリタニカに帰還した。馬車に揺られながら王都に入ると、私は思わず声をあげてしまう。


「懐かしいわ!!!二年ぶりのブリタニカ!」

 いざ到着するとやっぱり嬉しさとか懐かしさとか色々なものが込み上げる。

「二年であまり街並みって変わらないものね」

 マリアとレイが同意してくれる。エルグラントはシオンに乗っている。


「あ、王宮が見えてきましたよ」

 レイの言葉に、馬車の窓からずっと先を見ると、ブリタニカ国王族が住まう王宮が遠くに見えたところだった。


 二週間ほど前に国境を越えて、ブリタニカに入ってすぐに入国管理局へと行き、帰還を伝えたところまた仰々しい扱いを受けた。もうこの流れお腹いっぱいなんだけどね。

 私たちが近日中に帰還することが事前に伝えられていたらしく、そのまま直接王宮へ向かうようにとの陛下からの指示を伝えられた。同時に早馬も出されたから、数日前には王宮へ連絡が行っているはずだ。

 もちろんヘンリクセン家にも!


「早くお父さまたちに会いたいわ」

 国王陛下への謁見が終われば公爵邸へとすぐに帰れるはずだ。それを想像するだけでワクワクしてしまう。


「…あ、の。サラ様。その件なのですが」

 レイが若干言いにくそうに声を掛けてきた。

「どうしたの?」

「その、ご家族との対面の際に俺を恋人として紹介したいということでしたが…久々にお会いになるのだし、俺の紹介はない方がいいのではないかと思うのですが…」

「だってもうすでに葉書に書いたもの。お父さまはほんわかとしているけれどものすごく聡い方だわ。相手があなたということも気付いているだろうし、それにこの二年間護衛として傍にいてくれたのだし、連れて行かない方が不自然よ」

「そんなものでしょうか…」

「なぁに?なにか不安でもあるの?心配しなくてもあなたならヘンリクセン家は大歓迎だと思うけど…」

「そうではなく、公爵様たちも久々の再会を喜びたいのではないかと。最愛の娘の恋人がいきなり現れてしまったらその再会に水を差してしまうのではないのかなぁ、と」

「お父さまたちはむしろ私に相手ができたことを喜ぶと思うわ。ねえ、マリア」


 私の問いかけにマリアが頷いてくれる。

「あのア…ース様との婚約が破棄されたのちに、公爵様はお嬢様自身が愛する人を見つけるようにと言っていたのよ。そのお嬢様が選んだ相手なのだから、きっと大歓迎だわ」

 絶対アホって言いかけたでしょ、マリア。

「ま、そんなわけだからあまり気にせず一緒に来て欲しいわ、レイ」

 私の言葉に、レイはまだ納得がいっていない様子だったけれど、わかりました、と頷いてくれた。



「おーい、到着するぞ。王宮だ」


 エルグラントがシオンに乗りながら馬車の中に向かって言ってくれて、私はええ、と頷く。

「マリアもいいの?また公の場に出ることになるけれど。陛下の前に馳せ参じるのも久々なのでしょう?」

 私の問いにマリアは鷹揚に頷いてくれた。

「マシューを通して私がお嬢様の侍女だということも知っているそうですし、エルグラントと結婚するということもエドワードの耳には入っているそうです。もういいです。隠れる必要は何一つありませんから」

 そうなのね、と言って私は近づいてきた王宮を見る。


 二年前、アースに断罪された場所。婚約破棄され、国外追放を言い渡された場所。

 まるで遠い昔のことのように感じる。だってこの二年間でいろいろなことがあったのだもの。


 アース。もうニ十歳になっているはずだけどベアトリスちゃんと婚姻したという話が流れてこないということはうまくいっていないのかしら。それとも陛下が留めているのかしら。

 おそらく陛下は私とアースを会わせるでしょう。律儀な方だもの。アースに謝罪させる場を設けるはずだわ。

 …アースは私を見てどうするのかしら。謝罪の言葉を投げかけるのかしら。それとも盛大にアホな言葉で誤魔化すのかしら。


「後者の線が濃厚ね」

 くすりと笑った私にレイとマリアが首を傾げているのをなんでもないわ、とやり過ごす。


――――――


「ご無沙汰しておりました。エドワード国王陛下」


 謁見の間。陛下の護衛や側近が並ぶ中で、私は膝を折り、エドワード国王陛下に向かって挨拶の言葉を投げかけた。許可がない限り顔を上げることは出来ないけれど、謁見の間に入ってすぐに泣きそうな陛下の顔を見た時に抱きつきたくて仕方がなかった。

 

 大好きな大好きな私の第二のおとうさま。


「顔を上げなさい。サラ・ヘンリクセン公爵令嬢」

 許可が出て、私は顔をゆっくりと上げる。変わらない、優しい顔をした陛下がそこにはいた。

 陛下はそのまますっと手を挙げる。その合図で側近や護衛がさっと退出していき、謁見の間には陛下と私たち四人だけが残された。



「…サラ!!!」

 皆が退場した途端、陛下が声をあげて両手を広げてくれた。私はたちまち嬉しくなり、その胸に向かって駆け出していく。

「陛下っ!!!」

 

 ぎゅうっと私はしがみつくように陛下に抱きついた。

「サラ、愛しい我が義娘よ…!また一段と美しくなって帰ってきたな。…会いたかった、本当に会いたかった」

「私もです陛下!私の大好きな大好きなおとうさま!!」

 ぎゅうっと二年ぶりの抱擁に身を委ねる。ああ、変わらない温かさ。大好き。

「すまなかった。この二年、本当に長いこと待たせてしまった」

「とんでもありませんわ、陛下。私とっても楽しい日々を過ごすことができたんですの」

「本当か?パッショニアでは大変だったな。すまない、私がもっと外交で目を配っていれば」

「陛下の責任ではありませんわ。お気になさらないで。むしろ陛下のおかげで解決できたんですもの。私なんかのために奔走してくださり、感謝しています」

「そなたの為なら使えるものは何だって使うさ」

「…感謝いたします。それに、陛下。大変なことなんてほんの少しだけでした。私の旅はとても幸福に満ちていて彩りあるものだったんです…三人のおかげで」


 そう言って私はそっと陛下から離れ、後ろを振り返った。陛下の視線も私の視線に誘導されるように三人を目に捉える。三人は未だきちんと膝を折り、頭を上げぬまま陛下に頭を垂れていた。

 

 陛下が声を掛ける。

「…エルグラント。大儀だったな」

 陛下が最初にエルグラントに向かって声を掛ける。パッショニアとの間で伝令係としてほぼ不眠不休で走ってくれた最大の功労者。

「もったいないお言葉、恐悦至極にございます。少しでも陛下と次期女王であるサラ様のお役に立てたのでしたらこれに勝る幸福は御座いません」


 私は噴出しそうになる。いつもだったら、「いいいい礼なんか!構わねえよ!嬢がよければそれでいいんだから!」くらいの感じよね。


 そして次に。


「レイモンド団長。長旅ご苦労だった。次期女王の護衛としての任務。見事勤めあげてくれたこと、感謝と同時にその功労を称えよう」

「…ありがたきお言葉、身に余る光栄で御座います」


「…レイ、あのことも陛下に伝えて?」

 ふふ、とっても畏まるレイ。なんだか新鮮。


 私の言葉にレイが顔を上げ、陛下に向かってくしゃりと笑う。


「…エドワード義兄さん」

「…!?」

 陛下が驚いているのを見てもう一回笑ってレイは言葉を続けた。


「俺、王族として生きるよ。存在を公表することに決めた」

「な…っ?!…ちょ、ちょっと待て…お前がシャロンの…」

「弟ってこと、最初からサラ様にはバレてたんだよ」


 レイが笑って言い、陛下が私にばっ!と振り返った。私は苦笑しながら頷く。


「一瞬だけ超極秘資料として王系図を見せられて。その時に覚えちゃってたので」

「…本当にごくごく一瞬だったろう!?」

 陛下が目を丸くするが、即座に諦めた顔になる。

「それだけでも覚えてしまうのか…私はサラの能力を未だきちんとは理解していないのだな…」


「それで、義兄さん。唐突なんだけど」

 レイが陛下に呼びかける。



「俺、サラ様と結婚したいと思っています」



 あ、陛下の目が開かれすぎて零れそう。



おかえり!

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