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98.ざまーみろ。

 私は朝から心を整える。マリとフローラが身支度をしてくれて、ピシッと背筋が伸びる。


 そう、今日いよいよエルグラントがここパッショニアにやってくる。

 この二週間でメリーが私にしたこと。毒入りのお茶や食べ物。国賓である私への不遜な扱い、部下を使っての嫌がらせ、細々と挙げたらキリがないほどの嫌がらせを散々行ってくれた。

 それだけではメリーを黙らせる直接の口実にはならない。でも、エルグラントが持ってくる書状の内容が私の望んだものだとしたら事態は逆転する。いや、エドワード陛下なら私の望んだ書状をくださるだろう。私は確信している。今日は勝ち試合だ。


 ―――気合が入る。


 タイミングのいいことに私は今日メリーからお茶会に誘われていた。

 もう毒や薬の類は慣れっこだ。メリーも私がうまく回避することに気付いているのか、まるで当たり前のように私が口にするものにそれらを入れて遊ぶようになってきた。

 最初ハリスが無体を強いようとしたときに盛られたほどの強い薬は盛ってこない。

 薬を入れるとしても数時間しびれるものだったり、少し眠気を起こすだけのもので、致死に至るようなものは入れてこないあたりが、嬲っている感じがしてメリーの性格の悪さを表しているな。と思う。

 

 ま、一回も飲んだことはないけどね。そんな簡単なものにひっかかるわけないじゃない。


「本日はお茶会にお招きいただき、誠にありがとうございます」

 すでに庭でレイと向かい合いながら、側近二人を後ろにお茶を楽しんでいたメリーに声を掛ける。

 ふん、と彼女は返事も返さない。手に持っていた扇子で席に座るように促される。レイの隣だ。やったね。

「失礼いたします」

 マリが椅子を引いてくれて着席する。

「サラ、そろそろ二週間だけど、我が宮殿での暮らしはどうかしら?」

「とても快適に過ごしております」

「そう。ねえそこの。サラにあのお茶を」

 はい、とメリーの後ろに控えていたメイドが紅茶を私の前に三つ持ってきた。カップの柄が全く一緒のものが三つ。中に同じ量の紅茶が入っている。

「ちょっと遊びましょう?」

「ええ、喜んで」

 挑発的な視線をメリーが向けてくる。私も鷹揚に返す。

「この三つの紅茶のうち、一つだけにとってもおいしい()()()を入れてあげる。エリクソン」

「はい」

 エリクソンが懐から小さな袋を取り出し、真ん中のカップの紅茶にそれを入れた。

「サラ、目と鼻を覆ってもいいかしら?あなただいぶ鼻が利くようだから」

 隣でレイがはっと息を呑むのが分かった。

「構いませんわ」

 私の了承を聞いたエリクソンが背後に回り、ちょっと乱暴な手つきで私の目と鼻を布で塞いだ。後ろでぎゅうぎゅうと締めてくる。ちょっと痛いんだけど。

「今からエリクソンがこの三つのカップをシャッフルするわ。その後に目隠しだけは外してあげる。白砂糖が入ったカップを選んだらあなたの勝ち。それ以外を選んだらあなたの負けよ」

「サラ様が負けたら…どうされるおつもりですか?」

 レイの声が怒気を孕んでいる。が、メリーはふふん、と笑うだけだ。

「そうね。レイモンド様を護衛の任から外してもらおうかしら。そしてサラ、あなたは一人で退城なさい」

「そんなバカなことを…っ!護衛は我が国王エドワード陛下から直々に拝命を受けたものです。いくらあなたと言えど、それを勝手に覆すことは出来ない。そのくらいの知識はお持ちでしょう?!」

 

 レイさんレイさん、あなたしれっとおもっきしメリーを馬鹿にしてるわよ。心の中で私は笑ってしまう。 

「ええ、私はね。だから、サラが自分であなたを護衛から外すのよ」

「サラ様がそんなことするわけない」

 レイの確固とした言葉に胸がジンと熱くなる。

「これは女の賭けよ。殿方は口を出さないでくださる?サラ、あなたこれに乗る?乗らない?」

 うーん、賭けと言われてもなぁ。

「私が勝った場合はどうされるのです?」

「あなたが勝ったら?護衛もそのままで、このままここに滞在してもよろしくてよ。それからその希少な白砂糖が入った紅茶を飲む権利を差し上げてよ」


 なんじゃそりゃ!!!!私にいいこと一つもないんかい!!!

 思わず令嬢らしからぬ突っ込みが入る。

 まぁ…メリーが用意した『白砂糖』とやら。…だいたい察しがつくけれど。 

 いいのかしらね。…これ結構メリーにとっては大問題になるんじゃ…ま、知ったこっちゃないわ。


「どうするの?」

 メリーの問いかけに私は頷く。()()()()()()()()()()エルグラントが到着するまでの時間稼ぎとでも思っておきましょう。

「それじゃあ、エリクソン。シャッフルして頂戴」

 エリクソンがカップを動かす音が聞こえる。最初だけなんとなくどう動いているか分かったけれど、そのうち音だけじゃ識別できなくなってきた。

「目隠しを取っていいわよ。ハリス、取って頂戴」

 ハリスの手によって目隠しが外される。エリクソンと違ってとても丁寧に。ふふ、ありがとう。

 横にレイ、後ろにハリスと私の侍女たち、遠くにスティーブンの姿も見える。使用人、メイド。皆が真っ青な顔をしている。ああーごめんね、ほんとこの馬鹿王女がごめんね。大丈夫よ、そんな心配しないで。


「サラに何か合図を送らないように全員サラの背後に移動しなさい」

 メリーがそう命じて、皆が私の背後に回る。誰も目を合わせようとしない。


「さあ、選びなさいな」

「ないわ」


 私は即答する。見る見るうちにメリーの目が丸く開かれる。

「んなっ…!!なん、で」

 王女様がんなっ!とか言っちゃだめよ。

「間違っていないでしょう?白砂糖が入った紅茶はこの中にはありませんわ」

「あなた!!見ていたわね!」

「見られるわけがありませんわ。エリクソン様がガチガチに結んでくださいましたもの」

「じゃあなんでわかるのよ!」


 ええー言わなきゃならない?封じられたら困るから私の特技ここでバラしたくはないんだけど。

 そのとき、メリーの背後遠くのほうに伝令係が乗った馬がこちらに向かってくるのが見えて、私はにんまりと笑ってしまう。

 エルグラントが到着した知らせね。―――それならこの茶番もネタばらしで終わらせていいわ。


「カップの柄ですわ」

「柄?」

「ええ、白砂糖を入れたカップの柄が変わっておりました。元々のカップは背後に下げられたのでは?」

 にっこりとして言うと、メリーの顔がわなわなと怒りを孕む。エリクソンもその隣で信じられないものを見るような目で私を見ている。


 ――――ざまーみろ。

「どれを選んでも私の負けになるように画策なさるだなんて、パッショニアの王女ともあろうお方がそんな姑息な手を使うだなんて嘆かわしいことですわ」

「あなた!!!!誰に向かって口をきいてると思ってるの!?」

「馬鹿で愚鈍で自身の利益しか考えてない目の前のメリー・ダグラン・パッション王女にですけど?」

「…なっ!!!不敬よ!不敬罪で捕えてしまいなさい!」


 ばーか、もう遅いよーだ。私は心の中でベロを出す。

 メリーの背後に見えていた早馬に乗った伝令係が到着し、大声を出した。


「メリー王女と国賓のお二人に申し上げます!!客人が到着したと!急ぎ王宮に来るようにとの陛下よりの伝令です!」



 ――――待っていたわよ、エルグラント。

 さあ、反撃開始よ。

 

93話の内容変更しました。私の単純な計算ミスでした。サラとマリアが会ったのはサラが2.3歳のころでした。話の内容に大きな変更はありません。

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