第8話
市場調査を始めると、そこに売られている物の多くは食材が多く、鍛冶師は臨時の鍛冶場を作っておりそこで、武器の研ぎや打ち直しをやっている。皆精力的に動き回っており、これでは話を聞こうにも何か買わなければ話が出来ない状態になっており、ここでの出費を考えると後にしたほうがよさそうかもしれない。
そうして一人戸惑っていると一人の商人がこちらに近づいてくる。
「よう。あんたも同じように連れてこられた商人かい?」
「その通りですよ。他の人から話を聞きたかったのですが、これでは話を聞こうにも聞けません。」
「そうだろうな。実は俺も同じように話を聞きたかったんだけど、こうなったらしばらくの間は無理だろう。ところであんたも連れてこられた理由を知らないのか?」
「ええ、私は出店しか出してない弱小商人です。それが何故か一緒に来てくれと誘われて来ただけで、理由も何も知らないのですよ。」
「なら、俺も同じかな。どんな理由があるのか知らないが、軍部に紹介すると言われただけでついて来たんだよな。どんな稼ぎがあるかも知らないしな。」
「そうですね。今はおとなしくついていくしかないようです。」
「じゃあ、俺も自分の天幕に戻ることにするよ。」
話が終わると、相手の商人は自分の天幕があるであろう方へ消えていった。その場に残された自分もとりあえずは自分の天幕に踵を返すことにした。
先ほどの商人もそうだが、ここにいるほとんどの人は、何故同行を願われたのか知らないと考えたほうがよさそうだ。考えれば考えるほど混乱してくる。しかし、ここで考え込んでいてもしょうがないと思うことにした。理由は戦線に着けば判明するだろうと楽観的に考えることにした。
そうして考え事をしながら、自分を誘った旅団の宿泊地まで戻ってくると、そこにはいくつかの天幕がすでに完成していた。自分はどの天幕だろうかと、迷っているとミルコフが出てくるのが見えた。確認しようと近づくと、困った顔をしているのが見えた。
「ミルコフさん、私の天幕はどれになるのかな?」
「ヴァッフェさん。それが、団長から商人殿を自分の天幕に案内するように言われて、これから探しに行こうとしていたところなんですよ。」
「それは丁度よかった。先ほど市場から帰ってきたところで、自分の天幕がどれか迷っていたところなので。」
「それなら、まずは団長の天幕に案内するとしよう。その後にヴァッフェさんの天幕まで案内するよ。」
そう言われ、まずは団長殿のいる天幕へと案内される。そこには、荷馬車で一緒になった団員とは違って、歴戦の猛者と言えなくもない体格のいい団員がそろっており、中央には団長殿が床に座ってこちらを待っていた。案内されるまま団長の前に座ると、団長が他の団員を一瞥し全員天幕から出ていく。団長との一対一の対面となる。
「ここでの話はよそではしないでもらいたい。それはいいか?」
「分かりました。ここだけの話としましょう。」
「理解が早くて助かる。君についてきてもらったのは、今回の戦線で俺達の専属商人として武器を入手してほしいからだ。」
「私は、商会に属さない貧しい商人ですよ。この旅団の方が気に入る装備を入手できるかはわかりませよ?」
「確かにそう思っていた節もある。しかし、自分で独自の入手路を持っていると話したところから察するに、入手しようと思えば手に入れることもできるのだろう?」
「そこまで気づかれているなら、分かっていると思いますが、武器を入手するのは時間がかかりますよ?」
「それでも大丈夫だ。俺は自分の旅団が犠牲を最小にしたいと思っている。他の旅団も同様だ。だからこそお抱えの商人や鍛冶師を連れてきている。」
確かに、ほとんどの商人や鍛冶師は同じ服装をしている団員に対して商売をしていたような気がする。つまり、今回の戦線で戦果をあげるために最善を尽くすためのお抱え商人というわけか。
「しかし、代金の支払いは大丈夫なのですか?戦線が長引けば商人は離れていくと思いますが。」
「そこは、秘策がある。その秘策は話すことは出来ないが、支払いが滞ることは無いと断言できる。」
「分かりました。そこまで言われるのならついていきましょう。」
こうして、団長の説明を受けて、この旅団とともに戦場に向かうことを了承したのだった。しかし、後の憂いを考えなかったのかが悔やまれる。