第57話
団長への帰還報告は簡潔なもので、無事に帰ってきたことを話すだけで終わり、詳しいことを聞かれることもなく、淡々と終わった。
そして天幕を後にすると、そこでミルコフとも別れ、自分の天幕に戻ってくると、すぐに寝る準備をして寝ることにした。
翌日、目が覚めると、日は高く上っており、かなりの時間眠ってしまっていたようだ。
急いで起きる必要もなかったので、のんびりしながら昨日もらった報奨金の使い道のことを考えていると、天幕の外からミルコフが声をかけてきた。
「ヴァッフェ殿、そろそろ起きましたか?」
「ミルコフ殿、もう起きてますよ。」
「そろそろお昼になるから、外に出てきてもらえないか?」
「分かりました。すぐに仕度をするので、しばらく待っていてもらっても大丈夫でしょうか。」
「それなら外に席は用意できてるから、そこに来てくれればいいから、ゆっくりでも大丈夫ですよ。」
そう話してミルコフは天幕から離れていった。
仕方がないので、仕度をして食事をとりに外に出た。
場所はいつも通り、二軍の人達が集まる一角に用意されていた。
「今日は、一軍の人達はいないんですね。」
「ああ。一軍の連中は、団長と会議があるらしくて、そっちに掛かりっきりだから、天幕の中で昼食を食べている頃だと思うが、何か用事があったのか?」
「実は、昨日もらった報奨金の使って奴隷を購入しようと思っていまして、どこか紹介してもらえないかと話を聞こうと思っていたので。」
「それなら、軍部に直接話を聞くのもいいんじゃないか?軍部なら、ある程度知っているんじゃないか?」
なるほど、軍部に話を聞くか、それは盲点だった。
確かに、陣地を警備するうえで、誰がどんな商売をしているか認知しているだろうから、軍部で信頼できる奴隷商人を紹介してもらったほうが、確実かもしれない。
ミルコフからの提言はとても助かった。
それなら早めに行動するほうがいいだろうと思い、食事もそこそこに自分の天幕に戻って、昨日受け取った剣を持って、軍部に移動することにした。
軍部にたどり着くと、門番に剣を見せて、司令部に案内してもらうことにした。
司令部に到着すると、ちょうどエクセルキトゥスが武官達と会議をしている最中だったので、終わるまで待機することにした。
しばらく待っていると、すぐに会議は終了して、エクセルキトゥスが近づいてきた。
「ヴァッフェ殿、昨日の今日で、何の用事だ?新しい武器の紹介が待てなかったのか?」
「エクセルキトゥス様、今日は違う用事で参ったしだいです。」
「ほう。ならその用事とは何なのだ?」
「本日は、軍部に奴隷商人を紹介してもらいたくて、参上したしだいです。」
「なるほど。軍部なら、陣地に逗留している商人を把握していると考えて、紹介してもらいたいと思ってきたのか。確かに紹介できる信頼を置く奴隷商人は何人かいるが、そのためだけに来たのか?」
「その通りでございます。出来れば紹介していただくことは可能でしょうか?」
そう言うと、エクセルキトゥスは考えるそぶりもしないで、文官の一人を呼ぶと何かを耳打ちした。
すると、文官は棚から1つの羊皮紙を取り出すと、こちらに持ってきた。
「これが軍部で把握している奴隷商人の一覧だ。これを貸してやるから、後は自分で探すことだな。」
「ありがとうございます。それではお借りします。」
渡された羊皮紙を片手に持って、司令部を後にするのだった。