第43話
司令官は地図を眺めながら、到着した俺が席に座るのを確認すると、話はじめた。
「商人殿、突然の呼び出しに応じてくれて助かる。」
「いえ、何事かと思いましたが、なにやらただ事ではない様子だったので、急いで駆けつけました。」
「それでなんだが、先の戦闘で帝国が銃を持ち出した件は知っていると思うが、他の戦線でも銃の存在が確認された。」
「そうなのですね。しかし、私が呼ばれた理由が分かりません。」
そう、他の戦線でも銃の存在が確認できたところで、俺が呼ばれた理由が分からない。また疑いをかけられている、と言った話ならすでに拘束されていてもおかしくわない。なのに、拘束する様子も見受けられない現状、なんのために呼ばれたのか疑問に感じる。
「その理由なんだが、昨日我々に銃を卸した後に、他の戦線の司令官達にも銃の性能確認を別途披露した。そこで、他の司令官達も賞賛の声を上げた。」
「なるほど。つまりは銃を追加で販売してほしいと言うことですか?」
「それもある。だが、今回の規模は前回よりさらに大量となっている。」
「どれほどの量なのでしょうか。」
「銃だけで6000、銃弾は1丁の銃が100発撃てるように仕入れてほしい。」
これは、先の販売がかすんでしまうぐらいの大口の取引だ。しかし、それだけの銃と銃弾を用意するにはかなり広大な場所がないと、山積みの状態で出すはめになってしまう。
そこは司令官と話しを詰めるとして、問題はいつ何処で出すのかを決めないといけない。そうしないと、下手に帝国と近い場所で出すと、その情報が帝国に漏れる可能性もあるからだ。
「出来るだけ、協力はいたします。しかし、場所と日時を決めないことには、私からはどうすることも出来ません。」
「それなのだが、明日のうちにそれぞれの戦線の中間地点にある補給所に出向いてほしい。そこで、銃と銃弾を卸してもらいたい。」
「分かりました。しかし、私への報酬はどのようになるのでしょうか。」
「それは、不満が出ない金額をそれぞれの司令官と話をして決めるから、今しばらく待っていてほしい。」
確かに、今回の取引で俺が不満も持って、共和国から帝国に流出してしまったら、戦線の被害が拡大してしまう可能性もあるため慎重に協議したいのだろう。
それを理解した上で、ちょっとでも報酬を上乗せしてもらいたい、と考え司令官にある話をすることにした。
「司令官、以前話した敵に確実に被害を出すことの出来る武器を、今回の取引に追加することは出来ますでしょうか?」
「以前話を聞いた武器のことか?それだと、金額が上がりすぎてしまうから、紹介だけに留めてもらえないか?」
「それでは紹介するだけにして、実演はどうします?」
「確か、かなり大きな音がするという話だったな。それなら今回行く場所なら、他に人も近寄らないから、出来れば実演してもらいたいところではある。」
「分かりました。ではそのように準備は進めさせていただきます。」
「よろしく頼む。それと今回の話は君が所属している旅団の団長のみに話すこととする。」
「それは何故でしょう?」
「君も知っての通り、情報屋なるものがこの野営地にいると噂が出ている。その情報屋がもしかしたら、帝国の間者かもしれないと思ったので、他の司令官とも相談した上で、連れて行く兵士を厳選し、他に情報が漏れ出さないように行動する予定だ。」
「しかし、それをすると、ただの商人が付いていくのは、人の目を引きませんか?」
「それなんだが、今この瞬間から軍部の天幕で生活をしてもらう。もちろん所属している旅団には通達させてもらう。」
司令官の突拍子もない発言に目を白黒させていたが、他の衛兵が寝袋や毛布を準備し始めたあたりで、これは断わることも出来ないと悟り、促されるままここでの生活を余儀なくされた。