第13話
共和国に入国してからさほど時間もかからず、国境近くの街まで移動してきた。街の入街税は判子を貰った契約書を見せると、無償で入ることができた。
街に入るとまず滞在することを軍に報告するために、駐屯地へとやってきた。そこには、同じ目的のためやってきた商人たちで溢れかえっていた。列に並んでいるほかの商人に話を聞くと、滞在報告以外にも食料品の補給をするために並んでいるとの事だった。しかし、その補給の物資の枯渇が危ぶまれており、我先にと大量の補給をしているから時間がかかっているらしい。これでは、自分達の番になるころには、補給品はなくなっている可能性もある。そのことをミルコフ達に相談しようと列を離れる。
「ミルコフさん、食料品の補給は望みが薄いかもしれません。」
「だろうな。他の商人も同じ事を考えているみたいだし。これは先を急いだほうがいいかもしれない。」
「そうですね。ここ以外も同じかもしれませんが、今とどまっていても補給できるかも疑問ですしね。」
「なら、このまま先に向かうか。滞在報告はいいのか?」
「それは、経過報告だけして、先に進みましょう。」
「了解。なら、一緒に並んで報告だけ済ますか。」
こうして、行動方針は決まったので、ミルコフと一緒に列に並ぶ。しばらくミルコフと並んで今後の行動をどうするか相談しながら待っていると、ようやく自分達の番になった。
受付にいる兵士に滞在日数の確認をされて、すぐにこの街を出ることを告げると、以外にも特に理由を聞かれることも無く、食料品の補給は必要かどうかだけ確認をしてきた。ミルコフに確認すると、今のところ大丈夫との事だったので、不必要と話すと持っている身分書と契約書を確認するために提示して欲しいと言わた。言われた通り提示すると、新しい羊皮紙に経過内容を記載し、署名をするように言われた。記入をすると、それを次の街まで持っていくように指示された。ミルコフにどちらが保管するか確認すると、俺が持っていたほうが安心すると言われ、仕方が無く保管することにした。
こうしてこの街の駐屯地でやることは終わった。急いで荷馬車に戻ると、門まで引き返して次の街へと向かうことにした。
「ミルコフさん、次の街まではどのくらいかかるのですか?」
「急いで向かったところで、日没までには到底間に合わないから、今日はどこかで野宿するしかないな。」
「やはりそうなりますか。なら、どこで野宿しますか?」
「日没ギリギリまで走らせても、途中にある村に着けるかどうかだな。」
「となると、何もない場所で野宿ですか?」
「そうなるな。まあ、俺達は慣れているから、ヴァッフェさんには少し辛いかもしれないけどな。」
ミルコフにそう言われて、少し落胆したが、今更街に戻るのも時間の無駄になってしまう。ここは覚悟を決めて、ミルコフ達と一緒に野宿をする以外手が無い。ため息をついていると、ルドーズが声をかけてくる。
「ヴァッフェさん、落胆してるかもしれないが、野宿も案外楽しいぜ。」
「私は野宿をした経験がないので、そう楽観的にはなれないのですよ。」
「そうかもしれないが、街道沿いなら危険も少ない。安全は俺達が保障するから、気楽に構えときな。」
「そこまで言われるのなら、少しは気を緩めてもよさそうですね。」
ルドーズからの説明で、多少は気を緩めて荷馬車から外を眺めながら、今後の行動を考えてみた。
戦線に近づくにつれて食料品の補給は難しくなるだろう。なら、それぞれの街でできるだけ補給をしていかなければ、いずれ食料は底を突く。前線ではどのような扱いになるかも定かになっていない今、できるだけ食料や雑貨といった生活に必要な物資は残しておかないといけない。それ以外の物もあるに越したことはない。
そうやって今後の方針を考えていると、俺達と同じように街を出た商隊を目にすることになった。他の商隊もこの街で補給ができなかったのか、護衛をしている人達と一緒になって相談をしているのが見える。やはりどこの商隊も補給ができていないからなのか、護衛と一緒になって次の街を目指しているのだろう。この先の展望が見えない中、荷馬車にゆられながら、ゆっくりと外の景色を眺めるのだった。