第12話
翌朝、いつも通り起床すると自分の荷物をまとめて、天幕の片付けの準備をする。しばらく待っていると、ミルコフ達も起きてきた。軽く挨拶をして、片付けを手伝う。それが終わると荷馬車に乗り込み移動となる。
国境まで数日間は同じことの繰り返しだった。街に着くたび、偽名の身分書を作り、情報収集のために市場を見て回った。多少厄介ごとはおきたが、順調に国境付近の街まで来ることが出来た。
しかし、情報収集をしてみても、西の戦線の話は噂程度のことしか集まらなかった。情報統制を敷いたのか 、それ以上の情報がわからなかった。新しい情報がわからないまま、国境までついてしまった。
国境の門をくぐる前に旅団長から呼び出しがあった。
「旅団長殿、お呼びでしょうか。」
「ああ、来てくれたか商人殿。これから、門をくぐる前に必要な羊皮紙に署名をしてもらいたくて呼び出した。」
「それは、どのような内容になるのでしょうか。」
「内容は、国境を越えた際は、共和国軍傘下の商人として、戦争に協力するといった内容だ。」
「なるほど。これからは、軍の傘下として行動をしなければならないのですね。」
「そうなる。もし、これが嫌だった場合、別の入国審査があり、高い入国税を支払わなければならない。どちらかを選ばなければならないが、俺としては、この羊皮紙に署名をしてもらったほうが助かる。」
そこまで話をして目の前に羊皮紙を出される。その内容を読んでみると、そこには軍の傘下として行動することの同意と資金の融通が書かれていた。しかし、傘下に入ると常に軍に名前で行動報告をしなければならない。そうすると、今まで作ってきた偽名の身分書が使えなくなる。
今後の行動を憂慮していると、団長がもう一枚の羊皮紙を出してきた。出した羊皮紙を読むと、そこには共和国内に限り軍との専売契約により、通常の2倍の金額で取引をするという、魅惑の契約書だった。しかし、輸入金額を精確に記入しないといけないとなどの問題はあるが、それでも魅了されるほどこちらに有利な契約書だった。これだけこちらに有利ならほとんどの商人は記入するのだろうが、俺は何か裏があるのではないかと勘ぐってしまう。
「これだけ、優遇されると何かあるのではと勘ぐってしまいますね。」
「その疑問は正しいと思うが、今回の戦線は共和国にとっても重要な事だからこそ、商人や鍛冶師にこちらについてもらいたいのだ。」
「わかりました。そこまで言われるのなら、署名しましょう。」
「理解があって助かる。署名した羊皮紙は自分で保管してもらう。国境を越えるときに必要になるからな。」
「国境を越えると別行動になるのですか?」
「ああ、俺達一軍は最短で戦線に向かうため、今後軍とともに行動する。そちらは、迂回路で戦線近くの街まで来てもらうことになる。その間警護するのは二軍のやつらになる。」
「わかりました。今後の行動は軍に報告する以外に気をつけることは?」
「特に無いな。軍に報告を忘れると後から問題なるから、それだけ忘れないように。では、入国の手続きをしに行くか。」
今後の行動方針を話終わると、入国審査の列に並ぶことにした。列に並んでいるのは商人だけで、旅団と鍛冶師は別の列に並んでいた。
列が進み、自分の番になると、兵士から身分書と契約書の提示を求められ、団長に渡された契約書とヴァッフェの名前で書かれている身分書を提示した。そうすると、契約書と身分書の名前を交互に確認して、判子をそれぞれに押すと、それを返してきて門をくぐるように促された。
これで、無事に国境を越えることができたのだろう。抜けた先では、いくつかの荷馬車が待機しており、それぞれに護衛がついており、門をくぐってきた商人を待っていた。そこで、ミルコフ達がいないか周りを見渡していると、ミルコフがこちらに向かって歩いてきた。
「ヴァッフェさん、無事に門を通過することができたようだな。」
「ミルコフさん、おかげさまで無事に通過することができましたよ。他の皆様もお待たせしまったようですね。」
「気にするな。それより、今から移動を開始するか?」
「そうですね。できるだけ早くここから移動したほうがよさそうです。」
「わかった。じゃあ荷馬車まで案内するから、すぐに移動しよう。」
ミルコフと話しながら荷馬車まで案内してもらい、国境の近くの街まで移動を開始することにした。