第11話
本当に魔物が跳梁跋扈しているのか、疑問に思うほど旅は順調に進んでいった。最初の野営地から西に進み、いくつかの村を経由して、日暮れごろに次の街が見えてきた。戦団は今日の野営地をここに決めたのか、移動を停止して野営の準備を始めた。所々で商人が護衛を引き連れて街に入っていくのが目に映った。やはり何処も考えることは同じのようだ。
自分の天幕が用意されると、とりあえずは荷物を片付けて、身形を整えるとミルコフに声をかける。
「ミルコフさん、自分もここの商業ギルドに用事があるので、ついてきてもらってもいいですか?」
「ヴァッフェさん、もちろんですよ。ただ俺達の天幕が用意できるまで、少しの間だけ待ってもらってもいいかい?」
「それぐらいなら、大丈夫ですよ。そんなに急いでいるわけでもないので。」
「ありがたい。それなら、少し待っててくれ。」
それだけ話すと、ミルコフは自分の天幕の準備に戻っていった。仕方が無いので、少しの間荷馬車の近くで待つことにした。この後商業ギルドに行って偽名の身分書の発行と情報収集を同時並行で行わなければならない。しかし、身分書の発行をする際には、周りに気を配らなければならないだろう。どこで、この戦団についてきている商人がいるかわからないからだ。どう対策をしたのものかと、あれこれ思案していると、ミルコフが戻ってくる。
「ヴァッフェさん、待たせたな。こっちの準備は完了したぞ。」
「いえいえ。こちらこそ、急かしてしまったみたいで、申し訳ない。」
「なに、ヴァッフェさんを一人で行かせると、後で団長に怒られかねない。だから、こちらのことは任せて、行ってこいだとよ。」
「それは、申し訳ないですね。でも、私の用事はすぐに済むので、すぐに戻ってくることになりますが。」
「それならそれで大丈夫さ。とにかく門が閉まる前に用事を済ませようか。」
ミルコフに促され、入門する列に並ぶ。時間はさほどかからず、街の中に入ることが出来た。周りの流れに乗って街の中央付近までたどり着くと、商業ギルドの看板を発見することが出来た。そこで、ミルコフには外で待ってもらうように言うと、いともたやすく同意を得ることが出来た。本来なら、中まで一緒に行くのだろうが、ミルコフは自分が行っても邪魔になるだろうと思ったのか、外で待つことに同意してくれた。
そうして、第一関門は簡単に突破することが出来た。次の関門、他の商人に気づかれず偽名の身分書を入手することだ。ここで、躓くと後々問題になりかねない。細心の注意を払いながら、受付に向かう。受付で身分書の発行手続きを進めると、どこかで見たことがある商人が近づいてくる。これはまずいと思っていると、自分の隣の受付で何かの手続きを始めた。これは好機と素早く発行手続きを終わらせることが出来た。
手続きが終わり、情報収集も早々に終わらせ、この場を去りたかったが先ほどの商人が近づいてくる。これは話かけてくるに違いないと、半ばあきらめてそちらに顔を向けることにした。
「こんばんは。貴方は先ほど戦団にいた商人殿でよろしいか?」
「こんばんは。そうですよ。貴方も同じ戦団にいた方ですか?」
「そうですよ。私は食料の補給のついでに、商業ギルドに情報を聞きに来たのですが、貴方も同じなのですか?」
「ええ、ただし情報を聞こうにも周りも同じなようで、何処も話を聞こうにも聞けない状態で、あきらめて帰ろうと思っていたところですよ。」
「なるほど。ならば一緒に戻りますか?見た所護衛をつれていないみたいですし。」
「それはご心配なく、商館の外で待機していますから。」
「なら、大丈夫そうですね。それでは、私はこれで。」
と軽く話すだけにとどまり安堵する。これで、名前でも聞かれたら面倒な事になりかねなかったが、これで偽名の身分書発行は無事に済んだ。後はミルコフと合流して、野営地に戻るだけとなった。外に出ると案の定暇そうに待っているミルコフがおり、声をかけて一緒に戻ることになった。
情報収集は出来なかったが、当初の目的である身分書は手に入れることが出来た。多少の厄介事はあったけれど、これでこの街での用も済んだ。
帰り道に市場の調査をしながら、ミルコフの勧めで嗜好品をいくつか買い揃え、旅団が待つ野営地へと戻ることにした。野営地に戻るとすでに食事の準備も整っており、昨日と同じ面子で食事をとり、今日は団長に呼ばれなかったので、早々と自分の天幕で就寝することにした。