穢される『正義』
カンナたちを『家畜』だと言ったボブゴブリンは、ゴブリンたちに目配せだけをして部屋から出て行ってしまった。扉からガチャンッと鍵が閉まる音が鳴り響く。
それからのゴブリンたちの動きは素早かった。
カンナが逃げる隙を与えず、三匹がかりで両腕や足を押えられる。振りほどこうにも体重を乗せられており抵抗することも起き上がることもできない。
ドスッ。
「う゛ッ」
ゴブリンはカンナの動きを止めようと、その太い拳を腹に叩き込んできた。
呼吸が苦しい。
頭上には醜悪な笑みを浮かべたゴブリンたちの顔。生ぬるい鼻息がカンナの顔や肌をおそう。
「グフ。グフフッ」
――気色が悪い。
ベチャッ。
一匹の口から垂れたよだれが、カンナの肩甲骨にかかる。粘りついたよだれが肩からしたたり落ちるのを感じる。気持ち悪いが、ゴブリンのいやらしい顔から目が離せない。
恐怖と悪寒が全身を覆い、涙が溢れそうになる。
――くさい。
――こわい。
――逃げたい。
――なんでこんな目に。
――もういやだ。
「きゃああああッ」
諦めかけたカンナの耳に一人の少女の叫び声が届く。
ファビオラだ。
ランプの光のおかげで見たくもない光景が見える。ファビオラもまたゴブリンに押し倒されていた。
「いやだ。いや。いや。いやあッ」
十二歳くらいの少女でも、自分がこれから何をされるのか理解しているのだろう。泣き叫び必死に抵抗しているが、無情にもズボンを無理やり脱がされ、健康的な褐色の生足が剥き出しになっている。
「ごめんなさい。ごめんなさい。……ひィッ!」
ファビオラの懇願を無視したゴブリンは、瑞々しい彼女の足にしゃぶりついた。
「んッ。……やだ! グシュッ。いやあ」
羞恥か。悔しさか。
いやその両方だろうか。顔を真っ赤にして涙を浮かべる彼女の顔は、何故かとてもいじらしく、同性のカンナでさえもドキッとしてしまう。
ましてや強欲なゴブリンたちなら。
「ググフッ」
カンナを拘束する力が弱まった。気が付くとカンナを押えていたゴブリンたちが次々とファビオラの方へ引き寄せられていく。
「や! ひゃんッ。やめてッ。おねがい。ママあ……」
「グッ。グッ。グフフ」
複数のゴブリンを相手に、ファビオラはなすすべがない。
部屋に響く少女の悲痛な叫びと下劣なモンスターの笑い声。
首筋を乱暴に舐めまわし、発展途上の胸元をまさぐり、欲望の限りを尽くす低俗なゴブリンたち。
ついにはショーツを引きちぎられ、丸見えになったファビオラの小ぶりなお尻に手をかけられようとしている。
ゴブリンの行動がエスカレートするにつれて、ファビオラの悲鳴は次第に小さくなっていき、いまでは泣き声で母親を呼び続けている。もう抵抗する気力も残っていなさそうだ。
カンナは、その光景を見て安堵していた。
ボブゴブリンたちから負わされた傷はひどく、抵抗することはもう難しい。何よりこのおぞましい状況を目前にして恐怖で足が動かない。
だが、ファビオラが蹂躙されている間だけは自分は無事だ。自分の番になる前に、舌を噛んでこの地獄から逃げ出そう。
――逃げ出す、か。
転生して早々に世界からリタイアだなんて。
カンナは苦笑する。
転生指導官とかいう、あのうさんくさい公務員にまた怒られそう。
せっかく『勇者』適性の判定をもらえたのに、って。
『勇者』かあ。か弱い少女一人救えないくせに。バッカみたい。
そもそもなんで転生することに、いや死ぬことになったか思い出せよ。
凄惨な現実から目を背けるように、カンナは転生前、日本でのことを思い出す。