ケンカをするときは周囲をよく見て
3話目です。
やっと魔人族登場。
「ただでさえモテないのに、これじゃあ当分彼女は無理かなあ」
お店中から注がれた冷たい視線を思い出して憂鬱な気分になりながらも、竜車や馬車用に舗装された道路をカンナの手を引いて走る。
人通りの多い大通りを避けて市場の中心から外れたところまで走り抜けると、カンナが手を振りほどいてきた。
「はあ、はあ……。な、なんなんですか! 急にお店を出て走り出してっ。んっ。わたし、まだ話の途中だったんですよ!」
息を整えながら、カンナが抗議してくる。走り続けて紅潮した顔から漏れる吐息が色っぽさを感じさせる。
「……まあ、この辺まで来たらいいか」
しかし、今はカンナの色気よりもはっきり言っておくことがある。
マサヒロは周囲を窺って誰も聞いていないことを確認すると、カンナに向き直る。
「お前はなんなんだよ! 喫茶店で急に叫んだり泣き出したり! しかも魔人族批判だと? 俺の公務員人生を終わらせる気か!」
カンナを人差し指を突きつけながら、一言一言に怒りを込める。
先ほどまで威勢のよかったカンナも、マサヒロが激昂するとは思ってなかったのかたじたじとなっている。
「だいたいなにが勇者だ。ちょっと走ったら息切れをするわ。すぐに泣きわめくような奴に勇者が務まるわけがないだろ!」
「……ッ!」
さすがにカチンときたのか、カンナもようやく反論する。
「たしかに、お店の中で叫んだり泣いたりしたことは悪いと思ってます。反省します。……でも、勇者に向いてないなんてあなたに言われる筋合いはありません! あなたはただの公務員でしょう? わたしは勇者適性を公式に認められているんです。あなたに勇者のなにがわかるんですか!」
今度はマサヒロが押される番だ。
「いや、それは……。と、とにかく! 俺にはおまえが向いていないことがわかるんだよ!」
「なんですかそれ。根拠も示せないなんてそれでも公務員ですか」
ここぞとばかりにカンナがたたみ掛けてくる。
「だいたい、魔人族なんて勇者であるわたしにかかれば……」
カンナはそれ以上言うことができない。
マサヒロが後ろから右手でカンナの口をふさぎ、左手をお腹に回したからだ。
「んーっ!」
恐怖の混じった目で「なにをするんだ」と訴えてくるカンナに対して、マサヒロは小声で囁く。
「ゴブリンだ」
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