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事務的な対応がまずいときもある。

2話目です!

かわいい女の子を想像しながら書くのは楽しいですね

「この世界に『勇者』は要らない。人間は『魔王』に屈したからね」


 我ながら淡々とした冷たい口調だったと思う。だがこれが仕事だ。

「……ッ」

 対面に座る少女――カンナは、ひどく衝撃を受けた顔をしている。


「……魔王に屈した? だから魔王を倒す必要はない?」

 カンナの透き通るような白い顔はショックで青く染まっている。

 かわいそうだが、事務的にやるしかない。

「そう。いろいろ思うところはあるかもしれないけど、魔王や魔人族と争わなくなったおかげでこの国は平和だしさ。仲良くやっていく必要があるの。そうなると魔人族が嫌がる勇者って職業は邪魔なだけなんだよね」

 カンナは俯いたまま反応はない。

 事務的に、事務的に。

「……ま、まあ、だからさ。悪いことは言わないから、勇者以外の職業を選んでみない? 若いからいろんな職業を目指せると思うよ!」

「………………いよ」

「女性だから、看護師さんや巫女さんとか」

 事務的に対応したいと思うが、焦って変なことを口走っているのが自分でもわかる。

「あ、女優やダンサーもいいかも! 可愛いんだしさ。……って。え? なにか言った?」

 顔は相変わらず俯いたままだが、カンナの肩がぷるぷると震えている。

「………………かしいよ」

「え? なに? よく聞こえないよ」

 

 カンナが突然顔を上げた。

 ぷくーっとほっぺを膨らませて涙をためた瞳でまっすぐにマサヒロを見据えてくる。


 あ、まずい。

 マサヒロが気付いたときには、カンナは息を大きく吸い込んでいた。


「やっぱりそんなのおかしいですよっ!!!!」


 そして吐き出す。

 

 静かな喫茶店に響く本日二度目の少女の叫び。

 その少女の瞳からは涙がこぼれそうになっている。


 もう言い逃れはできそうにない。

 周囲から冷たく突き刺さる視線。アイゼンラント王国広しと言えども、この瞬間、女性の好感度ワースト争いで独走状態に入ってしまったことがわかる。噂はすごい勢いで王都中を駆け巡るだろう。

 終わったな。安定した公務員生活。


 マサヒロがこれからの人生に思いを馳せている間も、カンナの懸命の訴えは続く。

「おかしいじゃないですか! 転管(てんかん)でこの世界のことは一通り聞きました。今まで多くの人や亜人が魔人族のせいで苦しい思いをしてきたんでしょう! 大勢の人が殺されたり食べられたりしたって……」

 カンナの熱い思いを聞きながら、マサヒロは内心舌打ちをする。

 転管の奴ら、この世界のことを教えときながら、肝心要の『現在の人間と魔人族の関係』については説明を端折りやがったな。後で正式に抗議してやる。

「……それなのに、魔王の力に屈して魔人族の言いなりになってるなんて! 死んでいった人たちが報われません!」

 正義感の強いまっすぐで面倒くさいタイプの子だなあ。

 マサヒロは苦笑する。こういうタイプの子なら、転管がきちんと説明をせずに、こちらに押し付けたのわかる気がする。

 気持ちはわかるってだけで、抗議はするが。


「辛い思いをしている人たちが……」

 放っておくといつまでも続きそうなカンナの熱弁を手で制す。

 これ以上、店中の非難の視線に耐える自信はなかったし、何よりもカンナの身が危険だ。

 公共の場で魔人族の批判をすることがどれだけ危険か彼女は知らない。


 何か言いたげなカンナの手を引いてスマートに会計を済ませてお店の外に出る。


 若い女性店員さんからのゴミを見るような目はご褒美だと受け取っておこう。

 でないと、病気で休職してしまいそうだ。



 





 

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