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勇者なんて要らない!?

楽しく読んでいただけたら嬉しいです!

次の話もすぐに投稿します。

「そんなのおかしいです!!」


 ダンッ!


 勢いよく叩かれたテーブルの上でグラスがぐらぐらとゆれる。

 王都の官庁街に位置する静かな喫茶店に少女の声が響き、店中の客や店員の視線がこちらに集まっているのがわかる。


「別れ話かしら」

「ああいう場合、悪いのは男に決まってるわ」

「あんな可愛い子を裏切るなんてサイテー」


 勘弁してくれ。

 喫茶店中の女性陣から身に覚えのない非難の目を向けられている青年――マサヒロ・スオウは、綺麗な顔を真っ赤にして怒る目の前の少女を見て心中で毒づく。

 相手が少女であることを考慮して、最近若い女性に人気らしいこの喫茶店を選んだのは間違いだったか。

 悔やんでも後の祭りだが。


 しがない公務員であるマサヒロにとって悪い評判を立てられることは死活問題であるため、少女を座るように促す。

「まあ、落ち着いて。一度周りを見てみようか」

 マサヒロの発言でようやく自分が悪目立ちしていることに気付いた少女は、恥ずかしそうに席に座り直す。

「……すみません。取り乱しました」

 伏し目がちに反省の弁を述べる少女の顔はピンク色に染まっており、嗜虐心をそそられるほどに可憐さを増している。


 しおらしくしていれば可愛らしいじゃないか。

 少女への評価を改めつつ、マサヒロは少女のステータスカードを見る。

「うん、君の気持ちはわかるよ。ただこっちも仕事だからさ。とりあえず、君の簡単なプロフィールを改めて聞かせてもらおうか」

「……はい。名前は、カンナ・サガミ。年齢は十五歳。転管(てんかん)での適性職業判定は『勇者』でした」

 素直に自己紹介するカンナの答えとステータスカードに相違がないことを確認してため息をつく。


 アイゼンラント王国転生者管理局――通称・転管。


 新たに異世界転生を遂げて入ってくる転生者たちを管理する公的機関だ。

 転管では、増えてきた転生者の管理だけでなく、適性職業や能力の判定も行っているのだが、時々『勇者』や『聖戦士』といった職業に判定される不幸な転生者がいる。


 かわいそうなことに、目の前にいる彼女もその不幸な判定を受けた転生者の一人だ。『勇者』なんて大役を与えられた転生者は、全員最初は目を輝かせて栄光ある未来と熱い使命感に身をたぎらせるが、すぐに現実を知ることになる。


「あの、それで、さっきの話なんですが」

「ん?」

 カンナは先ほど悪目立ちしたことで周りの目を気にしているのか、か細い声でおずおずと話しかけてくる。

「ほんとなんですか? ……『勇者』にはもう仕事はない、って」

「ああ。本当だよ。この世界に『勇者』は不要だ。……人間は『魔王』に屈することを選んだからね」


 全ての『勇者』転生者は現実を知って大きく落胆することになる。

 転生してすぐに栄光ある未来や熱い使命感を失った彼らが、自暴自棄に走らず、この世界になじむように指導する。

 それが、転生指導官(てんせいマスター)――通称・転マス(てんマス)であるマサヒロ・スオウの職務だ。

 


 


 

  

  

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