朝、出かける前 /電車に乗って
まずは電車に乗って、ちょっと遠出をしなければならない。
駅で切符を買って、1時間、電車に揺られる。
ビルの群れから、やがて山が見えるようになる。
そして降りる。
「ふう~っと。寒さが身に染みるなぁ」
目の前にはさびれた商店街。
用事があるのは、目の前の高い山だ。
商店街に入り、店であったかいココアとコーヒーの缶を買った。
山へ入る前に、珍しい光景を目にした。
そこにはお地蔵さんが一体あり、熱心に拝んでいるのはまだ若い女の子。
女の子は私の気配に気付き、顔を上げた。
…多分、同じ歳ぐらいだろう。
でも眼の強さが、印象的だ。美人だし。
「こんにちは」
キレイな声と、にっこり笑顔を向けられた。
「こんにちは。随分、熱心に拝んでいるんですね」
私も女子高校生モードを振る舞う。
「ええ…。お地蔵さんを見ると、手を合わせちゃうのが私のクセで…。おかしいわよね?」
「そんなことないですよ! 確かに今時珍しいですけど、悪いことじゃないですし」
「悪いこと…」
女の子は口の中で呟くと、暗い表情になった。
なっ何かマズイことを言っただろうか?
「…そうね。悪いことじゃないなら、続けても良いわよね?」
「はっはい。そう、思います」
たどたどしく答えると、女の子は笑みを浮かべた。
「そうね。ありがとう」
そう言って、女の子は駅に向かって歩き出した。
やれやれ…。
…随分と珍しい人に会った。
彼女はお地蔵さんに愛されている。
それこそ、強い加護を受けていると言っても良い。
お地蔵さんを拝むことがクセになっていると言っていた。
それが良き方向へと向かったのだろう。
田舎住まいの人なら、何度かお地蔵さんの加護を受けている者を見たことがあるが、彼女は都会育ちに見えた。
それでもなお、アレだけ強い加護を受けているということは…単純にお地蔵さんの好み、なんだろうな…。
彼女、美人だし。しっかりしていそうだし。
…最近の神様は、面食いになったものだ。
思わず遠い目になってしまう…。