(7)12時 マミちゃんと大学練習船
廊下に出るとミフユは大井さんに改めて声をかけられた。
「古城さん、この後どこ回るの?」
「研究紹介に行くつもりだけど」
「私もなんだ。よかったらこの後一緒に回らない?」
「あ、それはうれしいかも。じゃあ、私の事はミフユか冬ちゃんって呼んで」
「じゃあ、私の事はマミで」
「わかった。マミちゃん。時間ないよね、急ごう」
そう言い合うと二人は研究紹介の教室へと急いだ。
二人が大きな教室で受けた研究紹介は時間通り45分ほどで終わった。学校におられる先生方やその研究の幅広さには二人とも驚かされていた。
そして二人は大学の教育、研究の凄さはそれでさておいて、ある重要課題で盛り上がった。
「お昼の時間だけどあんまり時間がないよねえ。練習船は去年午前中の体験航海で乗ったんだけど、また見学したいし」
マミは何か思いついたらしく右の人差し指を立てた。
「冬ちゃん、まだ我慢できるんだったら帰りに美味しいパンのお店があるからそこで買ってね、公園で食べない?そうすれば時間取れるんじゃない?」
「あ、それ、興味ある!うちって両親も妹もそして私も美味しいパン屋さんの情報は目がないから食べてみたい」
「深江丸の見学は私もしたいし。じゃ、決定!」
コース別説明会の前に二人は学内岸壁に係船している練習船に行った。タラップを上っていくと船長が見学者を出迎えていた。
一昨年、ミフユが妹と祖父の写真を調べにきた時に出会った自称「通りすがりのおっちゃん」が実は船長だった事は翌年夏のオープンキャンパスの体験航海で再開して知っていた。喰えないおっちゃんというのがミフユの老船長の印象だったが嫌いではない。
「船長、今年も来ました。よろしくお願いします」
ミフユが元気よく船長に挨拶をした。白い夏の半袖シャツの制服で正装の船長はニヤリとした。
「古城さん、今年も来たって事は受ける気満々って事やな」
「今のところはそのつもりです。こちらは今日一緒に航海マネジメントコースの説明を聞いて回っている大井マミさんです。マミちゃん、この人、そうは見えないけど実はこの船の船長だから」
ずっこける船長。マミは思わず笑ってしまった。
「おーい、古城さん。そう見えたとしてもそこはダンディな人とか言ってくれや……おっちゃんがこの船の船長をやってるんやけど、ゆっくりして行ってや。本学に入ればたっぷり乗船実習の機会もあるしな」
「大井マミです。ありがとうございます。じっくり見学させて頂きます」