(6)11時 航行研究室
航行研究室でも責任者のスーツ姿の教授が待っていてくれた。まだ40歳台ぐらいの「若手」研究者だった。ミフユ自身、母親が大学の研究者でもありその同僚の人達と会う機会もあるのでなんとなくそういう感覚で見る所があった。
「今日は航行研究室の見学に来てくれてありがとう。ここの研究室では電子海図関係から自動操船まで研究を進めています。なので情報通信系や法律上の観点の研究をしている人達とも連携していて幅広い知見を探っている。今、国際海上輸送を担っている貨物コンテナ船の乗員数は何人か知っている人はいますか?」
高校生たちの中から数名手を挙げた。ミフユが横を見るとマミも手を挙げていた。
「じゃ、そちらの女子生徒さん、答えてくれるかな」
当てられたのはマミだった。
「はい。概ね20名以下です」
教授は笑顔だった。
「ご名答。大型のコンテナ船、タンカーでも20名を越えることはまずありません。海上輸送コストの削減のため自動化が進んでいるお陰です。という事で正解を答えたこちらの人にみんな、拍手」
教授と最上さんやゼミの学生の人たちが拍手するとミフユも他の高校生と一緒に拍手した。
最上さんは教授に対して水を向けた。
「そこに無人航行船を目指す理由があるのですよね、教授」
最上さんに頷く教授。
「そう、その通り。貨物船やタンカーの乗員をさらに減らす、場合によっては入出港や荷役作業以外の航行期間は無人で運行する事が出来ないのか。それがこの研究室の最大のテーマです。人件費は安くはないので入出港や荷役時のみ乗船するチームを編成できれば、港周辺に居住して通勤して仕事が出来る。長期航海での拘束を減らせるし休養調整も減るのでクルー総数も減らせる。会社も乗組員も良い事が多い」
ミフユは教授や最上さん達の研究内容の説明を聞いていて船の仕事を携わるとしたら目指す船種、就職先まで見据えて考えないと航海中の緊急時に備えた監視員か入出港・荷役時にのみ乗り込む乗員になるしかなくなるだろうなと感じた。それは私の望む事じゃない。
マミは無人航行という技術に興味が引き寄せられた。海の仕事をしたいという願望はあるけど、私は作ることにもかなり興味があるという自覚は持っていた海事科学部は技術と運用などクロスオーバーする学部でもあったので入学してから考えればいいと思っていたけど本当にそれでいいのかな。
「それではこれで航海マネジメント見学ツアーを終わります。来年の春、皆さんの中には本学を受験して門をくぐる人もいるでしょう。再会の時にお祝いの言葉を言える日を楽しみにしてます」
教授がそう言うと最上さんと二人で高校生達を研究室から送り出してくれた。